Image: © Amazon Content Services LLC

スーパーヒーローは何をもってスーパーヒーローなのだろうか...。

Amazonプライムビデオによるドラマシリーズ『The Boys(ザ・ボーイズ)』のシーズン4の配信が開始されました。

"18+"のレーティング指定で、ほぼすべてのエピソードの冒頭には、「暴力」や「薬物の使用」、「性的なコンテンツ」といったタグが貼られる過激な作品であり、実際に劇中でも多くの血が流れます。

しかしながら、本作は2019年のシーズン1公開以来、話題作として多くの支持を集めており、シーズン4となる現在でも続編が公開されるたびにすぐに話題となります。そんな『ザ・ボーイズ』がなぜこんなにもおもしろいのか、そして多くの支持を集めるのか、作品を紹介しながら見つめてみようと思います。

アメコミ原作のアンチヒーロー作品『ザ・ボーイズ』とは?

『ザ・ボーイズ』のストーリー

『ザ・ボーイズ』は、ガース・エニスとダリック・ロバートソンによる同名のコミックを原作としたドラマシリーズです。

本作は、特殊な能力を持つ多くのスーパーヒーローが存在している世界が舞台。主人公のひとりであるヒューイは、テロリストや犯罪から人々を守るスーパーヒーローのファンでしたが、ある日そのヒーローの過失によって恋人のロビンを失ってしまいます。ヒーローを束ねる巨大企業のヴォートは、その件を賠償で解決し、ヒューイに口外しないように告げます。

Image: © Amazon Content Services LLC

スーパーヒーローやヴォートという組織の傲慢さに気づいてしまったヒューイは、それを知ってやって来たブッチャーの指揮の下、フレンチー、マザーズミルクたちとスーパーヒーローを打倒する「ボーイズ」の一員になります。さらにヴォートのヒーローだったスターライトことアニーや、超能力を持つキミコらも協力して、ヒーローたちに立ち向かっていく(徹底的に潰しにいく、が正解かもしれない)、というストーリーです。

『ザ・ボーイズ』の特殊で魅力的な世界観

『ザ・ボーイズ』は、スーパーヒーローが存在して人々を助けている世界、というヒーロー作品にありがちな世界を舞台としています。が、この作品の世界観は特殊で、そのヒーローたちが現実の私たちが観るようなヒーロー映画やドラマに出演していたり、グッズやテーマパークも生み出され、企業とのコラボレーションやCMキャラクターにもなったりと、ヒーロービジネスが確立されている世界でもあるのです。

Image: © Amazon Content Services LLC

つまり、ヒーロー作品であることと、その登場人物が劇中劇にも出演している、というメタ構造のような視座もあわせ持っている特殊な世界観であることがわかります。

こうした世界観が、清廉潔白で聖人のように描かれるスーパーヒーローがその裏側では腐敗していて、富や名声に夢中な身勝手なセレブリティである、ということがよりリアルに観ている人に伝わるようになっているのです。

もしもスーパーヒーローが現実に存在していたら、というおもしろさ

Image: © Amazon Content Services LLC

先に述べたように、『ザ・ボーイズ』の世界観は特殊で、ヒーローもののドラマでありながら、より「私たちが生きる現実にスーパーヒーローが存在したら」という部分にフォーカスされている作品なのです。

「スーパーヒーローたちはなぜスーパーパワーを持っているのか」「普通の人間がスーパーヒーローを倒すにはどうすればいいのか」といった、ヒーロー作品を観ながら疑問に思うような、あるいは語られないようなことを積極的に物語の軸にしている点が非常に魅力的です。

『ザ・ボーイズ』のシーズン1では、正にこうした点が描写されており、物語の展開はユニークで引き込まれます。

たとえば近年のマーベル・シネマティック・ユニバースやDCユニバースのような作品では、上記のような点や「スーパーヒーローの戦いによって失われる命がある」といった自己言及的な描写がありますが、基本的にはSF的なスーパーななにかによって解決したり、それらの原因になっている、といったことが主な展開です。

Image: © Amazon Content Services LLC

『ザ・ボーイズ』では、宇宙からの侵略もいなければ、謎物質によるエネルギー革命といったこともなく、マルチバースも存在しません。毎度同じような展開で闇の組織や世界征服を企む巨悪を倒すおなじみの結末があるわけでなく、シーズンを通してみてもけっこう勝ったり負けたりなのもおもしろいです。そんななかでボーイズたちが勝つときは痛快ですし、判定負けといったときは無力さを感じます。このリアルさはほかにはない素晴らしさといえます。

リアルさでいえば、『ザ・ボーイズ』では"私たちの現実"に即したような事象やアメリカがはらむ社会問題などが取り上げられることもポイントのひとつとしてあげられると思います。人種や移民といった事柄やフェイクニュースによる騒動、さらには政治的分断のような描写も見られます。そこにスーパーヒーローがいることでどのようになっていくか、も想像できておもしろいともいえます。

ひとつ注意をすべきなのは、冒頭にも述べましたが、この作品は18+のいわゆるR指定作品であり、血みどろな残酷描写や性的な描写、率直に気持ち悪い描写などがかなり多く出てきます。

Image: © Amazon Content Services LLC

超能力を持つ相手を倒すには最終的にとにかく殴って頭を潰すしかないといった事情もあったりして、主人公たちも決して勧善懲悪というわけではないのもおもしろいのです。

リアルがゆえに残酷な描写もあり、完全な勝利ではないときもあり、それでも意志を貫いて自分に嘘をついてもがきながらも戦う姿に心惹かれます。一方で、力を持つだけの身勝手な超人たちの姿に、スーパーヒーローは何をもってスーパーヒーローといえるのか、といった命題めいたものすら考えさせられるのも魅力です。

物語も大詰めのシーズン4

『ザ・ボーイズ』のシーズン4が2024年6月13日から配信開始しています。全8話で最終エピソードは7月18日に公開予定です。

ドラマ版の『ザ・ボーイズ』は、原作コミックと比較してもキャラクターやストーリーなど多くがオリジナルな展開といえます。シーズン1〜3と進むに連れて原作の展開を踏襲した部分も見られ、シーズン4では物語は大詰めへと向かっていることがわかります。

なお製作を率いるエリック・クリプキがシーズン5でドラマ版が終了することも発表しています。

Image: © Amazon Content Services LLC

ボーイズたちの(そして『ザ・ボーイズ』における)一番の敵といえるスーパーマン風のサイコスーパーヒーローのホームランダーとの戦いがシリーズを通じての最大の焦点になるでしょう。これまでの展開を鑑みても原作とは違う終わり方をする可能性も十分あると思います。

さまざまな事情を抱え、基本的にルーザーであるボーイズたちがどんな搦め手でスーパーヒーローたちと戦っていくのか。聖人でも超人でもない復讐者たちが、人を殺す力を持っているだけのコスチューム集団をどのように打倒するのか、ぜひとも痛快な展開を期待します。

オルタナティブなヒーロー作品を観たい方やスーパーヒーロー疲れを感じる方にもオススメな『ザ・ボーイズ』。シーズン1の第1話からエンジン全開でおもしろさが詰まっています。何度もいいますが、R指定であることは注意してくださいね。

source: Amazonプライムビデオ, YouTube, Variety