「図形に変換」すると、圧倒的に時間が短縮できるといいます

「算数から勉強をやり直して、どうにか東大に入れた今になって感じるのは、『こんなに世界が違って見えるようになる勉強はほかにない』ということです」

そう語るのが、2浪、偏差値35から奇跡の東大合格を果たした西岡壱誠氏。東大受験を決めたとき「小学校の算数」からやり直したという西岡氏は、こう語ります。

「算数の考え方は、『思考の武器』として、その後の人生でも使えるものです。算数や数学の問題で使えるだけでなく、あらゆる勉強に、仕事に、人生に、大きくつながるものなのです」

そんな「思考の武器」を解説した43万部突破シリーズの最新刊、『「数字のセンス」と「地頭力」がいっきに身につく 東大算数』が刊行されました。

ここでは、複雑な計算も「置き換える」ことで「計算せずに」解けるようになる工夫を解説してもらいます。

複雑な計算を「図に直して解ける」人の頭の中

みなさんは、計算が速いですか? それとも遅いですか?


小学生のときに算数を習ってから大人になって社会人になった後でも、計算をしなければならない場面はたくさんあり、その計算が速いほうが得する場面はたくさんあります。

でも、実は多くの人は、「計算が速い」という言葉の定義を勘違いしているのではないでしょうか?

「計算が速い」といえば、言葉のイメージとしては「足し算・引き算・掛け算・割り算のスピードが速い人」だと考える場合が多いと思います。しかし実は、そうした四則演算のスピードが速い以外にも、必要な能力があるのです。

それは、計算式を図式化する能力です。計算式をただ計算するのではなく、図形に直して思考する能力があると、計算のスピードが速くなるのです。

例えば、この問題をご覧ください。この問題は、あることに気付ける人であれば30秒以内に計算できる問題です。

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この問題は、ストレートに解こうとすると時間内には解き終わることがなかなか難しい問題だと思います。どんなに44×44の計算が速くても、11×11を一瞬で計算できる人だとしても、30秒以内には計算できない場合が多いと思います。

実はこの問題、掛け算や引き算が速い人よりも、「あること」に気付けた人のほうが速く計算できるのです。

「同じ数のかけ算」から「正方形の面積」を発想する

まず、この計算式には「44」「11」「22」「33」というように、同じ数が並んだ2桁の数字が登場していますね。これらの数は、「44=11×4」「22=11×2」「33=11×3」というように、11の倍数です。

そしてそれらを、「11×11」「22×22」というように、同じ数同士で掛け算をしています。さて、この「同じ数の掛け算」を見て、何か思い出しませんか? 「11×11」「22×22」というような同じ数の掛け算というのは、「正方形の面積」と同じです。

下の図をご覧ください。


仮に、1辺が11cmの正方形があったとしたら、この正方形の面積は「11cm×11cm」で求められます。今回の「22×22」「33×33」というような数は全部、正方形の面積を求める計算と同じなのです。ですから、これらの計算式は次の図のように置き換えることができます。


11×11と22×22を比べると、22×22は11×11の正方形を4枚並べた形になるので、4倍大きくなります。同じように考えると33×33というのは11×11の正方形を9枚並べるのと同じになるので、9倍大きいと考えられます。

どうでしょうか? こうして見ると、「44×44−11×11−22×22−33×33」という計算式は、図形の問題に変換することができるのです。次の図をご覧ください。


この図のとおり、「44×44−11×11−22×22−33×33」という計算は、「16個の正方形から、9個の正方形と、4個の正方形と、1個の正方形の分を引く」と同じになるのです。

図で考えると「計算」は1回で終わり

そう考えると、答えは次のようになります。


こう考えてみると、2個の正方形だけが残るので、この2個の正方形の面積を求めればいいわけですね。答えは、「11×11×2(11×11の正方形が2つあって、その面積の合計)=242」となります。

数学の勉強をしっかりしている人なら、この計算式の項のすべてが「11×11」を共通の因数として持っていることを理解し、「44×44−11×11−22×22−33×33=(11×11)(4×4−1×1−2×2−3×3)」という変換を行うことができる人もいると思います。そういう人はもしかしたら、「正方形なんて使わなくても計算できる」と考えるかもしれません。

実際、僕がご説明した内容は、この変換(11×11ですべての項を割る)を正方形に置き換えてやっているだけでもあります。でも、正方形で考えるほうが頭の中がスッキリしますし、計算ミスの危険性も少なくなります

このような、「計算を図形に置き換える」というのは、いろんな場面で活用・応用できるテクニックです。以前の記事(数に強い人なら「5秒で解く」分数だらけのクイズ)でも紹介しているのですが、数や計算をなんらかの図形に置き換えて考えることで、計算を視覚的にすることができて、より理解しやすくなるのです。

「計算」「図形」を交互に学ぶには理由がある

ちなみに、小学校の算数でも、四則演算(足し算・引き算・掛け算・割り算)の勉強や小数・分数などの計算の勉強と交互に、図形の勉強をすることがほとんどです。中学に上がっても、代数と幾何は交互に教えられた人がほとんどなのではないでしょうか。

これは、別々のものを教えているというわけではなく、交互に進めていくことで効果が出るからなのです。竹馬のように、「右足を前に出したら、次に左足も前に進め、また今度は右足を進める」というようにステップを踏んでいくべきものなのです。

このように、ただの計算問題でも、意外と奥が深い場合があります。計算の速度が速いか遅いかではなく、図形に変換して考えたり、別のものに置き換えて考える思考の習慣がついている人のほうが、うまく算数・数学と向き合うことができます。

「たかが計算」とばかにせず、学生の方はぜひしっかりと向き合っていただきたいですし、大人の方はこの機会にぜひ、学び直していただければと思います。

(西岡 壱誠 : 現役東大生・ドラゴン桜2編集担当)