DeNA二軍チーフ投手コーチ・入来祐作が説くアナログの必要性「やることは昔と変わらない」
横浜DeNAベイスターズ
入来祐作ファーム投手チーフコーチインタビュー(前編)
「今はですよ、もうマジで選手よりも熱くないとアカンなって思っています」
今季から横浜DeNAベイスターズのファーム投手チーフコーチを務める入来祐作は、「指導者として大事にしていることは何か?」という問いに対し、力強い口調でそう答えた。
「きれいごとに聞こえるかもしれませんが、とにかく誠実に毎日を過ごすこと。自分の仕事を100パーセント丁寧にやる。僕は選手たちにいつも言うんです。『一生懸命野球に打ち込みなさい。一つひとつ丁寧にやりないさい』って。指導する以上、僕自身がそれをできていなくちゃ話になりませんからね」
今季からDeNAのファーム投手チーフコーチとして選手の指導にあたっている入来祐作 ©YDB
今季のDeNAブルペン陣。シーズン序盤から苦しい運用を強いられてきたが、それでも坂本裕哉や中川虎大、徳山壮磨、京山将弥といった、昨年まで壁を突破できなかった若い投手たちの活躍によって支えられてきた。特筆すべきは、一軍で意欲的に投げている彼らから話を聞くと、必ずと言っていいほど名前が挙がるのが入来コーチだった。「ファームで入来コーチの指導を受けたことでレベルアップできた」と。
はたして、どのような指導が行なわれてきたのか。入来コーチにそう尋ねると、少し困惑するような顔でこう答えた。
「いや、特別なことはしていないんですよ。もちろんテクニカルな部分だったり、たとえばトラックマンなどデータを見て、『こうなっているよね』という指導はします。むしろそれ以上に、とにかく選手たちが『明日もっとがんばろう!』と思ってくれるような声がけや行動は何なのかを、手探りですが、日々考えて過ごしている最中ですね」
巨人で活躍し、日本ハムやアメリカでもプレーをした入来コーチは、2008年にベイスターズで現役引退すると、その後6シーズンに渡り球団のバッティングピッチャーや用具係といった裏方として選手たちを支えてきた。
2015年からはソフトバンクの二軍、三軍の投手コーチを務め、さらに2021年からはオリックスの投手コーチといったように投手育成に定評のあるチームで経験を積んできている。そして今季から古巣であるDeNAに、10年ぶりにコーチとして復帰した。
DeNAからオファーを受けた時、正直どのような気持ちだったのだろうか。
「まず、ベイスターズから声をかけてもらい、ありがたいなと感謝しました。一方で、『なぜ自分なんだろう』『自分はどんな役割を果たせばいいんだろう』と。外から見ていたここ数年のベイスターズの印象は、いいところまでは行くけど、最後の最後で結果が伴わない。いったい何が足りないのか。
またベイスターズは、最先端の技術や情報を選手に落とし込むやり方だと聞いていましたし、現代野球といいますか、そのあたりを敏感に捉えているチーム。僕自身、いろんな勉強や発見ができるといった楽しみはありましたが、じゃあ球団は僕に何を求めているのだろうって。それを聞くと、『入来さんの感性のままにやってほしい』と言われました」
自分にできることは何なのか......入来コーチは就任するにあたって考えに考えた。もちろんソフトバンクやオリックスでの経験をフィードバックしてほしいという狙いは球団にあっただろうが、それも含め、自分がやれることをやるしかない。導き出した答えは"アナログ"である。
【感情を正しくぶつける】「僕がコーチとしてベイスターズに来て最初に感じたのは、それぞれのポジションのスタッフが各選手にたくさんのデータや情報を落とし込むことで、選手のキャパはいっぱいになり、そこで満足してしまっているように感じたんです。もったいないなって。それを生かすためには、理屈ばかりではなく、自分の体力の限界だったり、思考の限界にトライしてほしいなって思ったんです。それを促すためには、僕自身、瞬発力が必要になるなって」
そう言うと、ひと呼吸おいて入来コーチは続けた。
「やっぱり"感情"ですよね。感情的にいろいろとモノを言ってはいけないといった風潮がありますが、感情を正しくぶつけて、選手たちのあらゆる側面に火を点ける。僕の瞬発力やエネルギーを伝えて、選手たちがもっと頑張ってみよう、もっと考えてみようって思ってくれたらいいなって。
いくら科学的な情報や技術革新があったとしても、選手たち自身が知恵を絞ってテクニカルな部分を習得していく過程は、誤解を恐れずに言えば、今も昔も変わらないと思うんです。結局、アナログなんですよ。やることは泥臭かったり、心を鍛えることであったり、粘り強さだったり、そこは今も昔も変わらない。こういった部分をとり入れ、融合させていくのが、自分の役割だと思っています」
情報過多の時代、合理的ではないことは好まれないといった状況を理解しながらも、入来コーチは言うのだ。
「だけど、そこに選手たちは飛び込んでいかないといけないんです。それが必要であることを実感しているはずなんですけど、チーム内での情報はもちろん、たとえばYouTubeで仕入れた情報をインプットしただけで理解できたような気になってしまう。とくに若い選手は、そこが落とし穴だと思いますし、やっぱり必死に体を動かさないといけないし、考えなければいけないことだと思うんです」
以前、石井琢朗チーフ打撃兼走塁兼一塁ベースコーチが「とくに若い時期は、理屈以前に数や量の練習をやらないとベースが構築できず、その後、選手として苦しくなる」といったことを話していたが、入来コーチの話と相通じるものがある。質より量は、時として必要になるのだ。
【緊張感のある環境づくり】今季、左腕リリーバーとして獅子奮迅の活躍をする坂本裕哉は、入来コーチが就任したことでチームの雰囲気が少し変わったと語る。
「非常に熱い方ですよね。昔ながらの雰囲気がありつつも、裏づけになるデータを加味しながらピッチングの大切さを若い選手に伝えてくれるんです。あと、ファームの練習の雰囲気が、入来コーチの存在によって以前よりもピリッとした空気になって、僕自身、すごくいいなって思っているんです」
そう坂本が言っていたと伝えると、入来コーチは頷くように言った。
「ピリッとさせること、これは大事な環境づくりだと思っているんです。僕たちのいる世界は、勝ち負けの世界。応援してくれる大勢のファンの方々の前でプレーをして、常に勝利を求められます。プロ野球選手として特別な才能を披露して勝ち負けを争う、ある意味、非現実的な世界でもあるんです」
人を魅了するエンターテインメントの世界であり、かつ勝敗というシビアな面がつきまとう環境でいかにプレーをすべきか。
「華やかな世界ではありますが、そこで活躍できるのはひと握りの選手たちだけです。僕としては、そういった舞台でプレーさせてあげたいという思いがあるから、こういった立ち居振る舞いになってしまうんです。不甲斐ないピッチングが続けば、自分のよさを発揮できなければ、やりたくても野球を続けられなくなってしまう。今も昔も、解雇される時は一緒です。せっかくプロ野球選手になったんだから、華やかな世界を見てほしいし、そのために僕は厳しい環境設定をして、ピリッとさせることで、野球を仕事としてやれる時間を大事にしてもらえたらなって思うんです」
実感を込めて入来コーチは言った。
PL学園から亜細亜大学、本田技研、そして巨人に1位指名で入団するなど、エリート街道を歩んでいるように見える入来コーチだが、実際には幼い時から夢見てきたプロ野球選手になかなか手が届かず苦しんだ時期がある。
またプロになっても激しい競争にさらされ、順風満帆とはいかず、思うように活躍できない日々も過ごしてきている。だからこそ、若い選手たちには後悔しないプロ野球人生を歩んでほしいと考えている。
「後悔しないことっていうのはないとは思うんですけど、ああしておけばよかった、こうしておけばよかったって思いは節目節目に必ずあると思うんです。だからこそ、僕が後ろからケツを叩いて『頑張りなさい!』『もっと一生懸命やりなさい』ということで、少しでも減るのであればいいなと思いやっていますよ」
昭和の香りを残しながら、今の時代を嗅ぎとる熱血漢は、笑顔を見せそう語った。このプレーヤーファーストの想いに若き投手たちは今季、次々と応えていった──。
入来祐作(いりき・ゆうさく)/1972年8月13日、宮崎県出身。PL学園、亜細亜大、本田技研を経て、96年ドラフト1位で巨人に入団。97年にチーム最多の57試合に登板するなど、1年目から活躍。2001年は先発としてキャリアハイとなる13勝をマーク。03年オフ、トレードで日本ハムに移籍。06年にはメジャーを目指し渡米するも叶わず、07年10月に横浜のテストを受け合格。08年に中継ぎ要員として開幕一軍を果たすも、公式戦は3試合だけの登板に終わり、オフに戦力外を受け現役を引退。引退後はDeNAの打撃投手、用具係など裏方としてチームを支え、15年にソフトバンクの三軍コーチに就任。その後はソフトバンクの二軍コーチ、振興部などを務め、21年にオリックスの投手コーチ就任。今シーズン10年ぶりにDeNAに復帰し、二軍チーフ投手コーチとして選手の指導にあたっている