作文力を鍛えるゴールデンタイムは小学校4年生だといわれます(写真:buritora/PIXTA)

生成AIの進化が著しい中、今の子どもにとっては将来、AIと働くことが当たり前になることが予想されます。そうした中で重要になるのがロジカル思考で、これを鍛えるにはライティング力が必須だと、韓国屈指のライティング・コーチのソン・スッキ氏は言います。

本稿では子どものライティグ力を鍛えるゴールデンタイムについて、『作文宿題が30分で書ける! 秘密のハーバード作文』より抜粋して紹介します。

子どもに向けて大人が今できること

「この先、紡績工場はスタッフ1人と犬1とし、人間はその犬にエサをやるために必要だからね」

これは経済学者が集まる席で交わされたジョークだそうです。笑って聞き流すには皮肉が過ぎるようですが、これは何も紡績工場に限った話ではないといいます。

2020年、日本の公的年金を運用するGPIFの最高投資責任者を務めていた水野弘道氏は、ソニーコンピュータサイエンス研究所にAIを使った“サイバーハウンド”の構築を依頼しました。GPIFが当時保有していた約200兆円もの資産を運用する外部ファンドマネジャーの監督作業をサポートするためだそうです。

このプログラムが成功すれば、この監視ソフトが、コンフォートゾーンに甘んじている投資家をキャッチしたり、過去実績に基づいて潜在的なポートフォリオ・マネージャーを選別することができ、さらには、利益を生み出すのは運かテクニックかの判断までもが可能になるのだとか。水野氏はこのプログラムについて、「現在の運用方法を改善するための実験の一環」だと述べています。

こうした急速なAIの進化に対し、私を含む40代以上の世代の大人たちは、「なるほど」と受け入れながら過ごしてもさほど支障はないでしょう。問題は子どもたちです。彼らの世代に向けて、大人たちは何がしてあげられるでしょうか。

そうです。ここでもやはり、答えは1つ。ロジカルな思考力を鍛えることです。私たちは子どもたちにロジカル・ライティングを教えて、論理的な思考力を育てられるようサポートしていけばいいのです。

小学生のうちから論理的に考え、コミュニケーションができるようになれば、将来、ハーバード大卒クラスのリーダーに成長できるでしょう。もちろん、AIを上手に活用しながら。これこそが、21世紀を生きる子どもたちに速やかに施すべき教育だと思います。

頭が固くなってしまう前に

「勉強するにも、頭の中で準備ができていなければなりません。視野を広く持ち、見識も広げるべきです。読書や作文は、この勉強の下地作りにもっとも有効な手段です。下地がうまくできれば、それまでバラバラだった知識がひとつに結びついていきます。そのためにも正しく読み、スピーディに書けることが不可欠です」

韓国屈指の漢学者であるチョン・ミン教授の言葉です。多くの専門家が、幼いうちから作文に取り組ませることで、子ども自身が自分で考えて、その考えを整理し、表現して伝達することに慣れていくと述べています。

チョン・ミン教授の言うように、子どもの脳に勉強を受け入れる準備ができていれば、学んだことをすばやく理解して自分のものにできます。学校でもあらゆる教科で発揮でき、テストだって怖いものなしです。

こうした奇跡みたいなことを実現する上で大切なのは、子どもの頭が柔らかいうち、つまりゴールデンタイムを逃さないようにすることです。

「うちの子、4年生になったら急に国語が難しくなったと言うんです」

保護者の方からよく寄せられるお悩みです。実際、韓国の国語教育は小学4年生から難易度が上がります。3年生までは、「聞く」「話す」の技能に関する内容を聞いていればいいのですが、4年生からは、プロジェクト発表やグループ・ディスカッションなどの時間が増え、事柄を分析し表現しながら学んでいかなければなりません。

次の5年生ではロジカルな考え方が要求される単元も組み込まれており、その準備過程である4年生の国語が難しくなるのは当然です(日本では、小学3年生から筋道を立てて考える力の育成に重点が置かれている)。

国語が苦手だとさじを投げてしまう子どもが出てくるのもこの時期ですが、教育者たちは、プロジェクト発表やグループ・ディスカッションでよい点数を取るには、「筋道の通った考え方とライティング力があれば問題ない」と述べています。理路整然と考えて書ける力を早いうちから身につけておけば、国語が急に難しくなっても難なく対応していけるというわけです。

子どもには変な先入観がない

私がライティング講師を務めている教室の生徒さんたちは、たいていがお年を召した会社員や専門職、中堅公務員の方たちです。こうした十分なキャリアを持つ人たちとのライティングの授業でもっとも苦労するのは、彼らにしみついた自己流のライティング様式を断ち切ることです。大人たちがこれまで積み上げてきた習慣は、新しいライティング法を学ぶ上で大変な障壁となるのです。


その点、子どもたちにはこうした壁がありません。子どもは知らない部分を学び、足りない部分を補うだけ。新しいことに対して変な先入観もないため、学びそのものに集中できるのです。ライティングのゴールデンタイムが小学4年生前後なのには、そういう意味もあります。

(ソン・スッキ : ライティング・コーチ)