こちらは「うみへび座(海蛇座)」の方向約1500万光年先の渦巻銀河「M83(Messier 83、NGC 5236)」の中心付近の様子です。「回転花火銀河」と呼ばれる「おおぐま座(大熊座)」の渦巻銀河「M101」と並び、M83は「南の回転花火銀河」とも呼ばれています。


【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ(NIRCam)で観測された渦巻銀河「M83」の中心付近。1.15μmと1.5μmと1.87μmを青、2.0μmと3.0μmを緑、3.35μmと4.05μmと4.44μmを赤で着色(Credit: ESA/Webb, NASA & CSA, A. Adamo (Stockholm University) and the FEAST JWST team)】


多数の星々が密集して明るく輝くM83の中心部分からは2本の渦巻腕(渦状腕)が伸びています。欧州宇宙機関(ESA)によると、腕に沿うように連なっている赤い斑模様はガスの分布を示しており、その中に見える明るい斑点は若い星が放射する紫外線によって水素が電離している星形成領域に対応しています。


この画像は「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope:JWST)」の「近赤外線カメラ(NIRCam)」で取得したデータをもとに作成されました。ウェッブ宇宙望遠鏡は人の目で捉えることができない赤外線の波長で主に観測を行うため、公開されている画像の色は取得時に使用されたフィルターに応じて着色されています。


また、ウェッブ宇宙望遠鏡によるM83の観測では別の観測装置「中間赤外線観測装置(MIRI)」も使用されました。NIRCamよりも波長の長い中間赤外線を利用するMIRIは、ガスと塵(ダスト)で形作られた繊細な構造を捉えています。


【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の中間赤外線観測装置(MIRI)で観測された渦巻銀河「M83」の中心付近。5.6μmを青と緑、7.7μmを緑と赤で着色(Credit: ESA/Webb, NASA & CSA, A. Adamo (Stockholm University) and the FEAST JWST team)】


ウェッブ宇宙望遠鏡によるM83の観測は、天の川銀河の外における恒星フィードバック(※1)と星形成の間にある相互作用の解明を目的とした「FEAST(Feedback in Emerging extrAgalactic Star clusTers)」と呼ばれる一連の観測の一環として実施されました。FEASTで実施された銀河の観測を通して、星形成のサイクルや金属(※2)の濃縮が銀河のなかでどのように制御されているのかや、惑星や褐色矮星(恒星と惑星の中間的な性質を持つ天体)が形成されるタイムスケールなどについての理解が深まると期待されています。


ウェッブ宇宙望遠鏡で観測したM83は“ウェッブ宇宙望遠鏡の今月の画像”として、ESAから2023年10月31日付で公開されています。


■脚注
※1…Stellar feedback。ESAによれば、星を形成する環境に対して恒星からエネルギーが注ぎ込まれることを示す言葉で、星の形成速度を決める重要なプロセスだと考えられています。
※2…ここでは水素やヘリウムよりも重い元素の総称。金属は恒星内部の核融合反応や超新星爆発などで生成され、恒星の世代交代が進むにつれて増えてきたと考えられています。


【▲ 参考画像:セロ・トロロ汎米天文台(チリ)のブランコ4m望遠鏡で撮影した渦巻銀河「M83」(Credit: CTIO/NOIRLab/DOE/NSF/AURA)】


 


Source


ESA/Webb - No tricks, just treats

文/sorae編集部