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日本は地震、台風、水害など、自然災害の脅威に常にさらされています。今後いつ自分や家族が被災者になるかわかりません。来るべき時に備えてさまざまな準備をしておかなければなりませんが、どんな事態になったとしても必要になるのが「お金」です。そこで今回は、被災した時に起こりうるお金に関するトラブルとその対策、そして日頃の準備について、村井美則FPがお伝えします。

自然災害による被災は誰にとっても他人事ではない…

ここ数年、台風や線状降水帯の発生による短時間の集中豪雨・浸水といったニュースを頻繁に聞くようになりました。もともと日本の多くの都市は海や河川の⽔位より低い⼟地に形成されており、過去10年間に約98%の市町村で⽔害や⼟砂災害が発⽣しています。

また、直近では8月8日に南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)が発表されました。調査終了になるまで眠れぬ夜を過ごされた方もいたかもしれません。

実は、筆者も2019年に水害で被災した経験があります。復旧には数ヵ月を要し、自分に災害が降りかかったとき、こんなにも人間は無力なのかと思い知りました。それでも生活は続き、生きていくにはお金が必要です。水害や地震といった自然災害は日本に住んでいる限り誰でも遭う可能性があり、明日は我が身、他人事ではありません。


実際に被災すると頭が真っ白になります。それでも被災時のお金の対策について学び、その知識が頭の片隅にでも残っていれば、早く対応できる可能性があります。そこで、いくつか知っておくべき情報をお伝えしていきたいと思います。

被災して通帳や印鑑・キャッシュカードを紛失したらどうする?

災害が発生した場合、被災地域には内閣府の災害救助法が適用されます。被災者の当面の資金確保が容易にできるよう、金融庁や日本銀行から金融機関へ要請が行われます。


この要請は「災害時における金融上の特別措置」というものです。金融機関の職員も被災している場合がありますから、顧客はもちろん従業員の安全に十分配慮した上で、金融機関に対して預貯金の払戻し、手形・小切手の発行、応急資金などの融資相談、保険金の迅速な支払い、保険料の払込猶予などを柔軟に・かつ適切に行うよう要請します。


銀行では、預金通帳、証書、届印、キャッシュカードなどを災害で紛失した場合でも、本人であることを確認できる資料を店舗に持参し、本人確認ができれば支払い可能としています。例えば、ゆうちょ銀行では「運転免許証などの本人確認をできる証明書類を持っていれば、店舗・郵便局の窓口で一人20万円までの払戻しが可能」とQ&Aに明示しています。

払い出し金額の上限などは違ってくる可能性がありますが、他の金融機関でも対応はしてくれるので、まずは相談に行くようにしましょう。

「印鑑レス・通帳レス口座」のメリット・デメリット

通帳や印鑑を紛失する心配をなくすための一案として、通帳や印鑑をなしにする「印鑑レス・通帳レス口座」へ変更する方法があります。

印鑑レスにすると、窓口での出金はキャッシュカードと暗証番号だけでよくなり、印鑑を持ち歩く必要がなくなります。また、記帳のために銀行の店舗に行く必要もなくなり、入出金明細もインターネット上で閲覧することができます。銀行によってはお得なサービスを受けられる場合もあります。

こうしたメリットがある一方で、デメリットもあります。例えば、入出金明細のインターネット上での閲覧は期間があり永久的ではないため、データを保存したい方は閲覧期限前にダウンロードする必要があります。また、口座の名義人が急に亡くなった場合、口座の存在を親族が知らず、相続が遅れてしまう場合もあります。

また、印鑑レス・通帳レス口座は災害時に紛失したり悪用されたりする心配がないと言う面はありますが、残高確認等のためにはインターネットバンキングの利用が必須となります。

その際に重要なのが、口座にログインするためのIDやパスワードの管理です。筆者個人の見解ですが、IDやパスワードを紙に書くことはおすすめしていません。紙を紛失した場合のリスクは極力排除する必要があるからです。そうなると別の方法でIDやパスワードの管理する必要がありますが、すべてを覚えておくというのは至難の業です。

では、どうすればいいのでしょうか。例えば、三井住友銀行では「SMBCデジタルセーフティーボックス」という機能を使うことで、IDとパスワードを自分だけが見られる状態で保存することができます。万一の際は家族も確認できます。月額料金はかかりますが、こういったサービスを使うのも一案です。

その他の方法としては、スマートフォンやパソコンで生体認証をあらかじめ登録するすることで、本人以外はログインできないように設定することができます。また、アプリを用いて2段階認証でログインする方法や、パスワード管理アプリやクラウドを使うといった方法もあります。

いずれにしても、災害でIDやパスワードがわからなくて口座にログインできない状態にならないように、日頃から管理しておくようにしましょう。

今はログインIDやパスワードを勝手に変更され、口座からお金が盗まれるフィッシング詐欺などの犯罪もありますので、そうした犯罪に巻き込まれてないか確認するためにも、不必要にネット上のサイトに銀行口座情報を入力しないことが大切です。また、定期的に金融機関の口座にログインができるかを確認すること、残高をチェックする癖をつけることを意識しましょう。

店舗がないネット銀行でキャッシュカードを紛失したら?

ネット銀行を使っている人も最近は多くなりました。店舗を持たないネット銀行の場合、もし被災してキャッシュカードを紛失したら、まずはコールセンターへ相談しましょう。店舗のある自身の他行口座へ振り込み対応ができる場合があります。

便利な方法として、キャッシュカード不要でスマートフォンで生成したQRコードをかざすことで、コンビニATMから出金する方法もあります。

ネット銀行はメガバンクに比べて定期預金の利率などがよくお得ですが、災害には弱いというのが実情です。自分の使っているネット銀行が災害時にどういった対応するのか調べるなど、情報を確認しておくとよいでしょう。

写真付きの本人確認書類と現金を持っておく

銀行以外の生命保険会社・損害保険会社・証券会社などの金融機関も「災害時における金融上の特別措置」で払い出しの要請を金融庁から受けます。そのため必要な書類を紛失した場合でも、本人確認と契約内容が確認できれば払い出しを依頼できます。その際、顔写真付きの本人確認資料があるとスムーズに手続きを進められます。


Androidではすでにマイナンバーカードの搭載が始まっていますが、iPhoneは来年2025年春に搭載される予定です。いざというときスマートフォンさえ持って逃げることができれば、それだけで本人確認が容易になる可能性があります。

ただし、スマートフォンは充電が切れたらなんの役目も果たせないという弱点があります。キャッシュレス決済のみを使い現金を持ち歩かない方も増えてきましたが、大きな災害が起きると何日も電気が通らない可能性も少なくありません。筆者も浸水被害を受けたときは1週間電気が通らず、携帯も充電もままならない状況でした。被災していない場所まで行って充電する必要があり、とにかく大変でした。

電気が通らずスマートフォンの充電ができないという事態はもちろん、支援物資がなかなか届かない、物不足による価格の高騰なども起こるかもしれません。そうしたことを考えると、やはり、いくらかは現金を持ち歩く、非常持ち出し袋に小銭や現金(できれば千円札など細かいほうがいい)を用意しておくことをおすすめします。本人確認書類として、運転免許証やパスポートのコピーを取っておくのもよいでしょう。

また、身の安全が何よりも1番ですから、着の身着のままで逃げる場合もあると思います。枕元に避難用のスニーカーを用意し、中敷きの下に少しお金を入れておくのも一つの方法です。

これだけ自然災害が多い国であるにも関わらず、非常用持ち出し袋を用意している家庭は半数以下と言われています。皆さんのご自宅はいかがですか? これを機にぜひ用意したり、見直しをしたりしてみてはいかがでしょうか。

村井美則

ファイナンシャル・プランナー

【参考】

内閣府防災情報ページ

https://www.bousai.go.jp/oyakudachi/info_saigaikyujo.html

金融庁災害等における被災者等支援について―金融上の措置要請

https://www.fsa.go.jp/ordinary/hisaisyashien_kinyusochi.html

ゆうちょ銀行Q&A自然災害で参照の多いご質問

https://faq.jp-bank.japanpost.jp/faq_list.html?category=219