酔っ払うと人が魅力的に見える「ビール・ゴーグル効果」の原因は顔がきれいに見えるからではないとの研究結果
漫画やドラマなどでは、「お酒を飲むと人が魅力的に見えてきて思わず過ちを犯してしまい、翌朝後悔する」という展開がよくあります。酔うと人が魅力的に見えるビール・ゴーグル効果の正体は、アルコールの作用で相手の顔が整っていると錯覚するからだというのが定説ですが、実際に酔っぱらいに顔写真を見せて行われた研究でそうではない可能性が示されました。
Impaired face symmetry detection under alcohol, but no ‘beer goggles’ effect - Alistair J Harvey, Ciara White, Kathleen Madelin, Ed Morrison, 2023
Facial symmetry doesn't explain 'beer goggles' phenomenon, research shows
https://phys.org/news/2023-12-facial-symmetry-doesnt-beer-goggles.html
これまでの研究により、人を魅力的に見せる要因のひとつは「顔の左右がどれだけ一致しているか」だということがわかっています。つまり、顔が左右対称であればあるほど、優れた遺伝子プールを持っていると評価されるということになります。
しかし、アルコールを摂取すると人の顔が非対称であってもそれに気がつきにくくなってしまうため、これが飲酒をするといつもより人が魅力的に見えてくる理由だと考えられてきました。
この現象を研究テーマに据えた理由について、イギリス・ポーツマス大学の心理学者であるアリスター・ハーベイ氏は「飲酒者がセックスに及ぶ傾向が強い理由としては、自制心の欠如、期待の高まり、性格的特徴、そしてビール・ゴーグル効果などさまざまなものが考えられます。このテーマに関する研究は限られているため、私たちはなぜ酔っぱらいが往々にして予期せぬ、そして後悔してしまうようなセックスに及ぶのかを理解するための実地試験を行うことにしました」と語っています。
こうして実地試験を開始したハーベイ氏らは、まずポーツマスの地元パブに乗り込み、実験の参加者を募りました。すると、18〜62歳までの男女99人が快くボランティアとして協力に応じてくれました。
性的な魅力がテーマになっているため、研究チームが参加者に性的アイデンティティを尋ねたところ、参加者の87%は異性愛者だと回答し、両性愛者の9%、同性愛者の3%、全性愛者の1%がこれに続きました。普通、性的アイデンティティについて尋ねられたら面食らってしまいそうですが、「パブの常連客たち全員が喜んでセクシャリティの情報を提供してくれました」と研究チームは論文に記しています。
研究チームは次に、各参加者に18人分の顔写真を見せて、それが魅力的に見えるかどうかと、左右対称に見えるかどうかを評価してもらいました。評価は2回ずつ行われ、最初は非対称性が誇張された顔写真が、2回目は自然のままの顔写真が使われました。
以下は、調査に使われた画像の1つで、左が自然な顔、右が非対称になるように加工された顔です。
続いて、参加者は同じ顔の通常バージョンと完全に左右対称にされたバージョンの2つを同時に見た上で、どちらが魅力的かと、どちらが対称的かを尋ねられました。この二者択一の質問では、顔以外の部分は映らないようにした上で、自然な顔(左)と完全に左右対称にした顔(右)を見比べてもらいました。
何回も顔写真を見せるという少し回りくどい手法がとられたのは、参加者にどちらが魅力的または対称的かを選ばせる通常の二元的アプローチに加えて、個々の顔の評価も収集することでより安定したデータを得るためだったとのこと。
得られたデータをまとめた結果、予想通り酔っぱらいほど「自然な顔」と「完全に左右対称にされた顔」を区別する能力が低かった一方、酔っているからといって顔が魅力的だと評価されるわけではないことが判明しました。
また、男性も女性も、左右非対称に加工された顔より自然な顔の方が魅力的だと評価しましたが、この傾向は男性より女性の方が強かったとのこと。さらに、女性は男性よりも魅力度と対称性の判断が早いこともわかりました。
この研究により、大方の予想通りアルコールを摂取すると顔が左右対称かどうかの判断が鈍ることが確かめられた一方で、そのことが人の顔を魅力的に見せるているわけではないことが示されました。その理由は解明されていませんが、1つの可能性として「顔の魅力にはたくさんの要因が関係しており、それらが対称性の影響を上回ったのではないか」という説が提唱されています。
ハーベイ氏は研究を振り返って「私たちはビール・ゴーグル効果の存在を否定しているわけではありませんが、写真ではなく生きたモデルを使うとより簡単にその影響が検出できるかもしれません。また、画像には体格、体形、身長、表情、服装など魅力に関する重要な視覚的基準が隠されていますから、パズルの欠けたピースを見つけるにはさらなる研究が必要でしょう」と話しました。