新築戸建て採用率70%超の外壁材「サイディング」を使ってはいけない理由

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今、住宅系のYouTube界隈を騒がせている男がいる。動画チャンネル『ジュータクギャング』の押村知也だ。設計から建築、インテリアコーディネイトに至るまで住宅に関するすべてをこなす住宅のスペシャリスト「住空間クリエイター」である。歯に衣着せぬ彼の発言は、わかりやすくて痛快。『ジュータクギャング』は、更新のたびに視聴者の心をつかみまくっている。 そんな押村は5月2日、自身の考えや思いを綴った初の書籍『美しい家のつくりかた』を発売した。
その押村が「使ってはいけない外壁材」として、新築住宅の7〜8割近くで採用されているサイディングを挙げる。ポジショントークがまかり通る業界にあって、その功罪を一刀両断する。

◆「サイディング」が持て囃される理由は、業者が儲かるから

外壁は屋根とともに、住宅を構成する巨大な建材。よし悪しを語る押村の言葉にも、いつもにも増して熱がこもる。

「外壁材に関して、僕はサイディングを使いません。1990年代の半ばから後半にかけて一大ブームを巻き起こし、現在も使われ続けているサイディングですが、端的にいって、見た目が安っぽく、劣化が早いという弱点があります。ものによっては5年から10年ほどで曲がってくるものがあります」

サイディングとは新築住宅にもっとも使われる外壁材で、セメントと木質繊維を板状にして窯で高熱処理することから「窯業系」と呼ばれている。表面にタイルや木目などのデザインが模され、壁に貼っていく形で施工していく。確かにレンガやタイルに見えなくもないが、よく見ると、明らかに別物。日本の住宅が妙に不自然に見える原因でもある。

「サイディングはコーキングといって、部材の継ぎ目をゴムのような素材を埋めていく作業があるのですが、この劣化がまた早い。昔のものは5年ぐらいでヒビ割れや隙間が生じ、ここから雨水が浸入すると目も当てられません」

そんなマイナス面のある部材が、なぜ日本中に広まったのか。

「理由は簡単で工期が短くて済むからです。日本に古くからあるモルタルや漆喰などの外壁は湿式工法と呼ばれ、塗ってから乾かすまでの時間が必要です。一方、サイディングは乾式工法なので、乾燥時間が不要。3日か4日もあれば作業が完了し、あっという間に家が建ちます。工期は当然、人件費に直結しますから、会社の利益を重視する住宅会社にとっては、サイディング一択というわけです」

さらにサイディングは、貼るだけの作業がメインになるため、熟練した職人を揃える手間も要らないのだとか。住宅会社にとっては、まさに願ったり叶ったりの建材というわけだ。

◆「モルタル+吹き付け塗装」の組み合わせこそ至高の外壁

では、押村はどんな外壁材を使っているのか。

「もっとも美しい外壁として、僕が辿り着いた答えはモルタルに吹き付け塗装です。近年のモルタルは進化が著しく、メンテンスがしやすくなり、扱いやすいものになりました。そのうえにセラミック塗装を施すことで、ひび割れに強い耐性をプラスしています。工期の長さが難点ですが、美しい家を建てたいのであれば、必要経費となります。見た目は安っぽくともコストを削減するためにサイディングを選ぶことを否定はしませんが、外観の美しさにこだわりたいのであればサイディングは使わないということです」

養生期間なども要する押村の施工法だと2か月はかかるという。こだわりの仕事というしかない。

「サイディング以外の建材には、軽量気泡コンクリートというボードを貼っていくタイプのものがあります。軽いのでマンションやビルに採用されることが多く、部材としては悪くはないのですが、いかんせん継ぎ目の部分が目立ち、見た目はいまいちです。タイルやレンガといった伝統的な外壁材は、個人的には好きなのですが、メンテナンス面にやや難ありです。費用も高額になります」

最近よく耳にするようになったガルバリウム鋼板はどうだろうか。アルミニウムと亜鉛の合金を、メッキに使った鋼板で、シンプルでモダンだということで支持が広がっている。

「倉庫のような外観の家を建てたいのであれば止めはしませんが、凹みや傷に弱く、僕の選択肢には入らないですね。こうした話自体、ポジショントークと両断されるのでしょうが、外壁選びを考えるきっかけになってほしいと思います」

家々の外壁を見比べてみると、また違った街の風景が見えてくるはずだ。

〈取材・文/ツクイヨシヒサ〉

【押村知也】
(おしむらともや)スタイラス所属。20代で建築、都市計画、インテリア、暮らしについてカナダ、アメリカで学び、輸入住宅などを手掛けるも挫折、住宅とは何かを見失う。大手ハウスメーカーや大手デベロッパーにコンサルティングして感じた「業界の嘘」と「都合の良い慣習」に納得できず、悪しき慣習にまみれた日本の住宅づくりからの逸脱が始まり、住宅業界の異端児となり、1000棟以上の建築設計を手掛ける。2022年7月にYoutubeチャンネル『ジュータクギャング』を開設。近著『美しい家のつくりかた』