名古屋鉄道のダイヤは、他の鉄道会社であまり見られない「種別変更」や「特別停車」などの特殊な運用が見られます。なぜこのようなダイヤが採用されているのでしょうか。

「名古屋から普通、鳴海から急行」なぜわざわざ変更する!?

 名古屋鉄道のダイヤは、他の鉄道会社と比べていくつかの「特殊な運用」が見られることが知られています。

 ひとつは、急行や特急などの優等列車で、正規の停車駅に対して「特定の便だけ特別に停車する」という「特別停車」です。その逆の「特別通過」もあります。イベント開催で「臨時停車」というのは全国でもよくありますが、通常ダイヤでこのような停車駅のばらつきを設定しているのは珍奇な存在です。

 もうひとつが「種別変更」、つまり列車が途中の駅で「急行→普通」のように変化するというものです。名鉄はこの種別変更がごく当たり前の風景で、全国の鉄道と比較しても、圧倒的に高頻度で行われています。


名鉄の電車(乗りものニュース編集部撮影)。

●「上ゲに停めたい」という理由で「急行→普通」に変更

 名鉄河和線の急行は、早朝・深夜をのぞいて「知多半田から普通、河和行き」という種別変更が行われます。それで何が変わるのかといえば、上ゲ駅を通過するか停車するかの違いです。

 河和線は1時間あたり特急と急行が計4本、普通が4本で、普通はすべて知多半田どまり。その先の河和方面へ向かう特急は、成岩(ならわ)と上ゲ(あげ)を通過します。急行は上ゲのみ通過しますが、その1時間2本の急行を普通に変えることで、上ゲ駅を救済します。

 ただ、やはりややこしかったのか、2024年3月16日のダイヤ改正で「快速急行以下は上ゲ駅に停車」となる予定で、今後は種別変更する必要がなくなります。

 最初から上ゲ駅を通常停車駅に入れておけばよかったのでは……という話ですが、成岩と上ゲの急行停車の有無は朝晩の停車本数の絶妙な違いを生んでいて、2駅の「重要度の差」が細密に考慮されていたのがうかがえます。

●「二ツ杁を通過したい」という理由で「準急→急行」に変更

 津島線から名古屋本線(豊橋方面)へ直通する優等列車は、15時以降に準急が設定されています。すべて「名鉄名古屋から急行」と種別変更されますが、津島線内で急行と準急は停車駅が同じです。「なぜわざわざ最初は準急にするの?」と思うかもしれません。

 これには、名古屋本線の「二ツ杁(ふたついり)を通過するかしないか」という違いがあるのです。津島線が名古屋本線と接続する須ケ口駅から、名鉄名古屋までのあいだで、この列車を二ツ杁に停車させたいがために、わざわざ「準急、名古屋から急行」という運用にしています。

「あれも停めたい、ここは通過したい」の苦肉の策

 
●「男川・藤川に停めたい」という理由で「急行→準急」に変更

 16時以降に名鉄名古屋を発車する上り方面の急行は、1時間6本のうち2本が「東岡崎から準急、豊川稲荷行き」となっています。かなり末端部で種別変更となりますが、これは「男川と藤川の2駅に停めるため」です。

 この種別変更のおかげで、この2駅は夕夜に1時間4本を確保しています。郊外の帰宅需要に答えて、ピンポイントかつ柔軟に対応しているのでしょう。ちなみにこれら列車は、名鉄名古屋以北で大里に“特別停車”もします。


名古屋本線の二ツ杁〜須ケ口間にある新川橋駅。すぐ奥に須ケ口駅があるため、停車本数は最小限に抑えられている(乗りものニュース編集部撮影)。

●「新川橋・西枇杷島・東枇杷島だけ通過したい」という理由で「普通→準急→普通」に変更

 須ケ口から名鉄名古屋までは、需要の少ない小さな駅が連続します。これらの駅だけ通過するために、わざわざ「普通、須ケ口から準急、名古屋から再び普通」という2段階の種別変更を行う列車が複数あります。

 さらに「普通、須ケ口から準急、名古屋から急行」というパターンもあります。「須ケ口から急行」としない理由は逆に、途中の二ツ杁だけは停車したいという狙いがあるのでしょう。

 名鉄には特別停車の反対で「特別通過」というのも多くありました。今回のパターンだと種別変更せずに「終点まで普通、新川橋・西枇杷島・東枇杷島のみ特別通過」とする手もありますが、特別通過は誤乗問題を生むとして忌避されはじめたのか、ダイヤ改正で徐々に減らされ、2023年に完全消滅しています。

●「あれも停めたい、ここは通過したい……」がありすぎて「種別変更&特別停車」が混在

 犬山線の新鵜沼駅を平日朝6時47分に出発する上り列車は、「急行、名古屋から普通、鳴海から再び急行、西尾線吉良吉田行き、豊明と北安城に特別停車」というすさまじい運用です。これを解説すると、

・急行だが、山王・堀田・呼続・桜・本笠寺・本星崎には停めたい。豊明にも停めたい。
・「鳴海から準急」にしてもいいが、有松・中京競馬場前に停めるほどではない。
・「新安城から普通」にしてもいいが、碧海古井・堀内公園・西尾口に停めるほどではない。

 という様々な「あれは停める、これは停めない」の葛藤を経てできたものだと推測できます。実際、名古屋近郊の6駅はこの種別変更のおかげで、6〜22時台で「1時間4本」の間隔を保つことができています。豊明駅も6〜9時台で「1時間5本」を保っているので、「三方よし」というわけです。

「苦肉の策」の背景にある「個々の駅を大事にする」考え

 このように、名鉄ならではと言える頻繁な種別変更や特別停車について同社は、「各駅の利用状況などをふまえ、列車本数や間隔を考慮し、お客様の利便性向上を図っています」と話します。

 優等列車と各駅停車をただ順番に配置するだけでは、駅によっては「すぐ次の列車が来て、その次はなかなかやって来ない」といったアンバランスな発車間隔になることがあります。

 名鉄には逆の発想で、「この駅にはこれだけ本数がほしい」「あの駅はこれだけの本数で十分」という、個別の駅ごとの理想の本数が念頭にあります。それを実現させようとすると、「この時刻に通過していく急行が、この駅に停車してくれたらいいのに」「この時刻に停車する普通は、べつに通過しても差し支えないだろう」という“停車駅のやり取り”が発生します。

 その結果、普通が一区間だけ準急になったり、特定の列車だけ本来の通過駅に特別停車することになるのです。


時刻表の欄外には、種別変更や特別停車など特記事項を示す凡例がズラリと並ぶ(名鉄の時刻表より)。

 かつて「岐阜から普通、新鵜沼から急行、名古屋から準急、新安城から普通、東岡崎行き」と目まぐるしく種別変更する列車が早朝に走っていました。2023年のダイヤ改正で新鵜沼発に短縮され、種別変更は3回から1回に減っていますが、やはり全国的に見て特異な運用であることには変わりないでしょう。

 ちなみにこの列車は現在、新鵜沼6時50分発の普通豊橋行き(名古屋から急行)で、先述した同駅6時47分発の急行と数分差で「抜きつ抜かれつ」のランデブー走行を繰り広げます。