「乳がんを全摘出」するメリット・デメリットはご存知ですか?生存率も医師が解説!
乳がんを全摘出する治療法とは?Medical DOC監修医が乳がん全摘出の条件・全摘出のメリット・デメリット・ステージ別の治療法・治療期間・費用・再発率などを解説します。
≫「乳がんの手術後」に気を付けたい日常生活の注意点とは?【医師監修】監修医師:
山田 美紀(医師)
慶應義塾大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、総合病院や大学病院にて形成外科、外科、乳腺外科の研鑽を積んできた。医学博士。日本外科学会 外科専門医、日本乳癌学会 乳腺認定医、検診マンモグラフィー読影認定医(A判定)の資格を有する。
「乳がん」とは?
乳がんとは乳腺に発生する悪性腫瘍です。女性がかかるがんの中で最も多いものです。乳がんの治療は、手術や放射線などの局所治療と薬物による全身治療を組み合わせて行います。
乳がんを全摘出する条件
しこりが大きい
乳房の大きさに対して、しこりが比較的大きい場合に全摘出をおすすめします。「何cm以上で全摘出する」という明確な基準はありません。部分切除術を選択した場合に切除範囲が広く、変形が大きくなると予想される場合、全摘出を選択します。
癌が広範囲にある(乳管内進展)
造影MRIなどの画像検査で広範囲にがんが乳管内に沿って広がっていることが確認された場合、全摘出を選択します。ステージ0の非浸潤性乳管癌の場合であっても、全摘出になることがあります。
しこりが多発している
乳房内で多発するしこりが離れた場所にある場合、切除範囲が広くなるため、全摘出がすすめられます。
遺伝性乳がん
全摘出をおすすめする理由の一つに、遺伝性乳がんの場合があります。この病気では、部分切除術を行っても、温存した乳房に再発するリスクが高いためです。
放射線治療ができない
乳房部分切除術は、温存した乳房への術後の放射線照射がほぼ必須となります。膠原病の持病がある、胸に放射線治療を受けたことがある、妊娠中等、放射線治療が禁忌となる方では全摘出の適応となります。
乳がん全摘出のメリット・デメリット
メリット
全摘出をすると、がんがあったところの近くに再発をする「局所再発」のリスクが少なくなります。また、リンパ節転移がない場合であれば、術後の放射線治療に通院する必要がありません。
デメリット
乳房全摘後に乳房の再建をしない際には、乳房がないことによる精神的な辛さを感じる可能性があります。また、どうしても術後に乳房の左右差があるため、肩こりなどが生じる可能性があります。また、乳房部分切除術と比較し、入院期間が数日長くなります。
乳がんを全摘出する場合の主な治療法(手術方法)
乳房全切除術
乳房全切除術とは乳頭乳輪としこりの真上の皮膚を含むように乳腺を全摘出する手術です。乳房の前面に傷ができます。手術後に傷の中に液体がたまらないようにドレーンという管を入れます。乳腺科に約1週間入院して手術を行います。乳房再建を行う場合は、入院期間が長くなります。
皮膚温存乳房全切除術
皮膚温存乳房全切除術は皮膚を温存し、乳頭乳輪と乳腺を全摘出する手術です。乳房再建を行う場合に、しこりと皮膚の距離が十分に保てるケースで選択される方法です。乳房全切除と同様に、傷の中にドレーンという管を入れ、入院期間は約1週間です。乳房再建を行う場合は、入院期間が長くなります。
乳頭温存乳房全切除術
乳頭温存乳房全切除術は乳頭乳輪と皮膚を温存し、乳腺を全摘出する手術です。乳頭乳輪が温存されるので乳房再建をする場合に、元の形に近い乳房を作りやすい術式です。しこりが皮膚や乳頭から十分離れている場合に選択することができます。この手術も傷の中にドレーンという管をいれ、約1週間程度、乳腺科に入院して治療を行います。乳房再建を行う場合は、入院期間が長くなります。
センチネルリンパ節生検
乳がんはリンパの流れに乗って転移します。最初にがんが到達するリンパ節をセンチネルリンパ節と呼びます。センチネルリンパ節を手術中に摘出し、がん細胞があるかどうか調べます。術前の画像検査でリンパ節転移がないと考えられる場合は、乳房の手術と一緒にセンチネルリンパ節生検を行います。全摘出+センチネルリンパ節生検の入院期間は約1週間です。
腋窩リンパ節郭清
腋窩リンパ節郭清はリンパ節を含む腋窩の脂肪を一塊にして切除する手術です。手術前に腋窩リンパ節転移があると診断された場合に行います。また、センチネルリンパ節生検の結果、転移があった場合に腋窩リンパ節郭清を追加します。ただし、転移があっても一定の条件を満たせばリンパ節郭清を省くことができます。全摘出+腋窩リンパ節郭清の入院期間は約1週間です。腋窩リンパ節郭清によって、腕があげづらい、腕のむくみ(リンパ浮腫)などの後遺症が生じることがあります。
乳がんのステージ別の治療法
乳がん・ステージ1の治療法
ステージ1はしこりの大きさが2cm以下で、リンパ節転移がない段階です。乳腺外科に数日~1週間程度入院し、手術を行います。しこりが小さくてもがんが広範囲である場合や遺伝性乳がんの場合、全摘出を行うことがあります。乳房部分切除の場合は、退院後に放射線治療に通院します。再発予防目的にサブタイプにあわせて薬物治療も行います。サブタイプによっては薬物治療を手術より先に行う場合があります。
乳がん・ステージ2の治療法
ステージ2はステージ1と比べて、しこりが大きい、または脇のリンパ節に転移がある状態です。ステージ1と同様に、乳腺外科に数日~1週間程度入院し、手術を行います。遺伝性乳がんやしこりが広範囲である場合は全摘出を行います。乳房部分切除の場合は、放射線治療に通院します。また、リンパ節に転移がある場合も放射線治療が必要になります。サブタイプによっては薬物療法を手術より先に行う場合があります。
乳がん・ステージ3の治療法
ステージ3はリンパ節転移があり、しこりの範囲も広がっている段階です。手術を可能にするために、まず薬物療法を行います。手術が可能になった場合は乳腺外科に1週間程度入院して手術を行います。手術は全摘出となる場合が多いですが、薬が良く効いた場合に部分切除術が可能になることもあります。退院後、放射線治療を行います。手術後も再発予防のための薬物治療を継続して行います。手術が難しい場合は、薬物治療を継続します。
乳がん・ステージ4の治療法
ステージ4はがんが他の臓器へ転移している状態です。基本的に手術は行わず、薬による全身治療を行います。がんの進行を抑えることで症状を和らげ、QOLを保ちながら長期の生存を目指します。1つの治療を行って効果があるうちは続け、効果がなくなったら別の治療に変更します。乳腺科に通院して治療を行います。
乳がんを全摘出した場合の入院期間
全摘出をする場合の入院期間は約1週間です。同時に乳房再建をする場合は入院期間が長くなる場合があります。手術後の病理結果をふまえて、その後の治療方針を決定し、通院します。
乳がんを全摘出した場合の治療費用
乳がんの全摘出にかかる手術費用は約20万~50万円です。その他、入院費用などが加わります。保険が適用されるため、保険の種類によって窓口負担額が異なります。また、高額療養費制度を利用できるため、年齢や収入に応じた区分によって、自己負担額が一律となります。
乳がんを全摘出した場合の生存率
乳がんを全摘出した場合の生存率はステージによって異なります。手術の方法によって生存率は変わりません。5年生存率はステージ0や1ではほぼ100%、ステージ2で95%程度、ステージ3で約80%です。
乳がんを全摘出した場合の再発率
乳がんの再発は乳房やリンパ節に再発する「局所再発」と他の臓器に再発する「遠隔転移」があります。乳房を全摘出した後の局所再発率は10%未満です。そのうち、約3分の1が遠隔転移を伴っているといわれています。
乳房再建術とはどのような治療?
乳房を全摘出し、乳房を失っても、形成外科で乳房再建ができます。自分の体の一部を用いる自家組織再建と人工物(インプラント)による再建があります。自家組織の場合は、腹部や背中の組織を移植することが多いです。全摘出と同時に行う場合や、乳がんの手術から期間をおいて再建する場合があります。また、最初の手術でエキスパンダーを挿入して皮膚を伸ばし、次の手術で乳房再建を行う二期再建を行うこともあります。入院期間は自家組織再建の場合は1~2週間程度、インプラントの場合は数日です。手術費用は保険が適用されます。エキスパンダーを挿入した場合は生理食塩水の注入のために、半年程度毎月通院します。インプラントの場合は、将来的に入れ替えが必要になる場合があり、年に1回の経過観察が必要です。
「乳がんの全摘出」についてよくある質問
ここまで乳がんの全摘出について紹介しました。ここでは「乳がんの全摘出」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
乳がんを全摘出した後はどうなるのでしょうか?
山田 美紀 医師
全摘出した後は、平らな胸になります。乳房再建をすることで乳房のふくらみを作ることができます。
乳がんを全摘出した場合、入院期間はどれくらいでしょうか?
山田 美紀 医師
約1週間の入院期間です。同時に乳房再建をする場合、入院期間が数日長くなることがあります。
乳がん全摘出後、どれくらいで仕事復帰できるのでしょうか?
山田 美紀 医師
乳がんの手術後は、退院翌日から仕事復帰できます。ただし、回復具合には個人差があるため、ご自身のペースで焦らず仕事復帰することをおすすめします。
編集部まとめ
乳がんの全摘出の条件やメリット・デメリットについてご紹介しました。全摘出した場合、乳房を失うことで精神的な負担を感じる方もいます。乳房再建を行うことでそのような苦痛を和らげる可能性があります。担当医とよく相談し、手術の方法を決定することが大切です。
「乳がん」と関連する病気
「乳がん」と関連する病気は1個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
婦人科の病気
卵巣がん(遺伝性乳がん卵巣がん症候群の場合)
遺伝性乳がん卵巣がん症候群の場合、乳がんの発症リスクが高くなります。この場合は、乳房部分切除が可能な乳がんであっても全摘出を選択することが多いです。また、予防的乳房切除を行うこともできます。
「乳がん」と関連する症状
「乳がん」と関連している、似ている症状は5個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
乳房のしこり
血性乳頭分泌
乳房の変形
皮膚の赤み
乳頭乳輪のただれ
乳がんの場合、これらの症状を自覚する可能性があります。症状がある場合は、早めに乳腺科を受診しましょう。
参考文献
乳癌診療ガイドライン2022年版(日本乳癌学会)
患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版(日本乳癌学会)