いま台湾政治が陥っている「不人気競争」の実態…第三極「民衆党」柯文哲党首に相次ぎ不正が発覚、二大政党にもスキャンダルが続出

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瞬く間に第三極になった民衆党だが

このところ台湾メディアの話題と言えば、柯文哲氏が党首を務める第三政党「台湾民衆党」(以下、民衆党)のスキャンダルで持ちきりの感があった。

台湾ではこれまで台湾の主体性を強調して中国とは一定の距離を置こうとする、民進党を中心とした「緑派」(時代力量、台湾基進、台湾団結連盟、台湾緑党、喜楽島連盟を含む)と、中国との経済関係を重視し対中融和を進めようとする、国民党を中心とした「藍派」(親民党、無党団結連盟、新党、労働党を含む)の二極対立が長く続いてきた。1996年に初めて行われた総統直接選挙以降、4年に一度の選挙の勝者は順に、国民党、民進党、民進党、国民党、国民党、民進党、民進党、民進党という具合で、日本と比べても頻繁に政権交代が起きているが、基本的に二大政党制の構図であった。

しかしこの二極対立は時に「藍緑悪闘」とも呼ばれ、公共政策よりもイデオロギーに基づく罵り合いが目立つ面もあったことから、特に若者の間では嫌気がさす人も多くなってきた。こうした中、「緑」と「藍」の双方を批判する第三極を作り上げるべく、2014年末から台北市長を2期務めた医師出身の柯文哲氏が、市長在任中の2019年に民衆党(イメージカラーは白)を創設した。

台湾では2000年に総統選挙で惜敗した宋楚瑜氏が親民党を結成し、翌年の立法院選挙で46議席を獲得するなど、第三政党としての地位を確立する時期もあったが、その後小選挙区制の導入に伴い、113議席中73議席が小選挙区の議席となったことから、イギリス同様、第三政党が力を持つのは難しくなっていた。

しかし民衆党は柯氏の既存政治に対する歯切れの良い批判がネットメディア活用のうまさもあって若者の熱狂的な人気を集め、先の総統・立法委員選挙では総統に立候補した柯氏(ペアとなる副総統候補は呉欣盈氏)が得票率で26.46%にあたる369万票余りを獲得し、当時64歳の柯氏にとっては、4年後の総統再挑戦も視野に入る善戦だった。また立法委員選挙では、113議席のうち国民党が52、民進党が51といずれも単独過半数に達しなかったため、比例区のみで8議席を獲得した民衆党は、キャスティングボートを握る幸運に恵まれたのである。

民衆党はその後、立法院で、議長選挙の際に国民党と民進党のいずれの候補も支持しなかったため、結果的に議会第一党の国民党が推した韓国瑜氏が立法院長に選出された。民衆党はその後も国民党との協力関係を強め、「藍白合」という言葉が紙面をにぎわすことが多くなった。

例えば独立規制機関のNCC=国家通信放送委員会の委員の人選をめぐっては、民進党政権の行政院(内閣)が提示した候補者の中に民進党寄りの人物がいるとして国民党が強く反発すると、民衆党もこれに同調、7月末に任期が切れた委員の後任がいまだに決まらない状況にある。NCC委員は通常、通信、放送、法律、財政・経済などの専門性のある学者もしくは実務経験者から選ばれるのだが、NCCにはテレビ局の免許交付や更新の権限があることから、各党とも自党に近い人材を送り込もうとして争いが生じるのである。

柯文哲の不正発覚

こうした中、柯氏が台北市長在任中に「京華城」というビルの再開発計画をめぐり、容積率を当初の392%から560%に、そしてさらに840%に引き上げたことの妥当性が問題になり、全61議席のうち国民党が27議席、民進党が20議席、民衆党が4議席を占める台北市議会は4月、専門チームを作って不正の有無を調査することになった。5月には台北地検が汚職処罰条例に基づいて捜査する方針を表明、8月12日には当時の台北市副市長を召喚し、出国禁止を命じる事態となった。

また8月6日には民衆党の元党員が、柯氏が市民からの寄付金を自らに近いPR会社と高額の契約を結ぶことでこの会社に流していたと告発した。さらに民衆党が提出した政治献金会計報告書の中にあった支出先のうち2社が「金を受け取っていない」と表明したことから、こちらも台北地検が8月12日に捜査に乗り出すことを明らかにした。

民衆党はもともと「国民党も民進党も腐敗している」と批判し、クリーンなイメージを主張して人気を集めた面があるのだが、今回相次いだ“不祥事”で人気は落ち込んだ。

台湾民意基金会が8月19日に発表した政党支持率調査では、民進党が34.2%(前月比+1.1%)、国民党が23.2%(同+2.7%)だったのに対し、民衆党は13.8%(同−2.2%)にとどまった(三立新聞網、8月19日「民調/柯文哲捲「假帳」風暴!民眾黨支持度剩13.8% 這群人死忠追隨」参照)。8月初頭に発表された世論調査には、民衆党の支持率が6.1%というものまであった。

また民衆党は柯氏の個人商店の性格が強いことから、柯氏がもし刑事被告人になった場合、政党として今後機能し続けられるのかは疑問である。2022年11月に民衆党候補として新竹市長に当選した高虹安氏は、汚職処罰条例により秘書の給料をピンハネした罪で今年7月に一審で懲役7年4か月の有罪判決を受けており、民衆党にとっては「泣き面に蜂」である。

民衆党は民進党対国民党、もしくは「緑派」対「藍派」の二極対立を乗り越え、台湾社会に一定のコンセンサスをもたらす作用が期待されていたのだが、もともと柯氏にはポピュリスト的な資質があり、既存政党を攻撃するときは威勢が良いが、言うことがコロコロ変わる危うさもあって、台湾政治における第三極の任に堪えるのかは若干疑問もあった。

今後の民衆党の行方だが、台湾のベテランジャーナリスト盧世祥氏は、「柯氏や民衆党支持者から見えてくるのは、若者は二大政党に飽き足らないだけでなく、住宅価格や物価、収入などへの不満もあるため、柯氏や民衆党が衰退しても社会改革への要求は変わらず、こうした層が『藍』や『緑』に戻るのか、新たな第三政党に結集するのか、どちらの可能性もある」と評価する。その一方で盧氏は、過去に親民党や台湾団結連盟が第三政党の地位を長く保てなかったことを挙げて、現実には第三政党が足場を築くのは難度が高いとも指摘する。

台湾では民主化後、政治の二極化が激化し、政治家のビジョンも短期的なものになりがちで、かつての李登輝総統のように読書家、戦略家で指導力のある人物を輩出するのは日ごとに難しくなっているという。

頼清徳総統の党内権力闘争

では現在の頼清徳総統はどうだろうか。「藍派」の友人に聞くと、面白い答えが返ってきた。頼氏は権力闘争に長けた策略家だという。

頼氏が総統に就任した5月20日からわずか1カ月あまりの7月上旬、頼氏の後継の総統候補とも言われた鄭文燦前行政院副院長(副首相)が桃園市長時代の収賄の疑いで桃園地検に逮捕された。鄭氏は民進党内では頼氏と同じ主流派の「新潮流派」に所属しているのだが、鄭氏逮捕の際、総統府は「司法を尊重する」とコメントしていた。

しかし台湾では、この事件が実際は蔡英文前総統に近かった鄭氏を蹴落とすための頼総統の陰謀だとのうわさが飛び交っている。この友人によれば、頼氏は副総統時代に蔡英文総統から何も仕事をさせてもらえず、当時行政院の仕事は医療専門家の陳建仁院長よりもむしろ鄭副院長が仕切っており、女性問題や金銭問題、大学の修士論文の剽窃問題などを抱える鄭氏を蔡総統がかばってきたとの見立てを示す。つまり頼氏は半ば政敵でもある鄭氏を汚職で葬ることで、民進党内ににらみをきかせて求心力を高めようとしているというのだ。

もちろんこうした陰謀論に対しては、「頼氏のまじめでクリーンな体質を反映したもの」との反論もあって確たることは言えない。

その一方、ここへ来て民進党のスキャンダルも負けじと続出している。頼氏の側近で新政権の交通部長を射止めた李孟諺氏が10年間にわたって中国出身の女性と不倫関係にあることが8月19日に暴露され、即日辞任に至った上、もう1人の側近である林宜瑾立法委員に秘書の給料をピンハネした疑いが浮上し、8月21日、林氏の国会事務所などが台南地検から捜索を受けた。これが頼氏のクリーンな政治への強いこだわりによるものと見るべきか、それとも反頼勢力の報復とみるべきかは何とも言い難いが、民衆党に加えて民進党の前途にも暗い影が立ち込めた感がある。

国民党立法委員の問題投稿

もっともそれで国民党が浮上するのかというと、そう単純なものでもない。

8月4日にパリ五輪のバドミントン男子ダブルス決勝戦で李洋・王齊麟のペアが中国チームを破って今大会で台湾勢初の金メダルを獲得したのだが、このとき国民党の比例代表選出の翁暁玲立法委員は中国のSNSであるウィーチャットに「中国人の誇り」と投稿、記者から事実確認を求められた際に「ウィーチャットに書いたんだよ!中国人の誇りで間違ってないでしょ!文章の削除はしない。私たちはもともと中国人よ」と答えたのである。世論調査では回答者の72%が翁氏の見解に同意しなかった(FTNN新聞網、8月16日「民調/翁曉玲糗了!72%不同意麟洋配是『中國人驕傲』 公然挑釁如『回教徒前吃豬肉』」参照)。

現在の台湾政治は、民進党、国民党、民衆党の間での「不人気競争」に陥った感があるが、台湾人がこれまで苦労に苦労を重ねて勝ち取った「民主主義」への幻滅を招くようなことにはくれぐれもなってほしくないものだ。

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