内向型の人の「集中力」が高いのは、自分の内側に意識を集中させやすい脳構造になっているからといわれています(写真:jessie/PIXTA)

「2人に1人いる」とも言われる「内向型」。実はイーロン・マスク、ビル・ゲイツも「内向型」です。彼らの共通点は「驚異的な集中力」です。内向型の人の「集中力」が高いのは、自分の内側に意識を集中させやすい脳構造になっているからなのです。本稿では、「超外向型社会・アメリカ」の精神科医である大山栄作氏の新刊『精神科医が教える「静かな人」のすごい力』から一部抜粋・再構成のうえ、内向型の潜在能力をお伝えします。

イーロン・マスク-― 静かな人の「超・集中力」

内向型の人の「集中力」が高いのは自分の内側に意識を集中させやすい脳構造になっているからといわれています。

ですから、内向型は誰しも驚異的な集中力を発揮します。テスラやスペースXの創業者であるイーロン・マスクは、アメリカでは内向型として有名ですが、仕事に没頭するあまり、週に120時間以上働き、つねに睡眠不足なのは有名な話です。

健康を心配するTwitter(現X)での呼びかけに深夜2時半過ぎに反論したというエピソードがあるほどです。自信に満ちたスピーチで知られていますが、あれは訓練の賜物です。彼は自身についてこう語っています。

「基本的に、私は内向型のエンジニアだ。壇上でスピーチをする際に吃音が出ないようにするため、苦労して訓練を積んだ。……CEOとして、避けては通れなかったからだ」

マイクロソフト創業者のビル・ゲイツも同じく内向型として有名です。彼の集中力のすごさも語り継がれています。共同創業者のポール・アレンは自身の著書でゲイツの仕事ぶりをこう振り返っています。

「深夜の作業中にビルが端末の前でうたた寝しているのもよく見た。コードを打ち込んでいる最中に、徐々に身体が前方に傾いていき、ついには、鼻がキーボードにあたってしまう。そのまま1、2時間眠った後目を覚まし、薄目でスクリーンを見て2度ほどまばたきをすると、すぐに何事もなかったように作業を続行する。本当に信じがたいほどの集中力である」

ゲイツの集中力がなぜすごいかについてはコンピューター科学者のカール・ニューポートの分析が興味深いので紹介します。

彼は「ディープワーク」という概念を提唱し、ゲイツこそディープワークの実践者だと指摘しています。

ディープワークとは注意力が散漫することなく集中し、脳が潜在能力をフル稼働させている状態です。ディープワークが新たな価値を生み、スキルを向上させ、容易に真似ることができない競争力を生み出す源泉になります。

ディープワークを実践できれば、難しいことをより早く学べるように思考回路を組み直せます。その結果、より短い時間でより質の高い仕事も実現できます。

ゲイツは1年に2回山小屋にこもります。その期間を「シンキング・ウィーク(考える週)」として、外の世界を完全に遮断します。メールも携帯電話も使わなければ、インターネットにも接続しません。読書と思索にふけります。

もちろん、ビジネスのアイデアを練る場でもあります。従業員が提案する新しいイノベーションや投資案が記された紙の山にたったひとりで向き合い、構想をじっくり練ります。

1995年に提供を開始したInternet Explorerをはじめとするイノベーションは、まさにディープワークによって生み出されたといわれています。

内向型が持つ「エネルギーを内に向ける力」

内向型と外向型では情報処理の方法が違います。内向型の人と外向型の人の血液は、脳内でそれぞれ違った経路をたどるのです。

内向型の人の情報処理の経路は、より複雑で、内部に集中しています。内向型の人の血液は、記憶する、問題を解決する、計画を立てるのに関わる脳の各部へと流れます。経路は長く複雑です。

ですから、内向型の人は思考を重ねたり、細かい情報をまとめて抽象化したりする能力に長けており、長期的なプロジェクトを計画して実行するのが得意です。

対照的に外向型の人の血液は、視覚、聴覚、触覚、味覚(嗅覚は除く) が処理される脳の各部へ流れていました。彼らの主要な経路は短く、複雑ではありませんでした。

そのため、外部の出来事への反応は速いのですが、思い付きで行動するケースも少なくありません。

両者の情報処理の大きな違いは、外部からの刺激(情報)に対して意図や解釈を加えてから記憶し、処理・反応に結び付けるかどうかにあります。

内向型の場合、情報・意味付け・計画・記憶・問題解決を扱う脳の領域を移動するため、移動領域も多くなります。意味や解釈を加えるには意識を自分の内側に集中させる必要もあります。内向型は外向型の経路よりも40%多くのエネルギーを使用するとの報告もあります。

内向型が集中力に優れているのは、自分の内側に意識を集中させやすい脳構造になっているからといえるのです。

なぜ静かな人は「驚異的な集中力」を発揮するのか?

内向型の人が外向型の人に比べて集中力が高いのは、脳の網様体賦活系の働きの違いによっても説明できます。

網様体賦活系は聞きなれない言葉だと思いますが、外部からの刺激を最初に処理して、脳に伝える部位です。大脳皮質の覚醒を引き起こしたり、脳内の情報を仕分けしたり、検索エンジンのような働きも担っています。


例えば、皆さんが何かを見たときに「これ、3年前にも見たことあるぞ」といったように思い出せるのは網様体賦活系が古い記憶を呼び起こしているからです。

また、赤いコートが欲しいなと思って街を歩いていると、赤いコートを着た人ばかり意識してしまうのも網様体賦活系の働きによるものです。

これまでの研究では、内向的か外向的かは網様体賦活系の個人差によって決まるとされています。内向的か外向的かは網様体賦活系によって引き起こされる大脳皮質の覚醒と制止によって説明できると理解されています。内向的な人は覚醒レベルが高く、外向的な人は制止レベルが高いと考えられています。

内向的な人のほうが刺激に対して敏感ですので、大脳皮質は少しの刺激でも過剰に覚醒しやすい構造になっています。そのため、過剰な興奮を避けるために刺激を可能な限り避ける傾向があります。

一方、外向的な人は刺激に対して鈍感です。大脳皮質の覚醒が遅かったり、覚醒状態になってもすぐに覚醒が収まったりします。ですから、通常の刺激では外向型はすぐに退屈して、満足できません。より強い刺激を求めて、活動的になります。

このように内向型の脳は刺激を抑える仕組みになっています。網様体賦活系が刺激を回避して、集中力を発揮できる環境を整えているのです。

(大山 栄作 : 精神科医)