44歳と38歳の新婚さん、そのリアルな生活とは?(イラスト:堀江篤史)

仕事や趣味に没頭している人は恋愛や結婚の優先順位が大いに下がっていたりする。ずっと一人でいたいわけではないけれど、今のところ健康で寂しくもなく、周囲にも独身の友だちが多い、といったケースだ。

気づいたときには年齢を重ねているが、気持ちは若いままで相手との「需要と供給」が合わず、婚活が難航する人も少なくない。

今回は、その中では比較的幸運な夫婦に登場してもらう。東京郊外の賃貸マンションで暮らしている吉田友広さん(仮名、44歳)と恵美さん(仮名、38歳)だ。

出産予定日間近にインタビュー

どちらも結婚相談所に入会してから半年以内に出会って交際を始め、その半年後には成婚退会。両家の顔合わせをして婚約をしたあたりで恵美さんは妊娠し、3カ月後に婚姻届を提出して2023年末に結婚式を挙げた。北関東に住んでいる友広さんの両親は、恋人のいる様子もなかった長男が初孫を抱かせてくれるまでの展開の早さに驚いているという。物事は進むときにはどんどん進むものなのだ。

インタビューは里帰り出産予定の恵美さんの実家の最寄り駅近くで行うことにした。海外旅行とお酒を飲むことが趣味だという恵美さん。出産予定日を2週間後に控えているのでお酒を飲めないが、飲みながら話したい友広さんと筆者のために温かみがあるイタリアンレストランを選んでくれた。メニューを一読して、ワインに合いそうな料理を迷わずに注文する恵美さん。外食に慣れていることがわかる。

つねににこやかな友広さんもバイクやスキーを愛する趣味人で、大学卒業後は東京都内で20年以上一人暮らしをしていた。現在はIT企業で管理職として働いているが、30代半ばからは同じ会社で中東での大規模プロジェクトに参加していたと振り返る。

「海外で働いてみたかったので手を挙げました。3カ月ほど長期出張して帰国することの繰り返しです。危険手当ももらえます。私としては気に入っていた働き方で、5年間ほど過ごしました」

ツルンとした表情で語る友広さんだが、その頃にバイクつながりで付き合っていた同い年の彼女もいた。彼女は結婚を意識していたようだが、友広さんは「まだ独身でいいかな」と思いながらの出張ベースの日々。そのうちに彼女から連絡が来なくなった。

「バイク仲間の延長ぐらいに思っていたのがよくなかったのでしょう。(自然消滅という形でフラれたことに)腹落ちする感覚がありました」

腹落ちするのは仕事だけにしましょう、と突っ込みを入れたくなるのは筆者だけではないだろう。しかし、友広さんは反省して婚活をするどころかますます仕事や趣味に没頭。そのうちにコロナ禍が始まる。

「誰にも会えなくなってさすがに焦りました。私は人嫌いなわけではないので……。飲み仲間の一人が経営している結婚相談所に入会したのが2022年の10月だったと思います」

夫と妻、それぞれが結婚相手に求めていた条件

自由を愛するサラリーマンである友広さんが結婚相手に求めたものは3点。対等な共働きができること、海外が好きであること、できれば子どもが欲しいので自分より5歳以上若いこと、だ。海外案件を任されるような40代前半の正社員男性としては無理のない要求である。実際、結婚相談所で20人ほどとお見合いした中に恵美さんがいた。

子どもの頃にアメリカに住んでいた経験がある恵美さんは帰国子女枠で都内の私立中に入学。大学では薬学部に進学した。薬剤師の資格も生かして現在は外資系の医療関連会社で働いている。結婚して子どもを育てたいという気持ちもあり、30代前半までは親づてで医師や歯科医師の男性とお見合いをしたこともあった。

「その人が開業している地方で住むことが前提でしたね。私は今の仕事が好きで、当時は在宅ワークなどの選択肢もありませんでした」

その後はマッチングアプリやネットの結婚相談所にも登録するが、恵美さんが求めるような誠実な男性とは巡り合えなかった。

「4歳年上の方とマッチングして、1年ほどお付き合いしたことはあります。でも、最初は『子どもがいる生活もいいよね』と話していたのに、付き合い始めたら『子どもはいらない』と言われたりして、不信感がありました。風俗店に行っていることもわかったりして……」

仕事ではグループリーダーとして計画的に働いている恵美さん。30代後半になり、それまでの失敗経験も踏まえて2つの婚活方針を定めた。信頼できる結婚相談所に入会してちゃんとした男性との「出会いの母数」を増やすこと。そして、どんな男性ならば自分はマッチングしやすいのかを研究して自分からもお見合いを申し込むことだ。

「男性の年齢と年収でマトリックスを作り、それぞれのゾーンに申し込んでいきました。私がマッチしやすいのは3歳以上年上で年収600万円〜800万円のようです」

ただし、この研究は途上で終わっている。お見合い3人目で友広さんと出会えたからだ。初対面でも大いに楽しかった、と友広さんは熱心に語る。

「お見合いの時間は1時間ぐらいと決められているのですが、話が弾むと時間は早く過ぎるんですね。海外旅行の話をしていたら1時間半ぐらいがあっという間に経ってしまいました」

いつも楽しそうな夫。不思議なほど衝突がない日々

恵美さんは友広さんと会ってから気持ちに変化が生じた。誠実さや子作り以外にも結婚相手に求める条件が自分にはあることを知ったのだ。それは「自分で自分の機嫌をとれる人」。

「友広さんはいい人オーラがあふれているだけでなく、いつも楽しそうに過ごしています。それがとてもいいな、と思いました」


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婚約中に恵美さんが自然妊娠をしたので、友広さんは喜びつつも「これからは一人で遊びに行ったりはできない」と覚悟していた。しかし、恵美さんは「私は無理だけれど、スキーに行ってきていいよ。出産後は一緒に育ててほしいから、今のうちに遊んでおいたら?」という割り切った態度。友広さんは喜んでスキーに出かけて、バイクも引き続き乗り回している。

一緒に暮らし始めてからも不思議なほど衝突がない、と2人は口を揃える。お互いに相手が我慢しているのではと心配になるほどだという。

「妻は調味料にこだわるほど料理上手なので、私はせめて洗い物を担当しています」

恵美さんと同じぐらい飲食を愛する友広さんは幸せそうだ。争いがないのは新婚の熱気が続いているおかげとも言えるが、それぞれの社会人としての実力が生かされている面も大きい。

「洗濯は妻がやってくれていますが、干す手間を省くために乾燥機を買いました。家電にはお金をかけるのがうちの方針です」

お金に関しては、共通の銀行口座を作って同額を毎月入れることを恵美さんが提案。すべての費用はそこから出しているので、今のところ経済的にも完全に対等だ。

「子どもが大きくなってきたら教育費がかかるので今のようには遊べないと思いますけど……」

と言いながら、いいペースでワインを飲んで顔を赤くしている友広さん。その様子を恵美さんは余裕の表情で見ていた。

ややのん気な友広さんに比べると、恵美さんは婚活で苦しい経験もした。それを生かして一度冷静になり、「自分はどんな男性から求められるのか」を分析し直したところに勝因があると思う。

結婚相手探しは「こういう人でなくちゃ!」と主観的になりやすい。実際は、相手も自分と同じぐらいに好みや生活上の希望がある。自分と一緒にいることを喜んでくれる人と会うための行動こそが婚活の秘訣なのかもしれない。

本連載に登場してくださる、ご夫婦のうちどちらかが35歳以上で結婚した「晩婚さん」を募集しております(ご結婚5年目ぐらいまで)。事実婚や同性婚の方も歓迎いたします。お申込みはこちらのフォームよりお願いします。

(大宮 冬洋 : ライター)