夫と死別で専業主婦の年金は大幅減少…足りない生活費は10年間で486万円に!
自らひとりを選んだ人、夫との別れでひとりになってしまった人……。そんな人たちの老後生活は険しい。最新の年金の未来予想から、おひとりさまの老後のお金を試算した。
■おひとり様女性の半数が“貧困”状態
「7月3日、5年に1度の“年金の健康診断”ともいわれる財政検証が発表されましたが、楽観論がふりまかれ、メディアではあまり問題視されませんでした。
たしかに年金制度を維持するという点では及第点と言える結果でしたが、私たちの年金の給付水準を徐々に引き下げていくという“犠牲”のうえに成り立っています。
しかも、年金額の多寡にかかわらず一律に年金額は削減されていくため、独りで暮らす女性のように年金額が少ない傾向にある人たちにとっては、貧困リスクが高まることになるのです」
そう警鐘を鳴らすのは関東学院大学経済学部教授の島澤諭さんだ。単独で暮らす“おひとりさま女性”は、高齢になると貧困に陥ってしまうケースが多いという。
「年金の受給額は、現役時代の働き方や収入が反映されます。納める保険料が少なければ、受け取る年金額も低くなるのです。男女の賃金格差、非正規や正社員の男女の割合などをみても、雇用環境は女性のほうが不利な状況です。女性は男性に比べて年金が低水準になる傾向があります」
老後の貧困は、専業主婦にとっても人ごとではない。夫がサラリーマンなどの主婦が、夫の扶養内の収入しかない場合、第3号被保険者となり、社会保険料を納めなくても、国民年金が受給できる。
老後は自分の国民年金に加え、夫の国民年金と、それまで夫が納めてきた社会保険料に応じた厚生年金(比例報酬分)が受給できる仕組みだ。だが、夫と死別すると、夫の国民年金がなくなり、厚生年金も減額されてしまう。
今年1月に公表された東京都立大学子ども・若者貧困研究センターの阿部彩教授の「相対的貧困率の動向(2022年度調査)」によると、65歳以上単独世帯の貧困率は、男性が30%なのに対し、女性は44.1%。これを下回ると相対的貧困となる「貧困線」は、2021年の厚労省の発表によると年間の可処分所得(手取り)が127万円以下。つまり、おひとりさま女性の2人に1人が、月10万6000円以下で生活していることになる。
かくも厳しいおひとりさまの年金だが、「マクロ経済スライド」によって今後はますます“減っていく”という。
本来、年金の受給額は物価や賃金の上昇に伴い、上昇していくことになっていたが、その上昇を抑制するのがマクロ経済スライドという仕組みだ。世の中の物価が上がっていく一方で、年金額の上昇は抑制されるので、相対的に年金の“価値”が減ってしまうのだ。
■現在55歳の人は88歳まで年金が目減りし続ける
財政検証では、日本経済の状況に応じた複数の“年金の将来予想”が発表されたが、島澤さんが「もっとも現実的なシナリオ」という「過去30年投影ケース」をもとに死別後の妻の将来をみてみよう。
現在55歳の専業主婦の妻と、3歳年上の夫を想定。夫が84歳で亡くなり、妻が82歳から“おひとりさま”になってからの10年間の収支を試算した。
財政検証では40年間厚生年金に加入した会社員の夫と専業主婦の妻というモデル世帯が受給する年金額の、現役男子の平均手取り収入(2024年は月約37万円)に対する割合である「所得代替率」で将来の予想を発表している。2024年のモデル世帯の年金受給額は約22万6000円で、所得代替率は61.2%。
しかし、2050年(夫が84歳、妻が81歳)の所得代替率は52.5%まで低下。現在の水準で計算すると、夫婦の年金額は19万4000円ほどとなっている(以下の年金額はすべて現在の水準にしたもの)。
さらに夫と死別し、妻がおひとりさまとなると、年金額は約11万9000円まで減額されてしまう。ファイナンシャルプランナーで夫婦問題診断士協会代表理事の寺門美和子さんが解説する。
「夫が厚生年金を受給していた場合、死別によって夫の基礎年金がなくなると、夫の遺族厚生年金(比例報酬分の4分の3)が妻の基礎年金にプラスされます」
その後も、マクロ経済スライドによる年金の減額が続き、ようやく下げ止まるのは妻が88歳のとき。年金額は約11万6000円で、翌年以降は横ばいとなる。
2023年の「家計調査」よると、65歳以上の単身無職世帯の平均の支出額は15万7673円。夫と死別した妻は、毎月約4万円、年間40万〜50万円も赤字が出ることに。10年間で、赤字額の累計は約486万円にもなる。
未婚や離婚によるおひとりさまの場合、年金額はもっと少なくなる。厚労省の最新の「老齢年金受給者実態調査」によると、未婚女性の年金の平均月額は11万9000円、離婚の場合は8万8600円だ。
それが、2050年時点には、未婚女性の年金は10万2083円と、現状よりも1万6917円減、離婚女性は7万6005円と1万2595円減に。寺門さんが語る。
「自分自身の年金と生活費の差を埋めるために、50代から3つの準備が必要です。(1)できるだけ長く働くこと。(2)公的年金を増やすこと。パートの厚生年金への加入要件が拡大されましたので、調べてください。(3)自分年金を作ることです。働いて得た収入の一部をNISAやiDeCoに回すことも忘れずに」
最晩年に貧困に陥らないよう、今から準備を始めよう。