清水一仁苫小牧駅長の出発合図で発車するH100形日高本線ラッピング車両(筆者撮影)

JR北海道と沿線市町は2月12日、苫小牧駅でH100形日高本線・室蘭本線のラッピング車両を公開した。H100形のラッピング車両はこれまで釧網本線、花咲線、石北本線、富良野線の沿線風景を描いたものが登場しているが、今回は国鉄一般気動車標準色や石炭車セキ3000の外観を取り入れたデザインが話題を呼んでいる。主催者らは地域のアピールと鉄道利用の喚起につなげたい考えだ。

プレ乗車は抽選倍率約4倍、高い注目度

式典は出発式、抽選で選ばれた25名の乗客を乗せてのプレ運行、お披露目見学会の順番で行われた。

出発式には苫小牧市の木村淳副市長、白老町の大塩英男町長、厚真町の西野和博副町長、安平町の及川秀一郎町長、むかわ町の竹中喜之町長、JR北海道の萩原国彦常務取締役が出席。苫小牧市の木村副市長が代表して挨拶したほか、首長と萩原常務取締役も一言ずつコメントした。むかわ町の竹中町長からは「動くPR」という言葉が使われるなど、内容は新たな車両に期待するものがほとんど。集まった乗客の多さを見ても、期待の高さをうかがわせた。

9時15分ごろ、苫小牧駅の1番線ホームにH100形のラッピング車両が入ってきた。プレ運行に使用された日高本線ラッピング車両は国鉄一般気動車標準色をベースに、胆振地域を象徴する馬や恐竜のイラストが描かれている。到着後に記念撮影が行われ、各市町の首長と抽選で選ばれた25人の乗客が車両に乗り込んだ。プレ乗車は苫小牧市が沿線市町在住者や通勤通学者を対象に募集し、市の担当者によると締切日の2月6日までに97人の応募があったという。定員25人の約4倍の応募があったことになり、広報活動は一定の成功を収めたと言える。


苫小牧市などの沿線市町の首長やキャラクターと記念撮影するプレ運行の乗客たち(筆者撮影)

9時20分、清水一仁苫小牧駅長の出発合図でプレ運行列車が発車。日高本線鵡川駅まで1往復した。

H100形ラッピング車両は、これまでも石北本線や釧網本線などの沿線風景を描いたデザインの車両が登場している。1両製造するためには約3億円の費用が必要で、これを国(鉄道・運輸機構)と北海道が折半して捻出。北海道高速鉄道開発株式会社が車両を保有し、JR北海道が同社から無償で車両の貸与を受けて運用するという仕組みだ。車体にも北海道高速鉄道開発の銘板が設置されているほか、車内に乗客にこれらのスキームを説明するステッカーが貼付されている。今回登場した車両も同様の仕組みで製造されており、内装はこれまでのラッピング車両と同一。定期運用のほか、イベント開催時などには観光列車としても使用できる。2023年度中に、根室本線および宗谷本線のラッピング車両も登場する予定だ。


鉄道・運輸機構と北海道の支援を受けたことを説明するステッカー(筆者撮影)

今回は日高本線と室蘭本線をイメージしたラッピングだが、現時点では設備の関係上、日高本線をワンマン運転で走行できないため、室蘭本線の長万部―苫小牧間と東室蘭―室蘭間で普通列車として運用される。

恐竜や馬、炭鉄港を前面に押し出したデザイン

10時20分過ぎ、日高本線ラッピング車両が苫小牧駅に帰ってきた。乗客を降ろした後いったん引込線に入り、室蘭本線ラッピング車両が入線していた4番線ホームに進入。10mほど離れた位置で展示された。ドアが開放され、車内を自由に見学できるようになっている。


日高本線ラッピング車両のH100-85。胆振の馬と恐竜をデザインしている(筆者撮影)

日高本線ラッピング車両は、山側と海側でデザインが異なる。日高胆振のアイヌ文化を象徴する紋様が描かれ、それぞれの側面に馬の産地を表すイラストと国内最大の全身骨格化石「カムイサウルス・ジャポニクス」(通称「むかわ竜」)をあしらった。


恐竜の表皮をよく見ると「ヒダカセン」の文字が隠れている(筆者撮影)


室蘭本線ラッピング車両のH100-84(筆者撮影)


国鉄時代とフォントは異なるが、「セキ3000」の表記もある(筆者撮影)

一方の室蘭本線のラッピング車両は、黒を基調とした車体に警戒色の黄色が目立つデザインだ。石炭輸送に活躍した石炭車セキ3000をモチーフに、線画で地域の魅力を表現した。北海道内で運用された車両には「道外禁止」という文字が配されていたが、ラッピング車両でもこの表記を再現している。

厚真町の担当者にラッピングデザイン決定の経緯を聞いてみると、デザインは沿線市町が話し合って決めたという。「せっかくデザインするのならただ観光資源のイラストを羅列するのではなく、個性的な車両にしよう」という方向にまとまり、個性を際立たせる中にも地域の魅力を詰め込むデザインを模索。さまざまな議論をする中で国鉄一般気動車標準色と炭鉄港を表現する石炭車が良いのではないかという結論に落ち着き、それをベースとして地域の魅力をデザインに取り入れることとした。室蘭本線では2022年に開業130周年を記念して急行「道外禁止号」という臨時列車を運転しており、これと関連づけて1つのストーリーと捉え、鉄道ファンや地元住民に愛されてほしいという思いも込めたという。


ラッピング車両の内装(筆者撮影)


北海道をイメージできるモケットを使ったボックス席には、道産木材を使用したテーブルが設置されている(筆者撮影)

地域振興につなげられるか

ラッピング車両は室蘭本線長万部一苫小牧間と、東室蘭一室蘭間で普通列車として使用される。現時点で運行開始日は未定だが、2両のH100形の運行が地域の鉄道利用増につながるかがポイントになりそうだ。他路線のラッピング車両も取材してきたが、今回のように地元自治体の首長らが一堂に会したお披露目会はこれまでなかった。地元の期待の高さがよくわかる式典であり、2両の気動車はむかわ町の竹中町長が述べたように動くPR車両として、道内外へのアピールを担うことになる。


左からJR北海道萩原国彦常務取締役、厚真町西野和博副町長、白老町大塩英男町長、安平町及川秀一郎町長、むかわ町竹中喜之町長、苫小牧市木村淳副市長(筆者撮影)

式典終了後、ホームで自治体職員らが「これからたくさんJRを使って、応援していきましょう」と締めの挨拶を述べていた。厳しい経営が続く路線も多いJR北海道だが、ラッピング車両が一筋の光となることを願いたい。

(吉谷友尋 : 鉄道ライター)