Trinity Francis

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車好きの9割が、何かしらMX-5(マツダロードスターの海外での販売名称)にまつわる話を持っていると言っても過言ではないだろう。レストアにまつわる愛と錆の物語、夏のロードトリップの思い出、または初めてのドリフト体験など、この小さなスポーツカーに対する愛情は世界で広く浸透している。しかし実を言うと、恥ずかしながら私は先週まで一度もMX-5を運転したことがなかった。そんな私にMX-5との思い出を作る機会が訪れた。

【画像】歴代マツダMX-5でイギリス1000マイルを巡る旅。これぞまさにロードトリップ!な写真の数々(写真166点)

マツダUKのヘリテージコレクションには、美しく保存された各世代を代表する4台のMX-5があり、他のメーカーが歴史的な車両を厳重に保管するのに対し、マツダはそれらを実際に走らせることを望んでいた。

そこで同モデルの35周年を祝うため、イギリスのコーンウォール半島の最西端に位置する「ランズ・エンド」からイギリス本土の最北東端にある村「ジョン・オー・グローツ」までの1000マイルの旅が企画された。日本で言うと東京から鹿児島までの距離感に近いだろう。この企画はただMX-5で1000マイルを走破するだけではない。コライトン社のSustainブランドによる100%サステナブル燃料を使用して行われるというもう一つの記録的な挑戦でもあった。

ランズ・エンドからジョン・オー・グローツまでのルートの走破は、世界中のカーエンスージアストにとっても象徴的な挑戦だ。英国の最南西端からスコットランド本土最北端の村までを走り抜けるこのルートは、速さを競う者もいれば、休暇を過ごすようにゆったりと楽しむ者もいる。私たちの旅はその中間的なスタンスに位置し、3日間でこのルートをクリアした。
 

Day1


 
初日の朝、私はまるでクリスマスを迎えた子供のように興奮していた。朝食を急いで済ませ、荷物を詰め込んでホテルの外に待つMX-5たちのもとへ駆け出した。ランズ・エンドは過酷な天候に見舞われることが多く、その日も濃い霧が立ち込め、視界は20mもなかった。そんなコンディションでも、私の興奮は高まっていた。初めてのMX-5体験をMk1(NAロードスター)で始められるからだ。

1.6リッターの1990年製Mk1は、クリスタルホワイトの塗装とポップアップヘッドライトが印象的だ。初めて車と向き合うときには、敬意を持つことが重要だと私は考えている。キャップをかぶり、スパルコのシューズを履き、運転席に滑り込んだ。霧がキャビンに入り込み、メガネが水滴で覆われたが、それでもルーフを開けて旅を完遂することを誓った。

最初の区間で289マイルを走り、私はMk1に慣れることができた。まず驚いたのは、その鋭敏なステアリングだ。ロングボディの車に慣れていた私は、最初のカーブで生垣に突っ込みそうになった。軽い操作でどこにでも飛び込むが、注意を怠ればすぐに痛い目に遭う。手に余る部分はあるが、その不安定さがたまらなく魅力的だった。

現代の目で見ると少しパワー不足だが、当時の基準では十分な性能だった。130km/hで走ることも可能だが、105km/hで田舎道を快適に走るのが最も楽しい。
1日目の後半になり、Mk1をこのまま愛し続けたいという思いに後ろ髪を引かれつつも、1999年に10周年記念モデルとして生産されたインノセントブルーマイカのMk2(NBロードスター)に乗り換えることに。最初はクラッチの位置が高いことに戸惑い、エンストするのではと心配したが、1速に滑り込み、無事スムーズに発進した。

MX-5の確固たる基盤を築いたのはMk1だが、Mk2はそのスポーツカーとしての約束を真に果たしたと言えるだろう。Mk1と比べて少し大きめの1.8リッターエンジンと140馬力のパワーを備えたことにより、よりパワフルになるのは当然だが、6速ギアボックスが全く違う感覚をもたらしてくれた。4速で十分に伸びてくれたので、6速に入れてエンジン音を軽減させることもできたし、5速に入れて咆哮を聞くこともできた。1日目の目的地に到着し車を降りると、風が全身に絡みつき、1日の終わりには耳に風の音が残っていた。
 
Day2

初日は霧が晴れると猛烈に暑かったが、2日目は涼しく、長袖に着替えて北へ向かった。景色が劇的に変わり、平坦な牧草地から美しい丘陵地帯へと移り、カンブリアの風光明媚な田舎道が現れた。退屈な直線が続く高速道路ではMk2の真価を発揮できなかったが、ついにコーナーの多い挑戦的なステージに挑む時が来たのだ。

私たちの車列はハイウェイを離れた瞬間、まるで銀行強盗が警察から逃げるように四方八方へと散らばった。ここからは自分との戦いだ。ブレーキをほとんど使わず、完璧なシフトダウンを決め、直線ではアクセルを奥底まで踏み抜く。坂の頂上を越える瞬間は少し浮かび上がる感覚さえ味わった。気分はペターソルベルグだ。

コーナーを攻め、風景が飛び去る中、エンジンの唸り声が私をさらに煽る。再集合地点に到着した時には、体中に鳥肌が立ち、アドレナリンの味が舌の上で感じられることに気がついた。Mk2は完全に私の心を掴んでいたのだ。

ウィンダミア湖畔でのショートブレイクで心身を落ち着かせ、ここで次のMX-5にチェンジすることに。私が乗り込んだのは2014年製25周年記念モデルのMk3(NCロードスター)だ。内装のスポーティなデザインは、前の二つの世代よりもMX-5のスタイルにマッチしていたが、どこか遠い存在に感じた。より実用的で日常的に使える車を目指した結果、Mk3はMk1やMk2の荒々しい個性を失ってしまったように感じた。決して速さを失ったわけではない。しかしその速さは銀行強盗の逃走というよりかは、仕事に遅刻して急いでいる時に近い。

スコットランドに入ると、予想通り豪雨が降り始めた。最初の誓いを守り私たちはルーフを閉じることはなかったが、さらに北へ進むにつれ、雨は激しさを増し、交通渋滞に巻き込まれて私たちはずぶ濡れになった。

私の同乗者、スコットランド人のジム・マクギルは、北部の土地を自分の手のひらのように知り尽くしていた。そこで、我々は隊列を離れて独自のルートを選択することに。エディンバラに向かって田舎道を突っ切ると、ジムが言っていた通り、道が開け、まるで私たち専用のレーストラックを走るようにコーナーを攻めていった。前方の車両を次々と追い越し、ケルティックな風景の中を力強く駆け抜けた。

道路には水たまりが広がっていたが、Mk3はその水を勢いよく飛ばしながら、全く動じることなく進んでいった。コーナーでは驚くほどグリップが効き、私が思っていた以上にこの車はしっかりとした走りを見せてくれた。私はその強さに引き込まれ、危険なラインギリギリまでアクセルを踏み込んだが、それでも決して不安を感じることはなかった。

このようなシチュエーションを経て、Mk3に惚れ込むのは、当然と言えば当然だろう。力強く、威厳があり、誰も止められない存在のように感じた。しかし、それでも私にとっては、何かが足りなかった。個性を感じることができなかったのだ。

そのような少し複雑な思いを抱えつつも、私たちはスコットランドの冷たい雨の中を突き進み、次第に最終目的地に近づいていった。
 

Day3


 
最終日は暗雲が空を覆い、旅の終わりが近づいていることを感じた。私たちは30周年記念モデルのMk4(NDロードスター)に乗り換え、最後の区間を出発した。スコットランドのハイランド地方は荒々しく、ルーフを開けたまま乗る私たちには寒さが骨身に染みたが、それと同時にシートヒーターのありがたさを痛感した。

車は、レーシングオレンジの塗装が目を引き、カーボンファイバーのドアトリムやスエードダッシュ、オレンジステッチが施された内装は、スーパーカーに匹敵する雰囲気を醸し出していた。

時折、「私こそが道路の主人公だ」と思わせてくれるような車があるが、駐車場でアクセルを数回踏み込むだけで、Mk4がそうした車であることがすぐに分かった。マツダはMk4にスポーツカーとしての威厳を再び注入したのだ。これまでのMX-5とは異なり、速度計ではなく、タコメーターが中央に配置されていることからも明らかだ。これはつまり、Mk4はエンジンを存分に唸らせろという意図があるに違いない。

北海沿いの道を走りながら、MX-5が英国の道に最適な車であることを再確認した。181馬力の2.0リッターエンジンは、まるでこの道を走るために生まれたかのように、断崖をも軽快に走り抜けた。

最終目的地の約20マイル手前で道は内陸に向かって曲がり、ヘアピンカーブがいくつか現れた。この最後の区間は、長い直線と高速コーナーが絶妙に混ざり合った理想的なステージで、おそらく旅の中で最も楽しい時間だった。

ついにゴール地点であるジョン・オー・グローツの駐車場に到着し、車から飛び降りた。強烈な風に吹き付けられ、まるでまだ110km/hで走り続けているような錯覚に陥った。競争心を持って旅をしていたわけではないが、ジョン・オ・グローツの看板に向かって駆け出し、チェッカーフラッグを手に取るような気持ちで旅は終わりを迎えた。私たちは四季折々の天候を体験し、4世代のMX-5を駆け抜けた。この旅は、私のMX-5初体験を最高の形で彩ってくれたと自信を持って言える。

自動車ジャーナリストが全会一致で称賛する車は少ないが、MX-5はその数少ない幸運な一台だ。もはやただの車ではなく、まさしく人馬一体を体感させ、どんな時でも楽しい時間にしてくれる存在なのだ。

Words and Photography: Trinity Francis
まとめ:オクタン日本版編集部