脳梗塞になる前に対処をした千鳥のノブ(44)

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 スマホの使いすぎや、合わない枕の使用などで起こる首のこり。「首の後ろの痛みは甘くみてはいけません。脳に関係する病気がひそんでいるケースも」と専門医。温めたりストレッチしたりしてもなかなか治らない場合は、要注意だ。

【写真】脳卒中を早期発見できる「FAST」とは

ひと晩寝て様子を見たりしては絶対にいけない

 首のこり感が継続的に続き、頭痛や首の痛みにつながった、なんていう経験はないだろうか。そんなちょっとした首こりが、命にかかわる病気の前ぶれになることがある――。

 2022年の夏、お笑いコンビ・千鳥のノブが、1か月以上の休養をとった 。理由は右椎骨動脈解離という病による入院のため。放置すれば脳梗塞くも膜下出血をまねくおそれがある病で、異変に気づいたのは首の痛みがきっかけだったという。

「ノブさんを直接診ていないので一般論になりますが、MRIなど検査精度が格段にアップしたことでこの病気の早期発見が可能になりました。首の痛みをただの首こりと軽視しなかったことが、適切な治療につながったと思います」

 そう語るのは脳卒中の専門医、瀧琢有先生。

「首には大事な動脈が4本あります。首の後ろ側の左右に椎骨動脈、前方の左右にある頸動脈です。これら血管の壁は三層構造をなしていて、いくつかの原因で裂けたり剥がれたりすることで、動脈解離が発症します。ノブさんは軽度のようなので治療は、血管の壁を修復するための投薬と安静にする程度で済んだはず」(瀧先生、以下同)

 前述した血管の三層のうち内側の壁(内膜)が裂けて、剥がれた血の塊が脳の血管で詰まると脳梗塞に。内膜と真ん中の壁(中膜)のあいだに血が流れ込んで血管が膨み続けると、外側の壁(外膜)に穴が開いて出血。

 その後、頭蓋骨の下にある、くも膜と軟膜のあいだに出血が広がるとくも膜下出血に。脳梗塞と前後して発症する場合もある。お笑いコンビ『爆笑問題』の田中裕二は2021年に両方発症した。

「椎骨動脈は首の骨(椎骨)のなかを通っています。その部分の血管はとても細く、首に過度な力やねじれが加わると解離を起こしやすい。若い人なら例えば重量挙げで力むなど、運動中に起こすことがあります。中高年の人は、動脈硬化で血管の壁がもろくなり発症するのがほとんど。

 実は動脈解離の初期段階は、痛みもそれほど強くありません。でも、痛くないからといって首のこりと判断し過度なストレッチやマッサージで力を加えれば、動脈解離が密かに進行し、脳梗塞くも膜下出血に至ります」

 くも膜下出血になることもあるが、発症時には首こりとは違う激しい頭痛に襲われる、とよく聞くが……。

「“あ、いま始まった”とわかるほど強烈な頭痛です。その後、強弱はあっても頭位や体位をどう変えても、痛み自体が消えることはありません。その場合はすぐに救急車を呼ぶか専門病院へ。ひと晩寝て様子を見たりしては絶対にいけません」

 行き先は脳神経内科か脳神経外科がベストだが、頭痛もちの人や首がこりがちの人はどの程度の痛みで行けばいいか迷いそうだ。

「今まで感じたことのない痛みや違和感があれば、迷わず受診を。後頭部から肩にかけての強い痛みや首こりは、心筋梗塞や気胸などの大病のサインとしても現れます」

脳梗塞くも膜下出血、そして脳内にある細い血管が出血してしまう脳出血 、この3つをまとめて脳卒中と呼びます。勘違いする人が多いのですが、脳卒中は脳の病気ではなく血管系の病気です」

生活習慣を見直すことで必ず改善できる

 かつて日本人の死因トップだった脳卒中も、予防対策の広まりや技術進歩での早期発見がしやすくなり、今では第4位にまで下がってきた。

「ただ、死亡率が下がった反面、要介護者が増え社会経済的には大きな負担になっています。それに、重い後遺症や再発のリスクを抱える人が多い病であることは変わりません。何よりも予防が第一、それには動脈硬化を悪化させないこと」

 具体的にどんな対策をとれば、食い止められるのだろうか?

「動脈硬化を加速させる “主犯”は高血圧、糖尿病、高コレステロールと痛風です。特に高血圧と糖尿病は徹底したコントロールが必須。そのうえで禁酒や禁煙、極端な肥満を避けるなど、生活習慣を見直すことで必ず改善できます」

 夏の脱水症状が血管系にダメージを与えるというから、今の時期は要注意。

「ある研究では 、脳梗塞の発症者数に季節による差はほぼないそうです。ですが、近年の夏の暑さは血管系にも悪影響を及ぼしています。体内が脱水状態になると血流も悪化し、血栓ができやすくなる。つまり梗塞を起こしやすい。熱中症で救急搬送された人が脳卒中にもなっていた例は、 珍しくありません」

 高齢者はもちろん、コロナ禍からの出不精グセで筋力がすっかり衰えたと嘆く人は、とくに脱水に要注意だ。

「筋肉は水分を蓄えるので、筋肉量の少ない女性は脱水になりやすい。加齢で骨格筋の量が減少し、筋力が低下するサルコペニアの問題も無視できません。体内で最も筋肉量の多い足を動かすことも、実は立派な脱水対策です」

 脱水と同様、脳卒中の早期発見には周囲の気づきも大切だ。元テレビ東京の大橋未歩アナウンサーは34歳で脳梗塞を発症した際、顔半分に麻痺が出ていることに家族が気づき、すぐに救急を呼べたそうだ。

「脳出血と違って脳梗塞に痛みは伴いません。脳梗塞に早く気づけるよう初期症状をまとめました[上の図参照]。これらの兆候は一過性で消えることもありますが、甘く見ないこと。 脳梗塞を含めて脳卒中は再発の可能性が高いのです。例えば脳梗塞は、発症後4時間半以内なら血栓を溶かす薬が使えます。重い後遺症を出さないためにも、脳卒中治療は時間が勝負です」

 40代以降になると悩まされる首の不快症状。普段の身体的な疲れや姿勢の悪さから

「また、こってる」くらいですまさず、“身体からのサイン”を大切にしたい。

取材・文/富田ひろみ

瀧 琢有先生 医誠会国際総合病院脳神経外科顧問1983年山口大学卒業後、大阪労災病院、サンパウロ州立大学などで研修および勤務の後、関西労災病院副院長に就任。2022年からは医誠会国際総合病院脳神経外科顧問として活躍中。