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高齢親の認知症などを理由に親の資産を子が管理するというケースは多いでしょう。もしそうした状況で、親の資産を子が勝手に使ったら……。本記事では、Cさんの事例とともに、「預金の使い込み」による税務調査について木戸真智子税理士が解説します。

認知症の母の通帳から毎日出金

78歳になる母Aさんは、認知症を患っており、5年前から認知症ケアの介護施設に入所していました。介護施設探しに難航し、決まったところは、もともと住んでいた自宅からとても遠く、新幹線で行き来する必要があるような距離でした。しかし、Aさんの生まれ故郷から近くもあったため、親族とも交流ができるということで、穏やかな日々を過ごしていました。

Aさんには、一人息子のCさんがいます。Cさんは43歳でAさんが介護施設に入居するまでは実家に一緒に暮らしていました。現在は、Cさん一人で実家に住んでいます。Cさんはもともと教師をしていたのですが、職場環境が合わず、悩んでいるところに、父親のBさんが亡くなり、Aさんが一人で暮らすことになるというきっかけもあり、退職して実家に戻りました。

Aさんには夫が亡くなったときに受け継いだ資産がありました。代々受け継いできた不動産収入と株式など、資産管理が必要になり、退職して実家に戻ってからは、Cさんが手伝うように。

Cさんは教師を退職後、しばらく無職でした。しかしAさんが施設に入所してからは、自宅近くのコンビニでアルバイトをするようになります。そうはいっても、月に15万円ほどの収入だったため、生活費としてはギリギリ。Aさんの資産管理をしながら、またAさんの様子を時々見に行けるような状況にするためという理由もあり、フルタイムで働くことは難しいと思ってのことでした。

生活費が足りず…

Cさんは、自分の収入だけでは足りないことも多く、管理しているAさんの通帳からお金を引き出してそれを自分のために使うこともよくありました。職場がコンビニということもあり、引き出してから、自宅に帰るということが日課になってしまっていたのです。

Aさんが介護施設に入所してからは、距離があるものの、定期的に様子を見にいっていました。時々話すことは相続のこと。父親であるBさんが亡くなったときは配偶者控除の税額軽減があったため、税額はおさえられたのですが、Aさんに万が一のことがあれば、次は相続税が高くなるだろうという話です。

そんな生活がしばらく続きましたが、ある日……。

母が亡くなって…

Aさんは残念ながら介護施設近くの病院で亡くなってしまいます。Cさんはいよいよ天涯孤独となり、孤独な気持ちを抱え込みます。自宅で過ごすことが増えていきました。気力を奮い立たせて、Aさんと生前話していた相続について名義変更や申告の手続きをギリギリながらもどうにか済ませて、日常生活を取り戻す努力をしていました。

それから2年近く経ったある日、税務署から一本の電話がきました。

なんと、税務調査が来るというのです。Cさんからすると、「いまごろ、どうして?」と特に思い当たることもないまま、当日を迎えます。

税務調査当日

調査官が相続財産の資料や通帳を見ていたところ、「このほとんど毎日引き出されている出金について、内容を教えてください」と言われました。

Cさんはどうしてそんなことを聞くのだろうと思いました。それと同時に、ほとんど毎日引き出している認識はまったくなく、通帳を見返す習慣もなかったため、調査官に言われてようやく自分でも見返すと、自分のことながら驚くほどに毎日のように引き出している履歴がありました。

一つひとつの引き出し金額が多いわけではないのですが、毎日なので1ヵ月の合計金額にすると、かなりの金額になっていたのです。

「出金の内容」と言われてもなんとも言えず、言えることとしたら「母親の介護施設の行き来や必要なものの購入などに使っていました。金額としてはそんなに使った覚えはないのですが」ということがやっとでした。

とはいえ、引き出したATMはCさんの職場であるコンビニで、そしてほとんど毎日となると、それだけではないことはあきらかでした。引き出しが始まったのは3年半前で、そこからだんだん引き出す頻度も多くなり、気づけば日課になってしまっていたのでした。

その額は4,000万円を超えるほどになっており、Cさんにとっては、これが当たり前の毎日になってしまっていたことから、相続税の申告にも含めていませんでした。

驚愕の追徴課税額

金額からしても、通常の生活費や必要経費とは考えられないほどの金額になっていることから、不当利得返還請求の可能性も調査官は指摘しました。

不当利得返還請求とは、不当に利益を得る行為により、他者に損害を与えた場合に、その分を返還してもらうように請求することを言います。相続に関係するケースでいうと被相続人の現預金の使い込みや被相続人の収入を勝手に受け取るなどの行為が挙げられます。

加えて、引き出しは、Cさんが働くコンビニで日常的に引き出されていたこと、Cさんの収入状況、Aさんの介護施設が遠く、日常的に会うことが物理的に困難であることなどから判断してもCさんが使っていたということが状況としてあきらかでした。

金額からしても生前贈与となり、相続財産の申告漏れとして指摘を受けることになりました。追徴課税としてはなんと約800万円。相続財産を引き継いだとはいえ、予想外の納税額にCさんは困ってしまいました。

家族間で、相続について話し合うこと、資産について確認をすることは大切なことです。しかし、うっかりとんでもないところで見落としがあるため、少しでも疑問に思うことがあれば、専門機関や専門家に事前に相談しておくことをおすすめします。

木戸 真智子

税理士事務所エールパートナー

税理士/行政書士/ファイナンシャルプランナー