フランス人がオーバーサイズのトップスを着ない理由

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パリジェンヌは永遠の憧れ?

2024年夏、パリはスポーツの祭典オリンピックの舞台となりました。パラリンピックが閉会すると、9月23日からパリ・ファッションウィークが始まります。

パリはファッションの都と言われるように、エルメス、シャネル、ディオール、サンローランなど、パリにメゾンを構えるラグジュアリーブランドは数多く、ミラノ、ロンドン、ニューヨークなどと同じように、年2回、ブランドの新作を発表するファッションショーが開催されます。

ブランドの新作に身を包んだセレブリティがフロントローを彩り、メディアやファンが詰めかけます。ファッションショーの会場周辺は、ファッションの祭典のような様相を呈します。

トレンドを発信するパリはおしゃれな街、パリジェンヌもおしゃれなイメージがありますが、知的、シック、シンプル、上質といったイメージが強く、流行の最先端というイメージはどちらかといえば希薄です。

日仏のストリートスナップの特徴は

パリのストリートスナップを見ると、ウエストが見えるクロップド丈のトップスを着用する人が多く、パリは女性が肌や体型を見せることに寛容な社会であることが伺えます。肌見せといっても、過度な露出をする人は少なく、シャツ、ブラウス、ジャケットなども、身体のラインを美しく見せる着こなしが目立ちます。ピタピタではなく、ルーズでもないサイズ感は、知的でシックなイメージにつながります。

日本のストリートスナップは、「華奢見せ」に適したややルーズなシルエットを着用する人が多く、身体のラインを強調しすぎないように配慮する傾向があります。ジェンダーレスファッションの流行もあり、女性がメンズのアイテムを着用するケースも増えています。

日仏ユニクロの流行を比べてみると

例えば、日仏のユニクロのウィメンズのTシャツのベストセラーを比較してみましょう。

日本版ユニクロのTシャツのベストセラーは、男女兼用エアリズムコットンオーバーサイズTシャツ/5分袖(1,990円)。

サイズはXSから4XLまで8段階あり、男女兼用なので女性が着用すると、ルーズなシルエットになります。小さめのサイズはややルーズに、大きめのサイズを選べばビッグシルエットにというように、自分の好みサイズ感を選べます。

カラーバリエーションは9色。男女兼用のアイテムは男性的なかっこいい色、渋い色が充実しています。例えば、くすんだ赤、くすんだパープルのような渋みのある色は、甘く優しい色に偏りがちな女性用のアイテムにはない色です。華奢に見せたいけれど、可憐に見せたいわけではない…。そんな願望を手軽に楽しめるところが、ジェンダーレスの魅力かもしれません。

フランス版ユニクロのTシャツのベストセラーは、エアリズムコットンTシャツ(14.90ユーロ)。

日本で販売されているエアリズムコットンT(1500円)と同じ女性用の商品です。

サイズはXXSからXXLまで7段階。女性用なので、ワンサイズ下げるとピタピタに、ワンサイズあげるとややルーズになりますが、ルーズになりすぎないサイズ感です。

カラーバリエーションは8色あり、ピンク、クリームのような淡く甘い色がラインナップされています。

ぶれないスタイルを持つこと

ところで、パリジェンヌらしさとは、具体的にどのようなイメージを指すのでしょうか?フランスを代表するファッションアイコンを見ていきましょう。

シャネルを創設したガブリエル・ココ・シャネルは、「シャネルはスタイル。ファッションは移り変わるが、スタイルは永遠」という名言とともに、リトル・ブラック・ドレス、ツイードのスーツ、キルティングバッグ、コスチュームジュエリーなど、20世紀を代表するスタイルを生み出しました。ココ・シャネルのスレンダーな体型は、フランスを代表するファッションアイコンとして、我々のイメージに大きな影響を与えています。

ユニクロとの10年におよぶコラボレーションで知られるイネス・ド・ラ・フレサンジュもスレンダーな体型の持ち主。シャネルのクリエイティブ・ディレクターを務めたカール・ラガーフェルドのミューズとして活躍し、1980年代、シャネルの躍進に大いに貢献しました。ユニクロとのコラボレーションでは、「シンプル」「シック」を基本に、色柄で「遊び心」を取り入れたスタイルを提供しました。

フレンチシックの登場

エルメスのバッグで知られるジェーン・バーキン、ジェーンバーキンとセルジュ・ゲンズブールの娘シャルロット・ゲンズブールは、ボーイッシュな体型の持ち主。そのファッションは「フレンチシック」と評されます。

メリハリの効いたプロポーションで一斉を風靡したブリジット・バルドーは、ウエストマークしたミニドレス、前髪を無造作に結い上げたヘアスタイルで、「小悪魔的」な魅力を放っています。

1960年代のミュージックシーンを象徴するフランソワーズ・アルディは、ラグジュアリーブランドはもちろん、「イエイエ族」のようなフランスのストリートファッションを着こなしました。オドレイ・トトゥは映画『アメリ』で、鮮やかなカラーを多用した「ガーリー」なスタイルを披露しました。

このように、フランスのファッションアイコンたちは、自分らしいスタイルを発信し、私たちが自分らしいスタイルを模索するお手本となってきました。

書籍に集約されるパリジェンヌのイメージ

ファッションアイコンから生まれたこれらのイメージは、ベストセラーになった書籍などにも見られます。

例えば、書籍『フランス人は10着しか服を持たない パリで学んだ“暮らしの質"を高める秘訣』(ジェニファー・L・スコット)には、<10着のワードローブで身軽になる><自分のスタイルを見つける><いつもきちんとした装いで><いちばん良い持ち物をふだん使いにする>といった見出しが並んでいます。

書籍『パリジェンヌはすっぴんがお好き』(藤原淳)の見出しは、<パリジェンヌは他の人が着ている服を買いたがらない><パリジェンヌはいつでもどこでも自然体><自分なりの生き方を貫く7つの秘訣>など。

フランスには独自の文化があり、常識や規範に囚われがちな人々にとって、フランス人の生き方から自由になるためのヒントが見つかるのではないかと考える人は少なくないのかもしれません。

SNSとともに変化するパリジェンヌのイメージ

その一方で、「パリ症候群」と呼ばれる精神医学の用語があるように、パリのイメージに憧れてパリで暮らし始めた外国人が、精神的なバランスを崩してしまうケースもあるようです。

とはいえ、フランスやパリのイメージも変わりつつあるのではないでしょうか。例えば、中村江里子さん、西村博之さん、辻仁成さんなど、パリ在住の著名人はメディアに登場する機会も多く、パリで暮らす日本人のリアルを垣間見る機会は増えています。

ファッションに関しては、ユニクロのラウンドミニショルダーバッグが世界的なヒット商品になり、火付け役となったフランス人インフルエンサーのTikTokに注目が集まりました。ユニクロや無印良品がパリの一等地に出店し、SNSでユニクロや無印良品を着たパリジェンヌの姿を見る機会も増えています。

このようにSNSの影響力は大きくなり、海外のインフルエンサーも身近な存在になってきています。パリジェンヌへの憧れがなくなってしまうわけではないけれど、親近感や好奇心の割合が大きくなってきているのかもしれません。

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