親や祖父母が「変形性膝関節症」の家庭に教える治療法・手術内容【医師監修】
高齢者に多く発症する変形性膝関節症。進行すると歩行が困難になるなど日常生活に大きな障害が出ます。そのため、できるだけ早期に治療を開始するのが理想ですが、もし症状が進んでから治療をする場合にはどのようなことを行うのでしょうか? 重症度別治療法について、あおき整形外科リハビリクリニックの青木先生に聞きました。
≫【イラスト解説】医師が教える40代からの「膝」の痛み予防と治療法監修医師:
青木 隼人(あおき整形外科リハビリクリニック)
2010年3月東京医科歯科大学医学部医学科卒業。2013年4月東京医科歯科大学整形外科教室入局。以後関連施設にて勤務 (日産厚生会玉川病院、九段坂病院、多摩北部医療センターなど)。2021年3月東京医科歯科大学大学院応用再生医学分野修了。2021年4月北水会記念病院整形外科医員。2023年6月花みずき会保谷厚生病院整形外科部長。2024年5月より現職。
変形性膝関節症とは?
編集部
変形性膝関節症とはなんですか?
青木先生
膝の軟骨や半月板がすり減って関節の隙間がなくなり、骨に負担がかかることでさまざまな症状を引き起こす疾患のことを変形性膝関節症といいます。2009年の報告によれば日本人全体で変形性膝関節症の患者数は2500万人と推定されていますが、高齢化が進んでいる現在ではもっと多くなっていると考えられます。
編集部
なぜ、変形性膝関節症は発症するのですか?
青木先生
主な原因は関節軟骨の老化です。膝は太ももの骨(大腿骨)と脛の骨(脛骨)で構成されていて、骨の表面には軟骨があり、骨と骨の間にはクッションとなる半月板があります。これらの組織が老化によりすり減ることで、変形性膝関節症が発症すると考えられています。
編集部
そのほかに原因はありますか?
青木先生
老化のほか、肥満も膝関節に負担をかけることから、変形性膝関節症の大きなリスクになります。また膝関節を支える筋力が弱いことから、男性に比べて女性に多く発症しやすいとされています。
編集部
肥満の人以外に発症しやすい人はいますか?
青木先生
膝に負担のかかる仕事をしている人(重労働の人など)も発症しやすいとされています。それから外傷に伴う骨折、軟骨や半月板、靱帯などの損傷、化膿性関節炎などの感染の後遺症も発症の原因になります。
初期の場合の症状と治療法は?
編集部
変形性膝関節症を発症すると、どのような症状が出現するのですか?
青木先生
初期では立ち上がったり、歩き始めたりといった動作を開始するときに膝の痛みが出現します。違和感を覚えることもありますが、安静にしているときには痛みなどの症状はありません。
編集部
初期ではどのような治療が行われるのですか?
青木先生
症状が軽い場合にはまず、運動療法を行います。具体的には大腿四頭筋強化訓練や関節可動域改善訓練などの運動療法を行って、膝のコンディションの改善を図ります。日常生活に支障が出ている場合には、痛み止めの薬を内服したり、外用薬を使用したりするなど、薬物療法を行います。
編集部
中期以降ではどのような症状が見られますか?
青木先生
中期以降になると、安静にしても痛みなどの症状が見られるほか、正座や深くかがむ動作、階段の上り下りなどが、痛みのために可動域制限が出現します。膝関節の炎症が進み、関節液の分泌量が増えて、いわゆる「膝に水がたまる」状態になります。また、膝の変形も目立ち始め、O脚が進みます。稀にX脚が見られることもあります。
編集部
中期以降ではどのような治療が行われるのでしょうか?
青木先生
初期と同じく、運動療法で膝のコンディションをよくしたり、薬物療法によって症状の改善を図ったり、炎症や痛みを抑えたりします。ただし、保存的治療で効果が乏しい場合には手術も検討します。
変形性膝関節症の手術について
編集部
変形性膝関節症の手術には、どのようなものがあるのですか?
青木先生
病態によって手術の術式を検討します。まだ変形が少なく、半月板に異常がある場合には関節鏡(内視鏡)手術を行ったり、自分の骨を生かす骨切り術を行ったりすることもあります。骨切り術は関節近くの骨を切り、関節の傾きを調整することで体重がかかる部分を変更し、膝の負担を軽減する治療法です。
編集部
そのほかにも手術はありますか?
青木先生
人工の膝関節に置き換える「人工膝関節置換術」もあります。特に関節の変形が進んでいる場合には、この手術が適応となることが少なくありません。人工膝関節置換術は傷んで変形した膝関節の表面を取り除き、人工関節に置き換える手術のことで、全部置き換える方法と部分的に置き換える方法があります。
編集部
骨切り術と人工膝関節置換術は、どのようにして使い分けるのですか?
青木先生
主に骨切り術は初期の場合に適応になります。変形がそれほど強くなく、自身の関節面を残せる場合には骨切り術を行います。ただし、骨切り術の場合には骨が癒合(正しくつながること)するプロセスが必要になります。そのため一般的には、骨切り術は変形性膝関節症を抱える中では比較的若い人に行われる傾向があります。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
青木先生
変形性膝関節症は必ずしも手術になるのではなく、まずは運動療法で筋力を鍛えたり、歩き方を工夫したりすることで痛みを減らすことを目指します。特に高齢者の場合、全身状態によっては手術が難しいこともあります。そのため、積極的に運動療法を継続してほしいと思います。痛みなどのために安静にしていると筋力が落ち、かえって症状が悪化することもあります。しかし、そうした保存的治療を行っても症状が軽減しない場合には、タイミングを逃さず手術に踏み切ることも大切だと考えます。体力面や手術後の回復などを考えると、遅くとも80歳前後で行うことをお勧めします。ただし、90歳を超えても手術を行い、その後元気に過ごしている方もいらっしゃいます。変形性膝関節症の手術は非常に洗練されており、満足度が高いものです。手術を躊躇する人も少なくありませんが、今後の人生を考え、適切なタイミングで手術に踏み切ってほしいと思います。
編集部まとめ
高齢者に多く発症する変形性膝関節症。最近では技術の進歩により、人工膝関節のクオリティも非常に向上しています。手術は避けたいと思う人もいるかもしれませんが、旅行や運動など、これまでできなかったことが手術によってできるようになるかもしれません。保存的治療を行っても効果が見られない場合には、適切なタイミングで手術を検討することが大切です。
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