「専業主婦いじめ」60歳未満“遺族年金”給付を5年間に!政府検討案に有識者が怒り
「7月30日、厚生労働省が年金部会の資料『遺族年金制度等の見直しについて』を公表しました。資料の中には《女性の就業の進展、共働き世帯の増加等の社会経済状況の変化や制度上の男女差を解消していく観点を踏まえて、20代から50代に死別した子のない配偶者に対する遺族厚生年金を見直す》とあるように、専業主婦には看過できない記述があります」(全国紙記者)
現行の遺族厚生年金制度では、サラリーマンの夫と死別した場合、夫がもらえるはずだった老齢厚生年金の4分3を、30歳未満の妻は5年間、30歳以上の妻は一生涯受け取れる仕組みになっている。
しかし、“男女差の解消”などを理由に、今後は数年かけて段階的に給付水準を見直し、最終的には妻が60歳未満で子がいない場合、給付期間を5年に限定する方針だという。関東学院大学経済学部教授の島澤諭さんが、解説する。
「現行の遺族年金制度は“夫と死別した場合、妻が働きに出て生計を立てるのは困難だろう”と、専業主婦に寄り添った考えから始められました。ところが、現状では共働き世帯も増えたから、主婦を優遇する理由がなくなったというのが政府の判断でしょう。
しかし、共働き世帯が増えた原因のひとつは、政府の無策によって家計が苦しくなり、働きに出ざるをえなくなった人が増えたためなんです」
同様に、怒りを隠せないのは、社会保障法が専門の鹿児島大学法文学部教授・伊藤周平さんだ。
「制度が変更されれば、仮に55歳で夫を亡くした場合、60歳までしか遺族厚生年金をもらえなくなります。その後の人生をどう生きればいいのでしょうか?
国は“5年の猶予は与えるので、専業主婦でも、あとの人生は働いて自立しなさい”と突き放しますが、家事で夫を支えるため、労働市場から撤退した専業主婦の再就職は容易ではありません。まさに“専業主婦いじめ”といえる改悪です」
■政府が狙っている“第3号”の廃止
政府は年金の支出を減らそうとする一方、社会保険料の徴収を増やそうと画策している。
パートであっても、年収106万円以上で、勤め先が従業員101人以上の法人など、一定条件を満たした場合、厚生年金に加入し、保険料を支払わなければならないことになっている。保険料を払うことで手取り額が大きく減ってしまう。
現在、“101人以上”となっている法人規模要件は、今年10月から“51人以上”に緩和される予定だ。
「政府は、この法人規模要件そのものを、いずれは撤廃する方針です」(全国紙記者)
さらに、法人ばかりでなく個人事業所にも、厚生年金の適用拡大をもくろんでいるという。現在、従業員数5人以上の個人事業所で働いている人は、製造業や土木業など17業種の場合のみ厚生年金の加入義務がある。だが、今後は業種の制限を撤廃し、これまで対象ではなかった、飲食サービスや理美容業、洗濯業、宿泊業などで働く人にも厚生年金の加入義務が課せられていく方針だ。
厚労省の財政検証では、前述のような法人の規模要件の撤廃と、5人以上の個人事業所の非適用の解消を行うことで、被保険者は90万人も拡大すると試算されている。
「さらに、短時間労働の賃金要件などを撤廃すれば200万人拡大、加えて5人未満の個人事業所の非適用を撤廃すれば270万人、所定労働時間10時間以上の労働者をすべて被保険者にすれば860万人拡大すると言及しています」(伊藤さん)
つまり、主婦が夫の扶養内で働いて、社会保険料の支払いを避けながら家計を支えるような働き方が、将来的に不可能になるのだ。
「政府は専業主婦など、社会保険料を払っていない第3号被保険者を、社会保障制度の負担として目の敵にしています」(島澤さん)
現行制度では第3号被保険者は保険料を払わないでも国民年金を受給できるが、第3号被保険者そのものをなくそうという動きが政府内にあるという。
昨年10月には、年金を所管する厚生労働省の武見敬三大臣が第3号被保険者制度の見直しに言及。政府は、専業主婦の“撲滅”の意図を隠さなくなりつつある。