Image: Songquan Deng / Shutterstock.com

泊まった方がよくね?

8月中旬、スターバックスが新しいCEOを迎え入れると発表しました。チポトレ・メキシカン・グリル(欧米に展開する大手タコスチェーン)のCEOがコーヒーのスターバックスに移籍? というちょっとした違和感は置いておくとして、この新CEOが自宅のあるカリフォルニア州とワシントン州シアトル間を、週3でプライベートジェット通勤するのはけしからんと批判されています。

片道1,600kmの空の旅

2018年からチポトレのCEOを務めていたブライアン・ニコル氏が、9月9日に世界最大のコーヒーチェーンであるスターバックスの新CEOに就任すると発表されました。

8月11日に米証券取引委員会(SEC)に提出されたスターバックスからニコル氏への内定通知と契約書(法で提出を定められています)によると、同氏はカリフォルニア州ニューポート・ビーチの自宅からスターバックスの本社があるシアトルへ引っ越す義務はなく、カリフォルニアのオフィスとシアトル本社のどちらかで業務に従事できるとされています。

ところがここからがちょっと問題で。スターバックスの勤務方針によると、実際にはニコル氏は最低でも週に3日はシアトル本社に出勤する必要があるんです。通勤にはスターバックス所有のプライベートジェットを利用できるとのこと。

ニコル氏の自宅からシアトルまでは、片道1,600kmの空の旅になっちゃうみたいです。どんなに乗り心地が良くても、週に3日も往復3,200kmを飛行機で通勤って、週に日本列島を1往復半する計算になるんですよね。片道2時間半から3時間かかるらしいですよ…。

なんならもう月曜日からシアトルで2泊3日で働いて、木曜日からカリフォルニアのオフィスに出勤した方がよくないですか?

環境にやさしいはずのスタバなのに

スターバックスは使い捨てのプラスチックストローを廃止したり、カップのプラスチック使用量を20%削減したり、2030年までに二酸化炭素排出量、水使用量、廃棄物量の半減を掲げたりするなど、環境にやさしい企業をアピールしてきました。

なのに、新CEOが週3回も往復3,200kmをプライベートジェットで通勤するのは、企業イメージに反するんじゃないかと、批判を浴びまくる事態になっているわけです。

プライベートジェットの環境負担

プライベートジェットは、二酸化炭素を1時間あたり2トン排出するといわれています。日本の1人あたりの二酸化炭素排出量(2022年)は、年間で8.3トンなので、プライベートジェットで4時間飛べば、ほぼ日本人1人分の排出量になります。1日で平均的な日本人の1年分以上の排出量ということに。

プライベートジェットの1人あたりの排出量は、商業用飛行機の5倍から15倍、電車の50倍にのぼるといいます。航空業界からの排出量は、世界全体の2.8%を占めています。意外と少なく感じるかもですが、問題は世界人口の1%がその50%を排出していること。

プライベートジェットからの排出量だけに注目すると、また印象が変わるんですよ。研究結果によると、2016年のプライベートジェットによるCO2排出量は3,370万トン 。同年における世界全体の排出量が364億トンだから、プライベートジェットの排出量は、全体の0.00093%に過ぎません。

じゃあ別にいいじゃん、と感じる人もいると思います。でも、企業として排出量削減目標を掲げ、気候と環境にやさしいイメージを与えている以上、CEOが企業所有のプライベートジェットで通勤するのを、行動が伴っていないと批判されるのは仕方ないのではないでしょうか。

必要なのは規制と高額な飛行料

富裕層のプライベートジェット利用は、テイラー・スウィフトなどのセレブを筆頭に、イーロン・マスクやビル・ゲイツなども批判の的になっています。スウィフトやゲイツはカーボンオフセットを購入していると主張していますが、気候変動の影響はオフセットできません。

プライベートジェットの利用を減らすには、医療的に緊急を要するケースなどと不必要な利用を分けて、不要不急ではない利用の規制や、セレブでもためらうほどの飛行料を求めるなど、プライベートジェットを使うととんでもなく高くつく政策を採る必要があると専門家は指摘します。

倫理観に訴えたり、罪悪感を抱かせてプライベートジェットの利用を減らそうとしても、使えるものは使っちゃうと思うので、やっぱり使いたくても使いにくくしていくのが得策なんじゃないですかね…。

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Source: Starbucks (1, 2, 3), SEC, CNN (1, 2), The Guardian

Reference: Travel Math, European Federation for Transport and Environment, 国立環境研究所, Context, Gössling and Humpe 2020 / ScienceDirect, Reuters, AP, The Washington Post