紅茶はイギリス文化を代表する飲み物として知られており、イギリス国民の多くが日常的に紅茶をたしなんでいるといわれています。そんな紅茶の完璧な淹(い)れ方についてまとめた本をアメリカの科学者が出版したのですが、「紅茶に塩をひとつまみ加える」などの内容が議論を呼んでいます。

SteepedThe Chemistry of Tea | Books Gateway | Royal Society of Chemistry

https://books.rsc.org/books/monograph/2162/SteepedThe-Chemistry-of-Tea

Want to fix a bad cuppa? Just add salt to your tea...

https://www.telegraph.co.uk/news/2024/01/24/add-salt-to-fix-bad-cup-of-tea/

アメリカのペンシルバニア州にあるブリンマー大学のミシェル・フランクル教授は、自宅のティーポットを使って紅茶の淹れ方について独自の研究を行い、古い文献や先行研究を分析し、「Steeped:The Chemistry of Tea」という本にまとめてイギリス王立化学会から出版しました。

フランクル教授は著書の中で、「茶葉は水分を吸収すると4〜5倍に膨張するため、ティーバッグは形状よりもサイズの方が重要」「ティーバッグをウォッカに1分ほど浸してから乾燥することで、デカフェが可能」「ティーバッグを入れた水を電子レンジで加熱すると、茶渋が形成されるのでおすすめできない」などの研究結果を発表。また、「ミルクティーは紅茶と牛乳のどちらを先に注ぐべきか」という長年の問いについて、フランクル教授は「紅茶が凝固する可能性を減らすため、紅茶を注いだ後に温めた牛乳を注ぐべき」という解答を提示しています。

さらにフランクル教授によると、紅茶に塩をひとつまみ加えることで味がよくなるとのこと。これは、ナトリウムイオンが舌にある苦味の受容体をブロックするからだそうで、古くは8世紀から親しまれている方法だとフランクル教授は説明しています。



フランクル教授の主張する「完璧な紅茶の淹れ方」は以下の通り。

1:苦味を抑えるために塩をひとつまみ加える。

2:凝固する可能性を減らすため、紅茶を先に入れて温かい牛乳を後から注ぐ。

3:お茶をより温かく保つため、背が低く丈夫なマグカップを使う。

4:ティーバッグではなく茶葉を使う。

5:カップはあらかじめ温めておくと、カフェインと抗酸化物質の量が増加する。

6:茶葉やティーバッグは使い回さず、使うのは一度だけ。

7:電子レンジで淹れない。

8:茶葉を長く湯に入れすぎない。



しかし、アメリカ人の科学者が「紅茶の正しい淹れ方」についてイギリスの王立化学会から著書を出版したこと、さらにその中に「紅茶に塩を加えると味がよくなる」といった衝撃の内容が含まれていることについて、紅茶を愛するイギリス人からは大きな反響があった模様。著書の発表後には、紅茶に塩を入れることについて疑問を持つ人々からフランクル教授のもとへ大量のメールが届いたそうです。

フランクル教授の研究結果について、イギリスの一般紙であるThe Telegraphは「アメリカ人はイギリスの紅茶について何を知っていますか?」、スコットランドのニュースメディアであるScottish Daily Expressは「アメリカの学者が最近著した完璧なお茶の淹れ方に関する本によると、イギリス人は淹れ方に関して間違っていることがたくさんあるそうです」、イギリスの公共メディアであるBBCは「イギリス人は、おいしいお茶の淹れ方についてある程度のことは知っていると主張します」とコメントしています。

さらに、イギリス最古のタブロイド紙であるDaily Mailは、フランクル教授のやり方を実践。その結果について、「できあがったのは、ひどい味で信じられないほど熱く塩辛い紅茶だけでした。公正なテストとして塩を加えすぎたのではないかと心配して、対照のお茶にほんのひとつまみ加えました。 塩を少しずつ加えていくと、その結果は本来とほとんど同じ味か、あるいは不快なほど塩辛い飲み物のどちらかになることがわかりました」と報告しています。

こうした騒ぎを受けて、ロンドンにあるアメリカ大使館は「あるアメリカ人教授が考案した『完璧な』紅茶のレシピがメディアで報じられ、イギリスとアメリカの特別な絆に熱い視線が注がれています。紅茶は仲間意識、すなわち英米両国を結びつける神聖な絆を生み出す霊薬です。このような非道な提案が私たちの特別な関係の根幹を揺るがすのを黙って見ていられません。したがって、イギリスの国民的飲料に塩を加えるという想像を絶する見解は、アメリカ公式のものではないことをイギリスの善良な人々に知らしめたいと思います。そして、これからそうなることも決してないでしょう。私たちは一致団結し、紅茶については我々は1つであるということを世界に示そうではありませんか」という公式声明をXに投稿しました。



ただし、アメリカ大使館は声明の最後に「アメリカ大使館はこれからも、紅茶を電子レンジで温めるという正しい方法で紅茶を入れ続けるでしょう」というコメントを付け加えています。

このアメリカ大使館の声明に対するリプライには、「『紅茶を電子レンジで淹れる』というやり方は実にアメリカ的でナンセンス」というイギリス人からの意見が多く見られます。さらに、イギリス内閣府の公式アカウントも反応を示し、「アメリカ大使館が発表した声明に対する返答:私たちは特別な関係に感謝しますが、心から反対しなければなりません。紅茶はやかんを使わないと作れません」とコメントしました。



また、「アメリカは紅茶に塩を加えることで建国しました」など、ボストン茶会事件になぞらえる投稿も多数見られました。



・おまけ

なお、イギリス王立化学会は完璧なお茶の淹れ方について、2003年にも「(PDFファイル)How to make a Perfect Cup of Tea」という声明を発表しています。それによると完璧なお茶の淹れ方は以下の通り。

1:新鮮な軟水をやかんに入れて沸騰させる。

2:やかんでお湯が沸くのを待つ間、カップ4分の1ほどの水が入ったティーポットを電子レンジにいれてフルパワーで1分間加熱する。

3:やかんが沸騰したら、電子レンジで温めたポットの中にいれたお湯を切る。

4:カップ1杯につきティースプーン1杯の茶葉をポットにいれる。

5:やかんのお湯が沸騰したら、ティーポットにお湯を注ぎ、かき混ぜる。

6:そのまま3分間抽出する。

7:マグカップは陶器が理想的。

8:カップに牛乳を注いでから、紅茶を注ぐ。

9:砂糖はお好みで。温度は60〜65℃で飲むと不快な喉ごしがなくなる。

10:静かで落ち着けるお気に入りの家の場所で、座ってお茶を飲む。