「すぐやる」組織がはまりがちな思考停止の罠
上司からの命令をひたすら実行することに疲れ、思考停止になった経験はないでしょうか(写真:mits/PIXTA)
あなたは、上司からの命令をひたすら実行することに疲れたことはないだろうか。
その原因の1つとして、組織が「思考」と「行動」のモードをうまく切り替えられないことがあると、米海軍の原子力潜水艦「サンタフェ」の元艦長、マルケ氏は述べる。
「実行」と「思考」をバランスさせるにはどうしたらいいのか。マルケ氏の近著『最後は言い方』より紹介しよう。
ビジネスで、考える、あるいは決断を下すとき、バリエーション(多様性やばらつき)は味方となる。バリエーションが広がるほど、イノベーションや創造性、選択肢の幅が広がるからだ。
バリエーションを歓迎する言い方
私たちはよく次のような言い方をする。
●ブレーンストーミングでは、さまざまなアイデアができるだけたくさん出てほしい。
●意思決定を行うときは、幅広い選択肢があってほしい。
●真実を見極めるために、異なる視点を知りたい。
ここからも、バリエーションが思考にメリットをもたらすと私たちが考えていることがわかるだろう。
仕事を進めるには、思考と行動のどちらかだけでは不十分だ。
どちらも適切な量を行う必要がある。そのバランスを見つけて、両方を効果的に行うために、チームとして意図的に仕事のやり方を変える必要がある。
行動から思考へ、思考から行動へと、意識して仕事のモードを切り替えるのだ。
私が艦長を務めていた潜水艦では、バリエーションを歓迎する思考の時間を設けていた。この時間は多種多様な意見が歓迎され、こんな質問が飛び交った。
◆「みんなはどう思うか」
◆「準備はどの程度できているか」
◆「別の見方はできないか」
そして、行動に移す準備ができたと上官が判断したら、思考モードから行動モードに切り替える。
行動に移すと決まったら、バリエーションは敬遠され、正確さが求められる。ここでは、決まった手順に従うのだ。
行動に取り組んでいるときは、できるだけ定められたとおりにやることが望ましい。
魚雷の装填を例に考えてみる
魚雷の装填を例にあげよう。魚雷は1本ずつまったく同じように装填されるのが常だった。肉体的にはきつい仕事だ。
しかし、どの魚雷をどの発射管にいつ装填するかを決めることに比べれば、頭脳労働はあまり必要とされない。
魚雷の装填といった作業の実施には、必然性や達成感が生まれる。そのため、こうした作業に人はのめり込みやすい。「やり遂げた」ことで生まれる高揚感に丸め込まれてしまうのだ。
だが、反省することなく何度も業務を完遂させていると、次第に、やり遂げても何も感じなくなってしまう。
バリエーションを歓迎する状況では、「開かれた」「好奇心をそそる」「可能性がある」「改善に目を向けた」といった言葉が使われる。
あるいは、「どうすればわかる?」や「どの程度安全なのか?」といった問いかけとなり、好奇心や弱さが言葉に表れる。
誰もが同じことを考えていれば、バリエーションは少ない。
そういう状況は、「意見の一致」という言葉で表されることがある。これは、肯定的な意味で使われるのが一般的だ。
だがこれは、バリエーションがなくなったということでもある。人々の意見が異なるとき、とりわけ反対意見が出るときは、バリエーションが豊富な状況だ。
人はものを考えるときにバリエーションを望まない。多様な意見を歓迎し、意見の一致を避けるべきときでも、リーダーは意見を一致させようとすることが多い。
そうしておきながら、チーム内から新たなアイデアが出てこないのはなぜだろうと首をかしげる。
人はなぜ、バリエーションを減らしたがるのか?
まず、選択肢が増えれば、そのぶん認知的なハードルが上がるという点があげられる。要は考慮しなければならない要素が増えるのだ。これは大変な作業だ。
人の脳は労力を最小限にとどめるように配線されているので、そうした大変な作業を拒む。買い物客に多すぎる選択肢を提示すれば、その客は何も買わない。
行動モードのときは、意見の多様性は組織の敵になる
だが、それ以上に重要な理由として、バリエーションは、つねに組織の重要事項とされてきた、「行動」の敵になるという点があげられる。
バリエーションが増えることは、思考の際にはメリットになる。逆に、行動の際は、バリエーションを減らすことがメリットになる。
この違いは重要だ。例をあげよう。
●パーツを製造する場合、どのパーツも可能な限り同じでないといけない。製造業にとって、ばらつき(バリエーション)は過失となる。
●潜水艦を動かす乗員は、手順に忠実であることが求められる。手順を勝手に変えるのは違反行為となる。潜水時、「ハッチを閉じる」が先で「潜水する」が次となり、この順序を逆にすると過失となる。
●ファストフード店で出すハンバーガーは、顧客の要望がない限りはどれも同じでないといけない。ファストフード店では標準化が勝つ。
バリエーションを減らす言葉は、結果を重視し、ひとつのことに意識を向けさせようとする。つまり、やり方と手順の厳守を徹底させるということだ。
そのため、「このやり方で実行しろ」や「間違いない」といった言い方になる。
バリエーションを減らすための言葉は、制御と服従を促す。
意思決定(考えること)と実行(行動すること)は種類が異なる仕事であり、バリエーションのとらえ方も正反対になる。
よって、意思決定と実行ではまったく異なる頭の使い方が必要になり、使う言葉の種類も変わる。
あなたも、バリエーションを歓迎すべき時に、それを打ち消すような言い方をしないよう気をつけよう。
(L デビッド マルケ : 米海軍攻撃型原子力潜水艦「サンタフェ」元艦長)