デリバリーの普及で街中の配達自転車が増えたように、ロボット配送が街の新たな景色となる日は来るのか(撮影:今井康一)

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オフィス街の歩道を走行してデリバリーする自律型ロボット(写真:Uber Eats)

東京・日本橋のオフィス街で、スーツ姿のビジネスマンの間を緑色のロボットが三角旗をはためかせながら駆け抜けていく。

飲食宅配事業を手がけるUber Eats Japan(ウーバーイーツジャパン)は、3月6日から東京・日本橋エリアで自律型ロボットによる商品の配送をスタートした。ロボットの稼働時間は10〜17時で、使用するロボットは計2台。うち1台は予備機として待機する。

同社のマーケットオペレーションディレクターのアルビン・ウー氏は「人による配達を補完する一つのソリューションになる」と意気込む。ウーバーイーツは2022年から本国アメリカでロボットによる配達サービスを実施しており、日本は2国目となる。

日本を選んだ理由について「今後も高い需要と継続した成長が見込め、歩道の整備など優れたインフラがあることが要因」とウー氏は語る。まずは加盟店舗や利用者の集中する東京などの都市部から実施し、将来的には配達員が不足する地域への導入も目指す。

飲食店や注文者はやや負担増

現状では、自律型ロボットに対応している飲食店は2店舗にとどまる。注文できる商品は、ロボットと人とで違いはない。今後は対応する加盟店の数を増やしていく方針だ。

サービス開始時から利用する「とんかつ檍日本橋店」の吉田店長は「(ロボット配送は)運営に大きな影響はないが、店舗の外まで商品を受け渡しに行く手間はかかってしまう」と話す。

注文から受け取りまでの流れは、基本的に人と変わらない。注文受け付け後、利用者にはロボットによる配達であることが通知されるので、同意する必要がある。

そこからロボットが飲食店の前まで商品を受け取りに行き、飲食店スタッフは店の前に停まったロボットに商品を入れる。従来は配達員が店舗内で商品を受け取ったり、デリバリー用の商品置き場へ取りに行ったりするが、ロボット配送の場合は店外に出る必要が生じる。

ロボットは歩道を移動して商品を届けるが、建物の中には入ってこられない。利用者は建物前に到着したロボットまで受け取りに行き、アプリ上に表示されたパスワードを入力すれば商品を取り出せる。

このため「(受け渡しの手間を考えると)昼など混雑時の対応は難しいのではないか」(大手外食チェーン)と懸念の声も上がる。自律型ロボットの最高速度は5.4kmで、歩道の移動で20〜30分程度で到着する距離に制限される。飲食店から2km程度の範囲での運用となりそうだ。

これら課題については「ロボットによる配送サービスはアメリカでも初期段階。テストをしながら改善していきたい」(ウー氏)と改善を見込む。


ロボットは建物の中に入れないため、外まで受け渡しに行く必要がある(提供:Uber Eats)

人手不足解消にはポジティブか

課題はあるが期待する声も多い。

前出のとんかつ檍の吉田店長は「雨天時には配達員の手配に時間がかかり、遠方の配達員を手配することもある。こうした状況だとロボットによる配達は有効」と語る。ウーバーイーツジャパン広報も「季節や時間帯、天候などの条件によっては、加盟店や注文者に対して、稼働できる配達パートナーが少なくなる地域もある」とする。

今回導入されたアメリカCartken社のロボットは、夜間や雨天、軽い雪の際も走行可能だ。さらに「将来的には、配達パートナーが足りていない地域で、デリバリーロボットが配達ネットワークを補完する形で活躍できる可能性もあると考えている」(ウーバーイーツジャパン)と人手不足対策にも目を向ける。

日本での導入にあたっては、三菱電機が2023年に改正された道路交通法に準拠した使用に改良。運用は三菱電機の関連会社メルコモビリティーソリューションズが担当する。ロボットには360度見渡せるカメラを搭載し、オペレーターが常時監視することで、緊急時に出動できるスタッフが待機して対応にあたる。

走行時は歩行者などを感知し、自動で停止や進路変更を行う。一方で信号などの交差点では、あらかじめ一時停止するように設定。交差点を渡るにはオペレーターの許可が必要だ。

将来的には建物内への配達も実施

配達で使われる自律型ロボットを開発したCartken社は、2019年にGoogleのエンジニアらによって設立されたスタートアップ企業。今回使用されるロボット「Mode lC」は、長さ71cm、幅46cm、高さ60cmの機体に、最大27L・20kgの荷物を積載できる。

将来的にはエレベーターなどと連携して、建物の上層部への配達も実施していくという。三菱電機開発本部先進応用開発センター長田中昭二氏は「ビルシステムと連携して、エレベーターを使用した建物内での縦移動もできるように開発している」と話す。

デリバリー需要はコロナ禍の2020年に需要が大きく拡大し、2023年は8603億円が見込まれる(NPDジャパン調べ)。これは2019年と比較して2倍近い水準であり、足元も拡大が続いている。

人手不足が深刻化する中、自律型ロボットは解決策の一助となるのか。デリバリーの普及で街中の配達自転車が増えたように、ロボット配送が街の新たな景色となる日も近いかもしれない。

(金子 弘樹 : 東洋経済 記者)