横浜市内でのゴミ拾いの様子。個人でできる環境配慮活動はさまざまだ(写真:鈴木さん提供)

写真拡大 (全7枚)


自宅から排出するプラスチックゴミの量を量り、記録していた(写真:鈴木さん提供)

横浜市在住の鈴木さん(仮名:50代女性)は、日々の生活の中でプラゴミをいかに減らすかを考えている。買い物をする際は、なるべくプラ包装が少ない商品を選ぶ。生活様式は大きく変えずに、ちょっとした選択で、プラゴミを減らすことは可能だと実感している。

コロナ禍では、デリバリーを含め家で食事する機会が多く、容器などのプラゴミが増えた。

気になった鈴木さんは当時、どれだけ自宅からプラゴミを出しているかを知るために、毎日重さを計量することにした。その目的は「ダイエットと一緒で計量、記録することで少しずつ減らすことでした」と語る。

計量ダイエットは、摂取する食品のカロリーなどの量を把握することで過食を防ぎ、健康的な食生活に役立つとされている。体重の減少をグラフ化してワクワクしたように、プラゴミの重さを「見える化」することで、削減の動機にしようと考えたのだ。

プラゴミなしのライフスタイルは困難

しかし、「続けていくうちに、どんな生活をすればプラゴミを出さずに済むかがわかってきました。でも、そのライフスタイルを取れないのが現実だと痛感しました」と振り返る。

自炊用の食材も、お惣菜も、プラスチック容器や包装で販売されている。毎食外食にすればプラゴミは減るだろうが、現実的ではない。あるいは、山奥で自給自足をすれば、プラゴミは出ないかもしれないが、「(都市に住み仕事を持つ)自分にはできない」と鈴木さんは話す。

石油由来のプラスチックは、あらゆる商品の包装に使われている。便利で使い勝手が良い反面、温暖化の原因となるほか、不適切な廃棄は海洋汚染を引き起こす。

大都市での生活は利便性が高いが、環境への負荷も高い。国際エネルギー機関(IEA)によると、都市には世界人口の約半数が暮らし、国内総生産の8割を創出しているが、エネルギー消費の3分の2を占め、温暖化ガスの約7割を排出している。

2050年には世界人口の7割以上が都市に住むことが見込まれており、これまでのライフスタイルを続ければ、都市部の温暖化ガスはさらに増える。

鈴木さんは現在も、プラゴミ量の計測を月1回のペースで続けている。仲間と一緒に横浜港へ続く大岡川周辺でゴミ収集活動なども継続。「都会に住む人々こそ、自然や環境に配慮した生活をすべきです」、そう鈴木さんは主張する。

地球環境のため一人一人にできることとは


横浜市内でのゴミ拾いの様子。個人でできる環境配慮活動はさまざまだ(写真:鈴木さん提供)

プラゴミ削減は地球環境に配慮した行動の一例だが、他にも生活周りでできることはたくさんある。

環境省によると、衣食住、移動、レジャーなど個人の活動から排出される温暖化ガスは消費ベースで6割を占める。他方、個人が「何をしたら良いのかわからない」といった疑問に答えるために同省は「ゼロカーボンアクション30」を公表している。

中には、「エアコンの使用時間の短縮」や「宅配便を1回で受け取る」といった比較的容易にできる事もある。こうした行動は、CO2削減の効果が小さいものの、大勢が意識して行動すれば、「雨垂れ石を穿(うが)つ」効果が期待できる。


「ゼロカーボンアクション30」で紹介されている行動例とCO2削減量(画像:「ゼロカーボンアクション30」HPから一部抜粋し作成)

アメリカ・エネルギー省は、家電製品の電源をオフにしてもコンセントから電力をいつの間に消費する“妖怪”を「エナジーバンパイア」と呼ぶ。血は吸わないが、電力とお金を吸い、平均的な家庭で年間100〜200ドル相当の費用がかかる可能性があるとしている。


アメリカ・エネルギー省は、家電製品の電源をオフにしてもコンセントから電力をいつの間に消費する“妖怪”を「エナジーバンパイア」と例えている(出所:「US Department of Energy」Website)

日本でも環境省は、家庭の年間電力消費量のうち待機電力による電力消費が約6%に上ると試算。これは、テレビの消費電力量とほぼ同じで、決して小さくはない。未使用時にエアコンなどのコンセントを外すことは省エネと節約につながる。

大都市の脱炭素化はハードルが高い

国は2050年までに、二酸化炭素(CO2)などの温暖化ガスの排出量を、森林や海洋による吸収量で相殺し、実質ゼロにするカーボンニュートラル目標を掲げている。ほぼ全国すべての自治体も同様の目標を掲げ、実行段階に移りつつある。

地方自治体の中では、東京都や横浜市のような大都市は再生可能エネルギー資源が乏しいため、脱炭素化目標を達成するハードルは高い。

たとえば人口377万人を抱える横浜市では、エネルギーのほとんどを石油やガスなどの化石燃料に依存している。

これを再生可能エネルギーに置き換えていく必要があるが、市内で創出される見込みの再エネ供給容量は、2050年の推計電力消費量の10%弱と試算されている。

こうした中、全国平均の2倍に迫る家庭から出るCO2排出量をいかに減らすかが課題となっている。


横浜市の部門別CO2排出(画像:「横浜市温室効果ガス排出状況」のデータをもとに筆者作成)

家庭から排出されるCO2は、基準年の2013年度からの8年間で7%しか減っておらず、全体の削減率21%に対する寄与度も1.2ポイントと、廃棄物を除けば最も小さい。

他方、コンビニや事務所などの業務部門、製造業などの産業部門、石油やガスなどのエネルギー転換部門は、家庭部門と比べて削減率や削減寄与度が大きい。

企業関連でCO2の削減が進む背景には、環境などに配慮した活動(ESG)が内外で求められている事がある。一方、家庭にはこうした制約はない。環境に優しい行動を取るかどうかは、基本的には各家庭の判断に委ねられている。

かといって、家庭や個人が自由奔放に炭素依存型のライフスタイルを続ければ、脱炭素目標の達成が遠のくばかりか、快適な住環境や健康が維持できなくなる可能性もある。

筆者が研究の一環として実施した横浜市民300人(20歳以上70歳未満)を対象とした環境に関するアンケート調査(オンライン形式)では、最近の異常気象を背景に将来の居住環境に関しては、8割程度の回答者が不安を持っていることが確認できた。

健康への影響について、ある回答者からは「私はアトピーで昔から暑さに弱く、現在の温暖化には本当に悩むところです」とのコメントが寄せられた。暑い日には、より多くの汗をかくことで皮膚の乾燥を引き起こし、かゆみや炎症を悪化させる場合もあるという。

一方、温暖化に懐疑的な回答者は1割強存在し、「デマを流すな」などのコメントもあった。

関心と行動の不一致

いずれにしても同調査を通じ、8割程度の回答者が程度の差はあれ、環境問題に関心を持っていることがわかった。

問題は、関心の度合いが、必ずしも環境に配慮した行動と一致していない点である。日常生活で何らかの環境に配慮した行動をしていると回答した人の割合は約6割と、関心の割合との間で開きがある。

「高い関心」を持っていると回答した人(300人中28人)ですら、積極的な行動をしている人はわずか5人で、それ以外の人の行動はバラツキが見られる。意識が高くても、必ずしも行動が伴っているわけではない。


環境問題に「高い関心」がある人でも、環境に配慮した行動を取れていないと自覚している人たちが一定数いる(画像:筆者によるアンケート結果から作成)

社会心理学の分野では、関心と行動の間の不一致の原因についてさまざまな研究がされ、その要因として、知識や経験の不足、費用負担能力や実行可能性の有無などが指摘されている。

そのほか、仕事や子育てによる多忙、体調不良、肉の中で最も環境負荷が高い牛肉などを食べる欲求を抑えられない、など、さまざまな要因も考えられる。

誰もが、両者の乖離をなくすことは難しいが、ダイエットのように粘り強く続けていくことで、縮小させることはできるはずだ。

一方、温暖化の進行が加速していることを踏まえると、補助金などを活用しながら、CO2削減効果が大きいゼロエネルギー住宅なども併せて検討していくことも必要だろう。

(伊藤 辰雄 : ジャーナリスト)