猛暑は熱中症などの身体的な悪影響をもたらすことが知られているほか、認知機能の低下やメンタルヘルスの悪化といった問題も引き起こすことがわかっています。29件の研究を体系的にレビューした新たな論文では、母親の妊娠中に暑さにさらされた子どもは、収入の減少や早死にリスクの増加といった生涯にわたる悪影響を受けることが判明しました。

Impacts of heat exposure in utero on long-term health and social outcomes: a systematic review | BMC Pregnancy and Childbirth | Full Text

https://bmcpregnancychildbirth.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12884-024-06512-0



Heat exposure during pregnancy can lead to a lifetime of health problems

https://theconversation.com/heat-exposure-during-pregnancy-can-lead-to-a-lifetime-of-health-problems-230217

南アフリカにあるウィットウォーターズランド大学の研究チームは、気候変動は人類がこれまでに直面した最大の公衆衛生上の脅威のひとつであり、気温の上昇は妊婦や子どもを含む脆弱(ぜいじゃく)な人々の健康状態の悪化に関連していると指摘しています。実際に過去の研究では、気温の高い日には赤ちゃんが予定より早く生まれる早産のリスクが高まることもわかっています。

地球温暖化によって赤ちゃんが予定より早く生まれやすくなる可能性がある - GIGAZINE



しかし、妊娠中の熱への暴露が胎児に及ぼす長期的な影響については、これまであまり研究されてこなかったとのこと。そこで研究チームは、妊娠中の熱暴露がその後の人生における健康や社会経済状態に影響を及ぼすかどうかを調べた過去の研究を体系的にレビューしました。

研究チームが質の高い29件の研究をレビューした結果、大多数の研究において妊娠中の熱暴露と有害な長期的影響が関連付けられていることが確認されました。妊娠中に猛暑にさらされることの悪影響は身体的なものにとどまらず、学業成績の悪化や収入の低さとも関連がみられたとのこと。たとえばアメリカの研究では、妊娠初期に気温がセ氏32度を超える日が1日増えるごとに、30歳時点での年収が56ドル(2008年のレートで約5800円)減少することが報告されています。

また、妊娠中の猛暑は心臓病や高血圧、小児ぜんそく、肺炎のリスク増加といった身体的な悪影響も引き起こしました。小児肺炎のリスクは、妊娠中の気温がセ氏1度上昇するごとに85%も増加すると推定されているとのことです。別の研究では、アフリカでは妊娠中の熱暴露の増加に伴って子どもの栄養失調リスクが高まり、アメリカでは逆に肥満リスクが増加するという関連性が明らかになりました。

摂食障害や統合失調症など、精神疾患のリスクも妊娠中の猛暑によって増加することが多くの研究で示されています。赤ちゃんが生まれた月が精神疾患リスクと関連しているという研究結果もありますが、これには妊娠中に熱にさらされたことが影響している可能性があると研究チームは示唆しています。

こうした妊娠中の熱暴露による子どもへの影響は、「平均寿命の短縮」という形でも現れており、胎児の時に猛暑にさらされた人はより早死にしやすかったとのことです。また、猛暑による影響は男性よりも女性の方が大きかったと研究チームは報告しました。



妊娠中の熱暴露が胎児に及ぼす悪影響は、以下のような複数の原因で生じる可能性が高いと研究チームは述べています。

・妊娠高血圧症候群や糖尿病といった母親の健康状態の悪化

・熱による赤ちゃんの発達や神経系への影響

・早産などの出生時のリスク増加

・胎児のDNAへの影響

研究チームは、「私たちの調査には限界がありますが、結果は憂慮するべきものであり、妊婦と胎児を暑さから守るために個人・地域社会・世界規模で直ちに行動を起こすことを支持するものです」と述べ、罪のない子どもに気候変動の悪影響が及ぶのを防ぐべきだと主張しました。