【六川亨の視点】2023年11月12日 J1リーグ第32節 浦和レッズvsヴィッセル神戸
J1リーグ第32節 浦和レッズ1(0−0)2ヴィッセル神戸
15:03キックオフ 埼玉スタジアム2○○2 入場者48,144人
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今シーズンのJ1とJ2は、アディショナルタイムで明暗が分かれた試合が多いような気がする。とはいえ、これほどドラマチックな幕切れはないだろう。Jリーグの歴史に残るアディショナルタイムでの攻防だった。
前半を終えた時点で、1時間早くキックオフした横浜FM対C大阪戦は横浜FMが2−0の勝利を収めた。この時点で横浜FMは勝点を63に伸ばして首位に立つ。勝点62の神戸は、このままドローでは勝点で並ぶものの得失点差で2位に甘んじなければならない。ハーフタイム、横浜FMの勝利を吉田孝行監督は選手に伝えなかった。しかし選手は勝点3が必要なことを理解していたに違いない。後半27分、セットプレーの流れから初めて右SBにコンバートされた初瀬亮のクロスをFW大迫勇也がヘッドで折り返すと、攻め残っていたCBマテウス・トゥーレルが頭で押し込んで待望の先制点を奪った。これで試合の趨勢は決まったかに思われた。浦和はルヴァンカップ決勝、ACLと連戦続きに加えケガ人も続出していたからだ。しかしMF中島翔哉やFWブライアン・リンセンらを投入して攻撃の手を強めると、アディショナルタイムの90+1分、左サイドから強引に仕掛けたホセ・カンテがタイスコアに戻す一撃を決めた。4万サポーターの後押しを受けた浦和は、さらに攻勢を強める。勝てば逆転優勝に可能性を残すだけに、当然と言えば当然だ。しかし思わぬ落とし穴が待ち受けていた。
アディショナルタイム90+6分、浦和はハーフラインを超えた当たりでFKを獲得。キッカーは中島で、GK西川周作もゴール前に上がった。「大事な試合。どうしても勝ちたいという気持ちで前線に上がった」とマチェイ・スコルジャ監督は西川の気持ちを代弁した。これに対し大迫へのやりとりを、試合後の会見で吉田監督はこう振り返った。
「サコ(大迫)に(前線に残れという)指示は出していない」と話しつつ、「(試合後のロッカールームで大迫から)西川くんが上がって来たので、前線に残っておこうと思った」と打ち明けた。
結果は、中島のFKをGK前川黛也がGK西川と競りながらキャッチすると、すかさず左サイドに開いていた大迫へパントキック。大迫はこれを収めて、無人のゴールへ40メートル近いシュートを決めた。カウンターのイメージがあったとはいえ、GK前川の正確なキックと、大迫の、これまた正確なロングシュートがなければ生まれなかった決勝点だった。
六川亨(ろくかわ・とおる)
東京都板橋区出身。月刊、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長を歴任し、W杯、EURO、南米選手権、五輪を取材。2010年にフリーとなり超ワールドサッカーでコラムを長年執筆中。「ストライカー特別講座」(東邦出版)など著書多数。