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弁護士が中心となって結成した市民団体が2月、テレビ朝日を傘下に持つテレビ朝日HD(ホールディングス)の株主総会で、ある株主提案をすると発表した。一般市民が株主としてテレビ局にモノ申すという斬新な試みの狙いを聞いた。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)

●きっかけは1年前 放送法の「政治的公平」解釈をめぐる行政文書

団体の名前は「テレビ輝け!市民ネットワーク」。2月5日に東京都千代田区の日本外国特派員協会で記者会見を開き、今後の構想を明らかにした。

団体によると、市民が連携してテレ朝HDの株を購入することで、政治介入の疑いがあった場合に番組を検証する仕組みを導入するなどの提案を株主総会で実施する。

すでに賛同する約50人で4万株以上を購入済みで、株主提案できる量を取得したという。

そもそものきっかけは、2023年3月、放送法をめぐる総務省の行政文書が公表されたことだった。

その文書には、第2次安倍政権下の2014年から15年にかけて、当時の首相補佐官が放送法4条の「政治的公平」の解釈をめぐって総務省側に働きかけた経緯が記されていた。

「当時は安倍一強の時代で、この問題についてテレビからなんの批判も起こらなかった。こんなに大変なことがあったんだなと知り、民放に一石を投じなければと思った」

団体の事務局を務め、今回のアイデアを最初に提案した弁護士の阪口徳雄さんはそう振り返る。

2月の記者会見では、「テレビ輝け!市民ネットワーク」の共同代表を務める元文部科学省事務次官の前川喜平さんが「権⼒者が全体の奉仕者ではなくて⼀部の奉仕者になっているのではないか。権⼒のありようを鋭く⾒つめ、その実態を暴いて⼈々に伝えることがテレビに期待する役割だが、テレビが逆に権⼒者に取り込まれてしまっているのではないか。そこに私は強い懸念を抱いている」と述べた。

●株主提案の柱「外部の干渉に忖度、迎合、屈しないで」

阪口さんはこれまで、大企業に対する株主代表訴訟に数多く携わり、経営者の責任を追及することで会社の問題を改善させようとしてきた。

しかし、そうした従来の方法では個人の責任を問うことで終わり、組織としてのテレビ局の問題は解決できないと感じ、前向きな改善を促す意味で「株主提案」を活用することを思いついた。

今回テレ朝HDを対象にしたのは、阪口さんが昔から購読してきた朝日新聞と資本関係にあったからだという。将来的には他の放送局にも株主提案の取り組みを広げたい考えだ。

テレ朝HDの株主総会で提案する具体的な内容は検討中だが、現段階で次の4つの柱を定款に加えるよう求める方針だという。

(1)法人や子会社の役員や職員は、放送法が定める自主、自立性を遵守する。何人からの干渉に忖度、迎合、屈することなく、政権の見解を報道する場合はできるだけ多くの角度から論点を明らかにすることにより市民の知る権利、報道の自由を守る役割実現のために努力し、視聴者の期待に応える。
(2)個別番組について政権、政党、政治家などからの「介入」と疑われる事態が発生した場合、第三者委員会を設置して検証し、調査結果を公表する。
(3)子会社の番組審議会の委員の在任期間は10年限りとする。委員長は5年とする。委員には第三者性を確保する。
(4)前川喜平氏を社外取締役に推薦する。

●賛同者の広がりを目指す テレビは「事実を伝える灯台になって」

これらの提案について、団体としては「必ずしも可決されるとは思っていない」という。

しかし、阪口さんと一緒に事務局を担当する梓澤(あずさわ)和幸弁護士は「この運動に興味を持った人に株主になってもらったり、すでに株主になっている人に一票を投じてもらったりすることでおもしろい動きになっていく。そこをどう広げられるかが問題です」と語る。

同じく事務局の杉浦ひとみ弁護士は「株を買ってチャレンジすることで関心がわく。この運動を足がかりにしていきたい」と、さらなる賛同を呼びかけている。

阪口さんは「私はテレビ朝日を批判する対象とは見ていない。放送法を尊重する放送をしてほしいと、ある意味期待している。日本を戦争に突入させないためにも、テレビには人々のために事実を伝えていく灯台になってほしい」と強調する。

前川さんと同じく「テレビ輝け!市民ネットワーク」の共同代表を務める法政大学前総長の田中優子さんは、記者会見でこう話した。

「テレビの影響⼒はまだまだ⼤きい。だからこそテレビ番組には正確かつ公正であってほしい。私がテレビに望むことは『偏りのない正確なデータ』と『根拠のある多様な意⾒の提⽰』です。 政権はこの数年、問いに応えず、反対意⾒を切って捨てる姿勢が⾮常に目立っている。 国⺠が個々の意⾒を持つことが⺠主主義の基本。テレビにはぜひその役割を担ってほしい」