(写真: metamorworks/PIXTA)

日経平均株価が、バブル崩壊直前につけた最高値3万8915円に近づいている。今年中どころか2〜3カ月でバブルの最高値を超えるのではないかと予想する人も増えてきた。実際に1月22日の終値では、日経平均株価は3万6000円を超えており、バブル期最高値にまで10%圏内にまで詰まってきた。

なぜ、日経平均株価は上昇しているのか……。本当に日本株は復活するのか……。日本株高騰の背景と、今後の日本の株式市場が待ち受けるリスクについて考えてみたい。

日本ショートから日本ロングへ?

日本株が急騰している背景には、いくつかの要因がある。例えば、ヘッジファンドなどのリスクマネーが、これまで日本株を裁定取引のショート戦略に使ってきた背景が指摘されている。

簡単に言うと、これまでのヘッジファンドの多くは、アメリカや中国、香港市場の銘柄に投資する際に、合わせて日本株を裁定取引でショート(売り)を絡ませておく戦略が多かった。メインに投資した株式市場が下落しても、下落局面では世界で最も大きく下落するパターンが多かった日本株に対して、あらかじめ空売り戦略を仕掛けておけば、メイン市場と同等もしくはわずかながら利益を上げることができたからだ。

ところが、ここにきて中国株が売られて逆に日本株が買われるようになってきた。2024年の日本株急騰の背景には、外国人投資家の買いによって支えられているのが、その証拠といっていい。例えば、東京証券取引所の「投資部門別売買動向」によると、日本株が急騰した1月第2週(9日−12日)では、海外投資家が9557億円の買い越しとなっている。

実際に、 これまで「中国ロング(買い)、日本ショート(売り)」をセットに裁定取引で利ザヤを稼いできたヘッジファンドが、この1月の日本株の爆上げでマクロファンドを閉鎖した、とブルームバーグが紹介している(2024年1月25日配信、コラム「日本と中国で危険な賭けに出るヘッジファンドに告ぐ」)。

一方、個人投資家の売買動向は、1兆695億円の売り越しとなっている。要するに、新型NISAスタートによる個人投資家が、日経平均株価急騰の「主役」になっているわけではない、ということだ。では、日本株が高くなっているのはなぜなのか。いくつか要因があるのだが、長期的な視野で見た場合、次のような要因が考えられる。

1.上海、香港から東京へ?世界のマネーの流れが変化

年初来の株価の推移を見ていると、日経平均が3000円も上昇する中で、中国の上海総合指数は1月3日の2967.25からずるずると値を下げており、1月22日には2756.34まで下落している。同様に香港ハンセン株価指数も年初には、1万6788.55だったのが22日には1万4961.18に下落している。中国関連の株式市場から資金が流出し、その受け皿として東京市場が高騰していると見ていいだろう。

こうした背景には、中国の景気減速懸念がある。昨年の中国は、5.2%の経済成長率を達成したが、今年はそこまで成長できるか懸念されている。構造的な不動産市場の不振、消費者物価指数の低迷といった現象が、日本のバブル崩壊時に似ているという指摘もある。2023年に引き続いて、2024年もまた民主主義国家グループと覇権主義国家グループによる軋轢は深まる一方だが、株式市場への投資行動にも大きな影響をもたらしているようだ。

2.「日銀によるETF買い」が支える日本株?

現在の日本株が回復した背景の1つに、日銀の「ETF買い」があることはよく知られている。日銀が日本株を支えるためにETFに投資を始めたのは、アベノミクスが始まる以前の2010年度下期だが、すでに13年も継続していることになる。日経平均がバブル超えに近づいているとはいっても、日銀のETF買いがなければ、日本市場はいまだに低迷を続けていたはずだ。

2020年には、年間の買い入れ額が過去最高の7兆1366億円になり、2021年も8734億円、2022年は6309億円と買い続けてきた。

すでに、2023年末時点で66.9兆円、最近では72兆円前後に膨らんでおり、その含み益は35兆円規模と報道されている。(日経クイックニュース、2024年1月23日配信「日銀はETF売却を始めよ 新NISAを邪魔する構造欠陥(永井洋一)」)。

日銀のETF買いによって、東京の株式市場の価格形成機能は大きく歪んだ、と指摘されており、実際に同記事ではアドバンテストの26.5%を筆頭にTDK21.5%、ファーストリテイリング21.3%が、実質的に日銀が所有していると指摘する。日銀による間接的な保有比率が5%を超える銘柄は、東証プライムの4割、649銘柄に相当する状態になっている。

日銀がこのETFを保有している限り、日本株は慢性的な「売り手不足」となり、株価が高騰しやすくなる。個人投資家は、どうしても割高な株式を買うことになってしまうわけだ。

とはいえ、日銀が急激に売却することはないだろう。現在の東証の時価総額は、2023年11月末時点で約6兆ドル(約900兆円)といわれているから、市場全体からみると日銀の保有残高70兆円前後は、さほど大きなものではない。しかし、将来的に金利が上昇すれば、日銀のバランスシートは悪化するとみられ、ETFを売却しなければならない状況に陥るかもしれない。個人投資家が割高な局面で買った株式が、日銀の売りによってまた損失を抱えるかもしれない。

3.地政学リスクへの警戒感?

日本株への資金流入が増えている背景の1つには、世界中に拡大した地政学リスクの高まりがある。ウクライナ・ロシア戦争の勃発によって、世界はいきなり戦争に直面することになったわけだが、そこに加えて、昨年末に起きたイスラエル軍によるガザ侵攻も、人々の地政学リスクに対して警戒感を煽ることになった。

ヨーロッパを中心に地政学リスクが高まっている中で、海外投資家は投資先の地政学リスクの高まりに注目する。欧州を避けてアジア、アジアの中でも台湾問題を抱える中国よりも日本ということになる。

結局、残るところは、日本市場やインド市場ということになり、投資資金の豊富なアメリカや日本などへの投資が増加する傾向にある。今後さらに地政学リスクが高まれば、少なくとも戦争を放棄している日本市場への注目が集まるのも自然と言える。

4.日本経済への期待度

OECD (経済協力開発機構)が2023年11月29日に発表した経済予測によると、世界経済全体の2023年の経済成長率は2.9%。2024年は2.7%、2025年は3.0%と予測。アメリカの成長率は2023年2.4%、 2024年1.5%、2025年は1.7%。対して日本は23年1.7%、2024年1.0%、2025年には1.2%に回復すると予測している。

英国が2024年0.7%、2025年1.2%と予想されているように、日本は先進国の中でもまぁまぁの成長率が予想されている。ヨーロッパのような地政学リスクが少ないだけ、大きなサプライズはないと考えられているようだ。

さらに、最近になって急浮上してきたのが、2024年最大のリスクとも言われるトランプ米大統領の再選という「もしトラ」リスクだ。保護貿易への回帰、気候変動対策への滞り、NATO脱退の可能性もほのめかしている防衛に対する方向転換などなど、アメリカの経済にも大きな影を落とす可能性が出てきた。

むろん、日本にも日銀によるマイナス金利脱却、超緩和政策からの脱出を目指していくリスクは残っているが、他の国と比較すれば消去法で日本が残る、というわけだ。IMFの景気予測でも、日本はさほど高い成長率を予測しているわけではないが、アメリカには依然としてハードランディングのリスクがあり、世界景気に対して若干の不安があるのは事実だ。

株価の予測は専門家もしばしば間違えることが多く、未来のことはわからないが、今年注目されているのは、日経平均株価がバブル崩壊後の最高値をいつ超えるのかどうかだ。年初からわずか2週間ちょっとで3000円を超える上げ幅を見せており、最高値を超えるのは時間の問題だ。

問題は、その後平均株価がどうなっていくかだろう。株価が急速に上昇して、個人投資家の多くは自分も乗り遅れまいとして慌てて後追いで投資をする人が多い。しかし、これまでのパターンで言うと、個人投資家が投資した後に、株価が急落して含み損を抱えてしまう、そんなパターンが少なくない。いわゆる「ハシゴを外される」パターンだ。

バブル崩壊後の最高値はあるのか?

実際に、大手証券会社の2024年末の日経平均の予想株価を見ると、野村HDは3万8000円、SMBC日興証券が3万8500円、大和証券グループは3万9000円と予想しており、そろって年内にはバブル崩壊後の最高値を更新すると予想している。新型NISAの導入や賃金上昇を伴うベースアップなどに期待し、日銀も「金利のある世界」に舵をとることを期待してのことだ。

最近になって始まった春闘で、賃金がある程度上昇し、日銀が想定している実質賃金がプラスに転ずる、もしくはそれに近づくことがあれば、日銀はゼロ金利からの解除に踏み切るはずだ。

さらに、その上の利上げまで行けるかどうかは今後の展開次第だが、日本の正常化は投資家には魅力的だ。ヘッジファンドが、中国ショート・日本ロングに転換するきっかけにはなる。そういう意味では、2024年は日本経済全体から見ても「転換」の年と言える。

現在の日本株高騰の背景には、製造業にとってはプラス要因になる円安が影響しているが、最近は1ドル=120円台といったドル安円高に戻るのではないか、と予測する人も増えている。その背景には日銀の「マイナス金利脱却→利上げ」というシナリオがあり、以前のような円高に戻るのではないかと言われている。

しかし、その一方で新型NISAの導入によって、個人投資家の「買い」は年間0.7兆円〜3.9兆円程度になると見込まれており、そのほとんどがいまのところ海外の投資信託やETFに振り向けられており、為替市場に与える影響は「最大6円」程度の円安圧力になると見られている(日本総研 2024年1月19日「新NISA、今後4年で最大対ドル6円の円安圧力に」)。

年間で360万円、最大1800万円、無期限に拡大された非課税枠だが、対象となる投資信託は全商品の3分の1に当たる2000本程度となった。対象ファンドの中には、日本株で運用する投信の中で最大の残高がある「ひふみプラス」をはじめ、個人投資家の資金が国内の株式に流入する環境は整ったと言っていい。

個人投資家の資金が安定的に流れこむ効果

これら個人投資家の資金が安定的、継続的に流入してくれば、海外投資家のような短期的な資金に振り回されずに済む。ここ数年は、まだ海外投資家の資金が市場を乱高下させるかもしれないが、個人投資家の資金がある程度の投資金額になれば、市場は安定した上昇を示すはずだ。問題は、日銀のETFだが、市場を乱さない程度に売却するシナリオを実践すべきだろう。

いずれにしても、新型NISAは年金生活者の資産防衛法として活用できるし、年金を頼りにできない世代には貧しい老後にならないためにも早めのスタートが求められる。日本株が一直線に高騰することは望み薄だが、現在の不安定な世界では日本株が買いなのかもしれない。投資にはリスクはあるが、何もしないリスクがあることも認識すべきだろう。

(岩崎 博充 : 経済ジャーナリスト)