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今年の夏は酷暑が続き、仕事中に体調を崩した人も多かったのではないでしょうか。仕事中、体調が悪くなったにもかかわらず、休める場所がない…。そんな職場もあるかもしれません。                                                                                実は3年前から、職場における労働衛生基準が変わり、現在は常時50人以上、あるいは常時女性が30人以上の労働者を使用する事業者は、「休養室」または「休養所」を男性用と女性用に区別して設ける必要があるとされています。

50年ぶりに変わった職場の環境。どのようなものなのでしょうか。杉浦智彦弁護士に解説してもらいます。

●休憩室とはどう違う?

そもそも、「休養室」や「休養所」は、「休憩室」や「休憩所」とどう違うのでしょうか。

一般的に、休憩室や休憩所は、テーブルや椅子が並んでいるなど、従業員がリラックスできるスペースです。最近ですと、靴を脱いであがってくつろげるスペースなどを設置する事業所もあります。

しかし、「事務所衛生基準規則」では「事業者は、労働者が有効に利用することができる休憩の設備を設けるように努めなければならない」として、義務付けはされていません(19条)。

一方、「休養室」や「休養所」は、ベッドなどで従業員が横になって休めるスペースです。現在、「事務所衛生基準規則」で、常時50人以上、または常時女性30人以上を雇用している事業者は、男女別に設置する義務が課せられています(21条)。

また、利用者のプライバシーや安全が確保されるよう、配慮も求められています。厚労省のサイトでは、「入り口や通路から直視されないよう目隠しを設ける」「関係者以外の出入りを制限する」「緊急時に安全に対応できる」といったポイントが示されています。

●背景には「病弱者」や「生理日の女性」への配慮

この休養室や休養所の設置は、どのような背景から必要とされているのでしょうか。杉浦弁護士は次のように説明します。

「労働安全衛生法という法律があり、この目的として、『職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進すること』が掲げられています。そして、この法律の目的を具体的に実行しているため、労働安全衛生規則や事務所衛生基準規則などに具体的に守るべき事項が定められています。

この休養室・休養所についても、一定の規模以上の会社であれば、病弱者、生理日の女性等で横になって休養する必要のある従業員が発生するのが当然予見されるところで、その設置が義務付けられています。

昭和46(1971)年に事務所衛生基準規則が定められて以降、女性の活躍促進や高年齢労働者の増加、障害をもつ人々への職場での配慮が進むなど社会の状況が変化しました。

さらには働き方改革の実現の上でも、休養のために職場環境の改善を図ることが重要だと考えられました。そのような観点で、この度の改正がなされたところです」

●休養所で体調が戻らない場合はどうする?

ただし、「この休養所・休養室は、体調不良者等を一時的に休ませ回復させるものにすぎません」と杉浦弁護士は指摘します。

「少し横になるだけで体調が戻るような様子がない場合は、自宅に帰宅させたり、近隣の医療機関への受診を勧めるべきでしょう。

本人が自発的に対応をしない場合は、休職命令を出すことも検討してよいでしょう。

体調不良が続くことを認識しつつ、そのような対応をしていないと、場合によっては安全配慮義務違反となり、従業員やその遺族から損害賠償請求を受ける可能性があります」

●「うちの職場にはない」という声も…

Xでは、「うちの職場は設置義務があるのに、休養所がない」といった声もありました。「常時50人以上、あるいは常時女性が30人以上の労働者を使用する事業者」にもかかわらず、休養室や休養所を設置していない場合、従業員たちが何かできることはあるのでしょうか。

「勤め先が休養室や休養所を設置していない会社は、実はそれなりに存在しています。スペースがないとか、そのような点がよく指摘されています。

ただ、専用のスペースでなくてもよく、たとえば会議室に簡易ベッドやパーテーションなど用意しておき、万が一の場合に、休養室に転用できるようにしておくだけでも大丈夫です。

会社の担当者に対しては、厚生労働省の定めた設置義務に違反していることや、万が一急病人が発生して、横になれるスペースがないことによって後遺症等が発生すれば、会社の安全配慮義務違反となることなどを指摘して、改善してもらうようお願いするのがよいのではないでしょうか」

【取材協力弁護士】
杉浦 智彦(すぎうら・ともひこ)弁護士
神奈川県弁護士会所属。刑事弁護と中小企業法務を専門的に取り扱う。刑事事件では、特に身柄の早期解放に定評がある。日本弁護士連合会中小企業法律支援センター事務局員としても活躍。
事務所名:弁護士法人横浜パートナー法律事務所
事務所URL:http://www.ypartner.com/