ハイラグジュアリーが銀幕に登場



ラグジュアリーブランドはすでに、長編映画や評判の高いテレビシリーズの題材になっている。たとえば、2021年の映画『ハウス・オブ・グッチ(原題:The House of Gucci)』や、2018年のテレビドラマ『アメリカン・クライム・ストーリー/ヴェルサーチ暗殺(原題:The Assassination of Gianni Versace)』だ。しかしラグジュアリーブランドは、映画制作という舞台裏での関与もますます増えている。

世界でもっとも権威ある映画祭とされる「カンヌ国際映画祭(Cannes Film Festival)」では今年、サンローラン(Saint Laurent)の子会社で映画・テレビ番組の制作に特化しているサンローラン プロダクション(Saint Laurent Productions)により制作された3作品がオフィシャルセレクションに選出されている。これらの作品はデヴィッド・クローネンバーグ氏やパオロ・ソレンティーノ氏など世界的な映画監督によって制作されたもので、必ずしもファッションに関係してはいない。クローネンバーグ氏の映画『シュラウズ(原題:The Shrouds)』は、バンサン・カッセル演じる男が、死者とつながることのできる装置を発明する作品だ。

カンヌ国際映画祭に3作品が選ばれたことは、どの制作会社にとっても大きな勝利だが、設立からわずか1年の会社にとってはなおさら快挙だ。サンローラン プロダンクションは2023年4月に設立された。

あとに続くラグジュアリーブランド



ほかのラグジュアリーブランドもあとに続いている。LVMHは2月に、ラグジュアリーコングロマリットである同社の新部門で、映画やテレビにおけるクリエイティブなプロジェクトの育成に特化した「22モンテーニュ・エンターテインメント(22 Montaigne Entertainment)」の設立を発表した。ただしサンローラン プロダクションとは異なり、22モンテーニュは特にLVMHのプロパティに関係するストーリーに焦点を当てている。最初の作品はドキュメンタリー形式になるだろう。というのも、LVMHは長年にわたり、ティファニー(Tiffany & Co.)をはじめとするさまざまなブランドに関するドキュメンタリーの制作依頼を数多く受けてきたからだ。

映画制作に関与しているほかのラグジュアリーファッションブランドも、おおむね同じ道筋をたどっている。たとえば、ケリング(Kering)のオーナーであるフランソワ・アンリ・ピノー氏は、自身の妻であるサルマ・ハエックが出演する『ハウス・オブ・グッチ』の制作に携わった。

映画への投資戦略とブランドドキュメンタリー映画の台頭



しかし、ブランド向けの美化されたマーケティングキャンペーンではなく、それ自身が芸術作品となるような映画に資金を投じる戦略のほうが、多くの場合はるかに興味深い。話は2013年に遡るが、プラダ(Prada)はウェス・アンダーソン氏の脚本・監督による短編映画『カステロ・カヴァルカンティ(原題:Castello Cavalcanti)』を制作した。この映画はイタリアが舞台であることを除けばプラダやファッションとはほとんど関係ないストーリーだが、これによってプラダは、受賞歴を持つ映画監督であるアンダーソン氏の名声と自社を結びつけることができた。

ラグジュアリーブランドにとっては名声がすべてであり、LVMHのようなファッション、蒸留酒、ホテル、レストランなどを抱える巨大かつ多様なホールディングブランドが、手はじめとして映画制作に参入するのは当然のことだろう。そして、『ブラックベリー(原題:Blackberry)』、『AIR/エア(原題:Air)』『フレーミングホット!チートス物語(原題:Flamin’ Hot)』などブランドのドキュメンタリー映画が台頭してきている近年の現状において、さまざまなラグジュアリーブランドに関するドキュメンタリードラマが続々と制作される日もそう遠くはないだろう。

[原文:Weekend Briefing: Prepare for a wave of luxury fashion house feature films]

DANNY PARISI(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:都築成果)