東京五輪世代のエース候補として期待を浴びた27歳のストライカーが、ついにW杯最終予選の舞台に辿り着いた。

 日本代表FW小川航基(NECナイメヘン)が3日、北中米W杯アジア最終予選・中国戦に向けた練習後、報道陣の取材に対応。自身初のW杯最終予選に向けて「僕ができるプレーはゴール。そこが一番だと思っている。チームが苦しい状況、どうしても点が欲しい時に僕の力が必ず必要になってくる。日本代表をいい方向に持っていければ」と力強く語った。

 2017年、東京五輪世代のU-20W杯にエースとして出場した小川だったが、大会中に左膝前十字靭帯断裂・半月板損傷という重傷を負い、そこから1年間にわたる戦線離脱を経験。19年にはEAFF E-1選手権で初のA代表入りを果たし、デビュー戦の香港戦でハットトリックの大活躍を見せるも、所属クラブでの序列から東京五輪の選考レースには食い込めなかった。世間の期待とは裏腹に、長らく代表とは縁遠いキャリアを過ごした。

 それでも2022年、転機が訪れた。当時J2の横浜FCに完全移籍し、41試合26得点という大活躍を見せると、昨年夏にNECナイメヘンで初の海外挑戦を果たし、1年目から公式戦36試合11得点と存在感を発揮。すると今年3月に待望のA代表招集がかかり、6月のW杯2次予選ミャンマー戦では復活の2ゴールを決めた。

 そうしてW杯最終予選への切符を掴んだ。小川は「僕自身、なかなか試合に出られない時期もあったし、大きな怪我も経験してきたし、どっちに転ぶか分からない、深い谷を経験してきた。でもその中で自分自身がやるべきことをやってきたからこそ、今ここにいると思っている」と振り返りつつ、決意を新たに、「でも何も満足していることはないし、海外の地でしっかりと価値を示して、もっともっとこのチームに定着して、得点を取っていければと思う」と力を込めた。

 苦難に満ちたキャリアの中では、考え方も大きく変わった。ストライカーとして貫いてきた「最大の仕事はゴール」という姿勢を崩すつもりはないが、森保ジャパンのFWに求められる仕事は多様。前線で身体を張るプレーも、クロスに対して囮になる動き出しも、守備時のプレッシングもないがしろにするつもりはない。

「僕自身はいま日本にいる中で僕が一番点を取れると思っている。でも前回のW杯で大然がすごいプレッシャーをかけて、いろんな戦いをしていた中、あの大然のプレッシャーやディフェンスの強度を僕自身ができて、なおかつ点を取ることができれば、世界一、日本サッカー界の壁を乗り越えられる大きな要因になると思う。僕がそこをしっかり担っていけるようにやっていきたい」

 そうした思考に至ったのは2年前のカタールW杯。MF堂安律やDF冨安健洋ら共に東京五輪世代を担った選手たちが活躍し、それでもベスト8という目標に届かなかった姿をテレビ越しに見つめたことが転機だったという。

「前回のW杯で負けた時に誓いました。俺自身、何をやっているんだろうという感情にもなったし、みんなが奮闘して日本サッカーの壁を越えられなかったあの姿をテレビで見ていて、次は俺がやる、ゴールを決めて勝たせるというのを強く誓ったのを覚えている。そうしていけるようにやっていきたいです」

 ストライカーの使命である結果にも、求められるタスクにも妥協ははない。「全てをやらなければ世界一は取れないし、全員が120%以上のものを出さないと甘くない世界。僕自身がそういうところをやっていければ」。遠回りも経験した27歳のストライカーは大きな決意を胸に、W杯につながる舞台に臨む。

(取材・文 竹内達也)