大谷妻「真美子さん」報道に危うさしか感じぬ理由
2024年3月18日、ドジャース×韓国代表の試合を観戦する大谷翔平の妻・真美子さん。場所=高尺スカイドーム カメラ=中田卓也(写真:アフロ)
3月20日・21日、メジャーリーグ開幕戦ドジャースVSパドレスが韓国・ソウルで行われ、日本人では大谷翔平選手、山本由伸選手、ダルビッシュ有選手、松井裕樹選手が出場するなど、かつてない盛り上がりを見せました。
しかし、20日深夜にネット上をさわがしていたのは大谷選手ではなく、妻・真美子さんに関わるニュース。試合中、真美子さんの姿が映るたびに実況アナウンサーが「現地制作の国際映像で放送しています」と釈明するように繰り返したことが報じられ、Yahoo!トピックスになるなど反響を集めました。
このアナウンスは「野球の試合なのにNHKは真美子さんばかり映している」という誤解や批判を避けるためのものでしたが、ここ数日間における伏線がありました。大谷選手が真美子さんとの写真を初めて公開したのは15日未明でしたが、すぐに日米のメディアが一斉に報道。真美子さんが開幕戦が行われる韓国に同行したこともあって、報道の数も内容も日増しにヒートアップしていたのです。
以下、週明け月曜から3日間で報じられた記事タイトルの要約をあげていきましょう。
あまりの多さと絶賛にアンチが発生
最も多かったのは、「大谷翔平が伴侶に選んだ妻・真美子さんの知られざる素顔」「真美子さんが海外で大人気のワケ」「真美子さんに憧れる女性が急増中のワケ」「真美子さんはなぜネット民からも太鼓判を押されたのか」「『引退理由』聞かれた会見の受け答えに集まる好感」などの人物像を明かすような記事でした。
次に多かったのが、「大谷の妻…姑とともに夫を応援」「真美子さん韓国入り 遠征中メジャー妻は選手をどう支える?」「真美子さんのパーティー出席者への気づかいに好感度うなぎのぼり」「初ヒット 真美子さんのはしゃぎ方がかわいすぎる」「観客席で“絶叫応援” のど飴が話題に」などの言動をリポートした記事。
しかし、数の多さ以上に目につくのは、プライベートにまつわる記事。「真美子さんの夕食会バッグはZARAの5000円」「左手薬指に輝く指輪のブランドは? 1000億円男が贈った超高級品か」「真美子さんの手料理はお店のようなクオリティ」「『彼女はめっちゃ甘え上手』大学同窓生が話す素顔」「大学時代『学科のアイドル』カラオケで熱唱した日」「大谷、妻・真美子さんの毛玉素朴ニットはどストライクファッション」などの重箱の隅をつつくようなことまで報じられています。
その他でも、「真美子さん現役時代のグッズが早くもネットで高額出品」「出版業界からも熱視線」「玉川徹氏『奥さんはどう過ごすのだろう』妄想止まらず」など、現在や過去から、振る舞いや装飾品まで。多くのメディアがさまざまな角度から記事を量産しています。
しかし、あまりの多さと絶賛一色のムードからなのか。ネット上には徐々に「うんざり」「見たくない」「もういい」「出たがり」「ダサい」「したたか」などのネガティブなコメントがあがりはじめています。決して真美子さんが前に出て目立とうとしているわけではなく、メジャーリーガーの妻として普通の行動をしているだけなのに、報じられる量が多く時間が長すぎるため、アンチが生まれはじめているのでしょう。
報道で貼られるレッテルの危うさ
どのメディアも祝福ムードをベースにしているものの、その多くは真美子さんの周辺を無断で掘り下げ、無責任に絶賛している感が否めません。国民的アスリートの妻とはいえ、一般人女性をここまで絶賛の言葉で埋め尽くしていいのか。本人不在の一方的なメディア報道にはどこか怖さを感じさせられます。
前述したネガティブな声を書き込んだ人々も本当のアンチではなく、メディア報道によってそう思わされていることに気づいているのではないでしょうか。ただ、「ビジネスライクなメディアには乗せられないぞ」と思っていても、あまりに記事の数が多く、絶賛ばかりを目にしていると、ついネガティブな感情が芽生えてしまう……。最大の被害者は「出ようとしていないのに“出る杭は打たれる”という状態」に陥りはじめている真美子さんであることは言うまでもありません。
さらに真美子さんにとって難しいのは、報道によって特定のイメージをつけられてしまい、世間の人々からも「彼女はこういう人」というレッテルを貼られてしまうこと。何年も前のエピソード、長年会っていない人の証言、ちょっとした表情や振る舞い、服やヘアスタイルなどを元にイメージを固められ、もしそれとは違う言動をしたらがっかりされてしまう。さらに、記事の中には真偽不明や臆測混じりの内容も散見されるだけに、真美子さんにしてみれば「それは違う」「身に覚えがない」などとストレスを感じてしまうこともあるでしょう。
一部で「アメリカでは選手だけではなく家族も一緒に戦うからこれくらいの報道は普通」「妻を隠したがるのは日本人だけ」などの声もあがっていますが、はたして本当にそうなのか。他人事だからそのように言えるのではないでしょうか。
真美子さんは今、最も多くのことを報じられている日本人女性であり、そのプレッシャーとストレスを他人が推し量ることは不可能。しかも自分から「私でよければどんどん報じてください」などとウェルカムの意思を示したことはないだけに、メディアのモラルが問われています。
大谷夫妻が心を閉ざす可能性も
同じ国民的アスリートの元メジャーリーガー・松井秀喜さんの妻は2008年の結婚以来、名前や顔が明かされていません。さらに言えば、2人の子どもたちも同様であり、これが「アメリカではこれくらいの報道は普通」という声に違和感を抱く理由の1つです。
ただ、大谷夫妻は松井さんほどプライバシーを守ろうとしているわけではないでしょう。どちらかと言えば、人気球団の看板選手としてファンのニーズに応えるために自然な露出を心がけているようにも見えます。
大谷夫妻がそんな穏やかなスタンスを採っているにもかかわらず、真美子さんに関するメディア報道がさらに過熱したら、警戒心が高まっても不思議ではありません。もし「アメリカのメディアには出るが日本のメディアには極力出ない」、さらに「2人で日本に帰国したがらない」という悲しい事態につながったら、それこそ日本人にとっての損失でしょう。
たとえば、家族や親族、実家のご近所さん、学生時代の同級生や教師、かつてのチームメイトや対戦相手、元恋人など、周辺人物のもとに大挙してコメントを取ろうとする。あるいは、真美子さんが過去に発したコメントや、写真・動画などを血眼になって探し、「だからこういう人」という記事を報じる。大谷選手も真美子さんも「人間ができている」「非の打ちどころがない」などと繰り返し称えられていますが、“聖人化される”という形で追い込まれた2人が心を閉ざしてしまう可能性はゼロではないでしょう。
もし今後も目先の数字を取るために、真美子さんの記事を量産するメディアがいたら、信頼性という点でブランディングは悪化していくのではないでしょうか。同じ“アスリート夫妻の報道”という点では、羽生結弦さんの離婚があったばかりであり、理由のひとつにメディア報道があげられていました。
さらに伊東純也選手や松本人志さんに関する報道でも疑問の目が向けられている最中だけに、真美子さんに関する報道がエスカレートしすぎると、メディア全体に厳しい目が向けられかねません。
今後の報道姿勢が信頼性に直結する
すでにアンチのような声が生まれはじめているだけに、「ウチもやらなければ稼げないから」「他社もやっているから」などの理由で過度に報じ続けることは、メディアにとって長期的な視野で見たら悪手でしょう。今後もし大谷選手がメディア報道に苦言を呈することがあるとしたら、それはプレーに対する集中力を削いでいることになり、編集部への批判は避けられません。
その意味で真美子さんに関する報道は、今後メディアのモラルを測る判断基準になりそうな感があります。ストーカーのような追っかけ記事やプライベートを含む刺激的な記事を報じるメディアは信頼を失うでしょうし、もし「ウチはシーズンに入ったから大谷選手のプレーにフォーカスする」と宣言するメディアがいたら、それだけで信頼したくなるのではないでしょうか。
これまで真美子さんはバスケットボール選手としてさまざまなプレッシャーやストレスを乗り越えてきたのかもしれません。しかし、「妻として国民的アスリートをサポートしていく」ことだけでも難しいのに、自身も海外での新たな生活がはじまり、一挙手一投足が注目を集めるというプレッシャーやストレスは想像を絶するものがあるでしょう。
報じるメディアも、それを目にする私たちも、穏やかに笑う彼女の表面だけを見て好き勝手な言葉を浴びせるのではなく、心情を気づかう言葉をかけるよう心がけたいところです。
(木村 隆志 : コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者)