事件現場。不審火によって全焼した

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「弟(容疑者)とは昔から兄弟仲が悪くてね。一緒に住んでいても、ほとんど言葉を交わさなかった。だから、あいつが何を考えて放火したのか、よくわからない……」

【写真】容疑者の事件直前の異常行動、「心の支えでもあった」容疑者の母の遺影など

 40代半ばで患った脳梗塞で左半身麻痺となり、口調にも障害が残る容疑者の兄は、訥々と語りはじめたーー。

8月1日から5日にかけて、8件の不審火が発生

 埼玉県警捜査一課は5日、同県久喜市に住む無職の大熊文男容疑者(61)を非現住建造物等放火の疑いで逮捕した。容疑者は同日午前1時20分ごろ、久喜市内の倉庫に放火し、トラクター、コンバイン、貨物車2台などを全焼させたというもの。

「近隣の防犯カメラの映像から大熊容疑者が特定された。夜中に自転車で徘徊していた容疑者に職務質問したところ、たばこを吸わないにもかかわらず、マッチ箱を所持していたことから逮捕に至った」(全国紙社会部記者)

 大熊容疑者は警察の取り調べに対して、

「まったく身に覚えがありません」

 と容疑を否認している。だが、放火の疑いはこれだけではなかった。久喜市以外にも周辺の桶川市、伊奈町の半径4キロ圏内で、8月1日から5日にかけて、8件の不審火が発生。同捜査一課と同久喜暑、同上尾署は上尾署内に連続放火事件特別捜査班を設置して、容疑者との関連を捜査している。

 前出の倉庫を燃やされた被害者宅を訪ねた。場所は大熊容疑者の自宅からはわずか900メートル。被害者は怒り心頭でこう答えた。

「何か恨みを買ったなんてないですよ。仕事もできず、家族も混乱しているので、(取材は)カンベンしてほしい」

 桶川市の全焼した家屋は、4日に炎上した。

61歳容疑者は一度も働いたことがなかった

「真っ昼間の1時30分ごろ、火柱が見えて、びっくりした。誰もいなかったらよかったけど、怖かった」(近所の住民)

 連続放火の嫌疑をかけられている容疑者。

「容疑者は中学校を卒業後、一度も働いたことがない。ひきこもりというわけではないと思うが、自転車に乗る姿は見かけても会釈ぐらいで、一度も話したことはないんですよ」(近隣住民、以下同)

 共働きの両親のもとで三男として生まれた容疑者。父親は40年ほど前、脳梗塞のため50歳台で他界。その後、次男(冒頭の容疑者の兄)も15年ほど前に脳梗塞に。長男は8年ほど前に亡くなった。

 中学校卒業からニートのような状態だった容疑者は、他人宅に侵入して金を盗んだり、母親の財布から50万円ほど盗んだりしていたという。

「母親はずっと年金生活だったのですが、病気になって入院して、お金がなくなったみたい。それで数か月前から生活保護を受けていて、容疑者はその金で生きていた。週に1回、お母さんに頼まれて、自転車でスーパーまで食材を買いに行くことはしていた」

 母親が生前、住民に漏らしていた不安がある。

「“お兄ちゃんは年金と障害者手当てがあるから心配ないけど、弟のほうが心配”と嘆いていました。国や自治体は助けてくれないから、警察のお世話になるかもしれないって」

 事件のおよそ1か月前の7月5日、容疑者の母親が88歳で亡くなった。すると、容疑者の奇妙な行動が。

「弱者に何もしてくれなかった行政への恨みはある」

「道の真ん中で、長い棒を両手に持って、仁王立ちしている姿を何度か目撃した。怖くて、その道には近づけなくなった」

 同居していた次男も、母親の死が引き金になった可能性を示唆した。

「心の支えでもあったでしょうが、金銭的な支えも大きかったからね。母親が死んで、生活保護や長兄の遺族年金があてにできなくなった。絶望してムショ暮らしを望んだのかもしれない」(容疑者の兄、以下同)

 とはいえ、放火の言い訳には全くならないと容疑者の兄。

「働かない自分の責任だよね。61歳まで一度も働いたことがないんだから、雇ってくれるところなんかないと思うけど……」

なぜ、容疑者は一度も働かなかったのか?

「働く意欲がまったくない、協調性がない。その両方だと思う。友だちだって、1人もいないから」

容疑者宅にはテレビ、風呂、流し台がなく、携帯電話も持ってなかったという。

「こんな貧しい暮らしだからね。弟に趣味なんかなくて、自転車で走り回るか、ショッピングモールへ、涼しみに行く程度の日々ですよ」

 容疑者自身も生活保護を受ける気持ちはあったようであるが、

「生活保護をすすめられたけど、役所の窓口へ行ったら、断られたみたい。だから、弱者に何もしてくれなかった行政への恨みはある」

 犯行動機は謎のまま。警察の真相究明が待たれる。