KDDIと三菱商事の共同経営に移行する見通しとなったローソン。KDDIが5000億円を投じる狙いはどこにあるのか(左画像:KDDI公式ホームページより、右写真:今井康一撮影)

過去最大のM&Aは、吉と出るか凶と出るか。

2月6日、KDDIと三菱商事、ローソンの3社は合同で記者会見を開き、ローソンの株式を三菱商事とKDDIが50%ずつ保有する「共同経営」体制へ移行すると発表した。

現在のローソンは、50.1%の株式を保有する三菱商事の上場子会社だ。KDDI(保有比率2.1%)のほか、NTTドコモ(同2.1%)や一般投資家なども株主に名を連ねている。

KDDIは2024年4月をメドに、ローソン株のTOB(株式公開買い付け)を開始。三菱商事はTOBに応募せず、その他株主が保有する株式を買い付け、三菱商事の保有分と合わせて3分の2以上の取得を目指す。TOB成立後、スクイーズアウトの手続きを経て、9月ごろにも共同経営体制に移る見通しだ。

一連の手続きによってローソンは上場廃止となり、三菱商事とKDDIの持ち分法適用会社になるという。

大型M&Aの可能性は噂されてきたが…

TOB価格は1株当たり1万0360円で、発表前日の終値(8721円)に対して19%のプレミアムが付く。KDDIが投じる資金の総額は約4971億円に上る。

これまでKDDIにとって最大のM&Aは、2010年に約3割を出資し、2013年に子会社化した大手ケーブルテレビ、J:COMだった(投資額は約3600億円)。今回はそれを上回る、過去最大の規模となる。

「時代の変革期なので、思い切った投資を決断した」。KDDIの高橋誠社長は会見でそう語った。

利益剰余金が約5.4兆円にまで積み上がる中、KDDIが大型M&Aに打って出る可能性は、かねて通信業界でささやかれてきた。しかしまったく異業種のコンビニへの出資には、競合の通信キャリアからも「驚いている」(ソフトバンクの宮川潤一社長)との声が上がった。

今回の提携をめぐる話が浮上したのは2023年5月、三菱商事側からの提案がきっかけだった。背景には、ローソンが直面していた課題がある。


2月6日の会見に登壇した、左から三菱商事の中西勝也社長、ローソンの竹増貞信社長、KDDIの高橋誠社長(撮影:梅谷秀司)

ローソンの国内店舗数は約1万4600と、首位のセブン-イレブン(同2万1500)、2位のファミリーマート(同1万6400)に次ぐ3番手。コンビニ1店舗当たりの売上高を示す平均日販(全店)では、セブン-イレブンの67万円に対しローソンは52万円(いずれも2023年2月期実績)と、大きく水をあけられている。

三菱商事の中西勝也社長は、「グループとしても食品デリバリーなどアドオン(機能追加)してきたが、これ以上追加でサポートできることについて悩んでいた」と明かす。そこで、DX(デジタル・トランスフォーメーション)事業を強化している通信大手と組むことを考えたという。

KDDIは提携を通して、ローソンでのオンライン診療、スマホサポートといった新サービスの提供や、店舗を物品配送や防災の拠点にすることなどを想定している。「通信、DXで未来のコンビニを実現していきたい。(ローソンの)グローバル展開にも手伝えることがある」(KDDIの高橋社長)。

50%出資する必要があるのか

しかし、現時点でKDDIが5000億円に見合うリターンを得られるかは不透明だ。提携の内容を詳しく見てみると、2つの懸念点が浮かび上がる。

第1に、既存事業とのシナジー効果が見込めるかだ。

高橋社長は会見の場で、「シナジーとしてKDDIの利益を、というふうにはあまり考えていない」と言及。「(ローソン店舗で)スマホを売りたいと思っているわけでは決してない」とも語り、ローソンの成長を通じてKDDIグループの発展につなげる考え方を強調した。

提携がもたらす業績面へのインパクトや、今後手がける施策の開始時期などについても、明言を避けた。SMBC日興証券の菊池悟シニアアナリストは2月7日付のレポートで、「そう悪くはないTOB」と評価しつつも、「投資額に見合う効果があるのか見通しづらく、50%を取得する必要があるのかもわかりにくい」と指摘している。

KDDIは持ち分法投資利益として、ローソンの純利益(2024年2月期は500億円の予想)の半分を取り込めるようになるが、投資総額で割った年率リターンは5%程度にとどまる。純投資では妙味が薄いと言わざるをえない。

一方、見方を変えれば、KDDIは自身の“経済圏”の弱点を補強したとも言える。

競合キャリアでは、楽天モバイルが「楽天市場」、ソフトバンクが「Yahoo!ショッピング」といったEC(ネット通販)をグループ内に抱える。数兆円規模の流通額を誇るEC上での接点を生かし、顧客の囲い込みにつなげている。

KDDIは「auPAYマーケット」「auPAYふるさと納税」を運営している。これらの流通額は公表していないものの、競合グループのECと比べると劣勢なのは明らかだ。

ただ会見では、ローソンの保有資産や顧客基盤を生かして経済圏の拡大にどうつなげるか、という具体的な話はほとんど出てこなかった。

住商と折半出資したJ:COMとの違い

第2の懸念点は、KDDIがローソンの経営権を握っていないことだ。

今回のような商社と折半出資という形は、KDDIにとって実は初めてではない。連結子会社のJ:COMには、住友商事と50%ずつ出資している。

J:COM買収をめぐっては、生みの親でもある住友商事と経営権を奪い合った末、両社が株式を50%ずつ保有する共同経営の体裁を整えたうえで、社長人事はKDDIが指名する形をとった。そして実質的な支配力を持つ意味合いから、KDDIの子会社となっている。

他方で今回のローソンについては現時点で“子会社”にする予定はなく、人事の面においても、主導権は引き続き三菱商事側に委ねる想定だ。

2月1日時点のローソンの取締役5人のうち、竹増貞信社長を含む3人が三菱商事の出身だ。今年で就任9年目を迎える竹増社長が続投するかは定かでないが、「ローソンの社長は今まで通り、三菱商事から出す」(KDDIの高橋社長)という。


通信・DXの力を活用した「未来のコンビニ」の実現に期待感を示したKDDIの高橋誠社長(撮影:梅谷秀司)

高橋社長は、「通信の分野であれば絶対に主導権を取りに行くが、小売りではあまり知見がない。ただ、小売りが価値を出すために通信を使ってもらうことは、われわれもプロ。そうした立ち位置をキープしていくのが今のスタンスだ」と説明する。

小売りという素人の領域で、経営の前面に立たないことは現実的判断と解釈できる。しかし50%出資という関与度合いの大きさに対して、KDDIが経営をコントロールしづらい立場にあることは、中長期的なリスク要因となる可能性もある。

TOB発表後のKDDI株は下落

KDDIの高橋社長とローソンの竹増社長は会見の場で、「未来のコンビニ」への期待感を何度も口にした。しかし具体的な中身が見えてこない以上、連携を通じたサービスの拡充がローソンの集客力をどこまで高められるかは未知数だ。国内市場が飽和状態にある中、海外市場への展開など対処すべき課題は多い。

こうした投資対効果への不透明感を警戒してか、2月9日のKDDIの株価終値は4467円と、提携発表前日の2月5日終値(4817円)から1割弱安くなっている。

KDDIの「思い切った投資」が実を結び、新生ローソンが雄飛する未来はくるのか。3社連合には、説得力のある提携の具体策を早期に示すことが求められている。

( 高野 馨太 : 東洋経済 記者)