日経平均株価3万5000円突破!「どこまで上がる?」 昨年末ズバリ予想した株式専門家に聞いた
年明け以降、日本株上昇が止まらない。日経平均株価がついに3万5000円の大台を突破した。2024年1月15日、東京株式市場では6営業日続伸、3万5901円79銭で引け、年初からの上げ幅は2700円を超えた。
昨年(2023年)末に「3万5000円」を予想していた株式専門家がいる。ニッセイ基礎研究所主席研究員の井出真吾さんだ。
いったい何が起こっているのか。バブル絶頂期の史上最高値3万8915円(1989年12月)を超えられるか。そして、落し穴は? 井出さんに話を聞いた。
3万5000円は、今年夏か秋のはずだったが...
井出さんが2023年12月27日に発表したのは「日経平均バブル後高値更新3万5000円へ〜2024年の株価見通し〜」という研究リポートだ。
井出さんは、2024年に日経平均が3万5000円程度までの上昇が期待できる理由として、まず日本企業の業績の好調さをあげる。最新の市場予想では、2024年度は11%の大幅増益が見込まれている【図表】。
海外投資家が日本株の魅力を再認識する可能性が高い。理由は2つ。まず24年の賃上げがほぼ確実視されることだ。23年4月〜6月に海外投資家が日本株を7.2兆円買い越した際も、最大の理由は「歴史的水準の賃上げ」だった。日本は物価も賃金も上昇し、「いよいよインフレの時代に入ったようだ。ならば日本株は買いだ!」というわけだ。
もう1つの理由は、米国の中央銀行であるFRB(米連邦準備制度理事会)が、24年に利下げに踏み切るとみられること。一方、日本銀行は緩和縮小方向に動くとしか考えられず、海外投資家の「円安リスク」が遠のく。そこに2年連続の大幅な賃上げが重なれば、「日本株買い第2弾」が来ても全く不思議ではない。
新NISAスタートで、国内個人投資家の資金流入が見込まれることも需給面でプラス要因だ。
しかし、問題は米国景気の減速だ。米国民にインフレ疲れが出てきたのか、消費者マインドは悪化傾向が目立つ。IMF(国際通貨基金)によると、米国の実質GDP成長率は23年の2%強から24年は1.5%程度に減速する。そもそも、米国株はバブルの様相を呈している。FRBの利下げ開始時期が市場の期待よりも後ずれするなど、市場心理が悪化すれば、米国株は10%〜20%の下落余地がある。
その場合、円高(ドル安)が急ピッチで進み、米国株下落と円高のダブルパンチで、日経平均は3万円程度まで下落するリスクがある。
そして、井出さんは、こうしたリスクが顕在化するとしたら、24年前半だろうと予測。日米の金融政策が転換期に差し掛かる24年前半は、まだ不安定な状況が続くが、その後の夏から秋にかけて日本企業の業績好調に牽引され、日経平均3万5000円がやってくると予想している。
株価急上昇、能登半島地震が引き金
J‐CASTニュースBiz編集部は、井出真吾さんに話を聞いた。
――今年夏から秋にかけて日経平均3万5000円がやってくるという予想より、かなり早く3万5000円を突破してしまいましたが、なぜ、これほど急ピッチに上昇しているのでしょうか。
井出真吾さん 私も正直驚いています。不謹慎ではありますが、元日に起こった能登半島地震の影響もあると思います。震災によって1月下旬に開かれる日本銀行の政策決定会合で、マイナス金利が解除される可能性がほぼ完全に消えました。しばらく円高のリスクがなくなることで、日本株が買いやすくなったことが大きいです。
今、日本株を買っているのは誰かということが問題です。今週木曜日(1月18日)に日本取引所グループが毎週公表している「投資部門別売買状況」が発表されて投資主体を確認することができますが、おそらく2つのグループが中心と思われます。
1つが欧州など海外のヘッジファンド。昨年(2023年)、日本株が大きく上昇しましたが、割高が意識される米国株に比べると、まだ買いやすい水準です。中国と台湾から逃げ込んできた資金も大きいと思います。中国の景気は今、悪いです。一方、台湾も1月13日に総統選挙が行われて、与党・民進党の頼清徳氏が勝ちましたが、結果次第では先行きが不透明でした。
――もう1つのグループとは何ですか。
井出さん 今月から始まった新NISA(少額投資非課税制度)の利用者です。新NISAのパワーは思ったより大きかったということです。新NISAの利用者の中には日本株を買う人が結構多いです。たとえば、今、NTTや、三菱UFJフィナンシャル・グループ、携帯会社のソフトバンク、それに大手総合商社の株などが上がっています。いずれも配当利回りが高く個人投資家に人気の銘柄です。
年内4万円なら、ミニバブルだ
――今後、このハイペースで上がり続けるのでしょうか。
井出さん その可能性は低いでしょう。外国人も新NISAも買いはほぼ一巡したと思います。今月いっぱい一進一退が続いて3万6000円程度の高値圏で推移するか、3万4000円前後まで下がるかが想定されます。
――証券会社の中には、「バブル全盛時の1989年12月の3万8915円を越えて、年内に4万円も夢ではない」という向きもあるようですが、史上最高値の3万8915円を越えると思いますか。
井出さん 夢はいつでもあるものです。史上最高値の更新は、年内は難しいでしょう。もし、年内に4万円になったら、それはバブルとまでは言いませんが、ミニバブルになっているということです。
現在の日本企業の業績から判断すると、日経平均の実力は3万5、6000円前後です。つまり、現在の相場が実力相当ということで、それ以上になると、ちょっと背伸びになります。
――30数年前のバブル全盛時には、東京都中央区の皇居の敷地価格が、米カリフォルニア州全体の土地価格を上回ったという記事を読みました。
井出さん まさに土地バブルが生み出した株価ですから、3万8915円の株価と言っても、実力的には1万円ほどでした。株価が実力の4倍近くになっていたということです。
トランプ大統領なら、株式相場にはプラス
――今後のリスクには何が考えられますか?
井出さん リポートでも指摘しましたが、米国経済の減速の度合いが強いか、弱いかにかかっています。悪いリスクシナリオはこうです。減速が厳しくて米国株が下落する。さらにドルが売られ円高になる。ダブルパンチを受けて、日本株は3万円前後までに下がる。
FRBの利下げ開始が市場の期待より遅れて5、6月になることも要注意です。
――中東情勢の悪化や、米国大統領選でトランプ氏が勝利することなどはリスクになりませんか。
井出さん 地政学リスクはイランの出方次第でしょう。原油価格の高騰が心配です。それと台湾情勢も心配です。日本の貨物船は台湾海峡を通過していますから。
トランプ大統領の勝利は、地球温暖化対策が後退するなど、人類の未来にはマイナスとなり、決して歓迎できませんが、マーケット的にはプラスになる可能性があります。FRBに「金利を下げろ」と強引に迫るでしょうし、二酸化炭素削減が遅れますから、日本のハイブリット車が売れるかもしれません。日本の自動車メーカーはEV(電気自動車)で後れを取っていましたから、朗報になります。
「あれっ、一気に儲かっちゃったよ」と思わないで
――最後に、今回の日本株急上昇に関し、投資家にアドバイスはありますか。
井出さん 私は、J‐CASTニュースBizの記事「新NISA『一括投資』と『毎月投資』どっちがお得? 大論争に軍配『最強投資術』を株式専門家に聞く」(2023年12月25日付)の記事の中で、新NISAで、初めて投資デビューをする人に、こうアドバイスしました。
「株式は、上がったり、下がったりを繰り返すカーブを描きながら、ゆるやかに上がっていくものです。最初の5年や10年は元本割れすることがあります。しかし、15年後や20年後になると、元本割れしにくくなります。
最初の数年で元本割れした時はガッカリしないで、『ああ、やっぱり来たか!』と思う心の余裕が大切です。10年後くらいには『あの時、始めておいてよかった!』と思うようになるでしょう」と。
今回は逆のことをアドバイスしたいです。『あれっ、一気に儲かっちゃったよ』と思わないでほしいと。こんなことはいつも起こることではありません。ここで、売ったりしないで、気迷いすることなく、短期で儲けようとせず、気長に株を持ち続けてほしい。大事なのは初志貫徹です。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)
井出真吾(いで・しんご)
ニッセイ基礎研究所金融研究部主席研究員、チーフ株式ストラテジスト
1993年東京工業大学卒、日本生命保険入社。1999年ニッセイ基礎研究所出向。2023年より現職。専門は株式市場・株式投資・マクロ経済・資産形成。日本ファイナンス学会理事、日本証券アナリスト協会認定アナリスト
科学的かつ客観的な分析とわかりやすい解説に定評があり、新聞・テレビなどメディア露出も多数。企業・新聞社主催セミナーのほか、学会活動にも取り組む。
著書に『40代から始める 攻めと守りの資産形成』、『株式投資 長期上昇の波に乗れ!』、『本音の株式投資』、共著に『ROEを超える企業価値創造』。いずれも日本経済新聞出版発行。
主な出演番組:テレビ東京「Newsモーニングサテライト」、BSテレビ東京「日経ニュース プラス9」、BS-TBS「Bizスクエア」。