ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が捉えた超新星残骸「かに星雲」の姿
こちらは「おうし座(牡牛座)」の方向約6500光年先の超新星残骸「かに星雲(Crab Nebula)」です。超新星残骸とは、質量が太陽の8倍以上ある大質量星で超新星爆発が起こった後に観測される天体のこと。爆発の衝撃波が広がって周囲のガスを加熱することで、可視光線やX線といった電磁波が放射されていると考えられています。
【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ(NIRCam)と中間赤外線観測装置(MIRI)で観測した超新星残骸「かに星雲」(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI, T. Temim (Princeton University))】
1731年にイギリスのジョン・ベヴィスによって発見されたかに星雲は、フランスの天文学者シャルル・メシエが星雲や星団をまとめた「メシエカタログ」では「メシエ1(Messier 1、M1)」として1番目に収録されています。20世紀に入ると1054年に観測された超新星との関連性が明らかになり、かに星雲はこの超新星の残骸だと考えられるようになりました。1968年には超新星爆発にともなって誕生したとみられるパルサー(※1)「かにパルサー(Crab Pulsar)」が見つかっています。
この画像は「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope:JWST)」の「近赤外線カメラ(NIRCam)」と「中間赤外線観測装置(MIRI)」で取得したデータをもとに作成されました。ウェッブ宇宙望遠鏡は人の目で捉えることができない赤外線の波長で主に観測を行うため、公開されている画像の色は取得時に使用されたフィルターに応じて着色されています(※2)。
宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)によると、ウェッブ宇宙望遠鏡で観測されたかに星雲の姿は過去に「ハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope:HST)」で観測された姿とよく似ており、この画像ではガス状のフィラメント(ひも)で形作られたカゴのような構造が赤色やオレンジ色で示されています。その一方でウェッブ宇宙望遠鏡は星雲中央の領域に広がるダスト(塵)から放射された赤外線も捉えていて、画像では黄白色や緑色で示されています。
【▲ ハッブル宇宙望遠鏡に搭載されていた広域惑星カメラ2(WFPC2)で観測した「かに星雲」(左・2005年公開)と、ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ(NIRCam)および中間赤外線観測装置(MIRI)で観測した「かに星雲」(右)の比較画像(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI, T. Temim (Princeton University))】
また、ウェッブ宇宙望遠鏡の画像に写っている星雲全体に広がる白い煙のようなものは、シンクロトロン放射を捉えたものだといいます。シンクロトロン放射とは磁場の中で螺旋を描きながら運動する電子などの荷電粒子から放射される電磁波のことで、かに星雲ではかにパルサーの強力な磁場によって加速された粒子から放射されているとみられています。
STScIによると、ウェッブ宇宙望遠鏡による観測にあわせてハッブル宇宙望遠鏡による20年以上ぶりとなるかに星雲の観測も今後1年ほどの間に予定されているといい、2つの宇宙望遠鏡で得られた観測データをより正確に比較できるようになるということです。
冒頭の「かに星雲」の画像はウェッブ宇宙望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡を運用するSTScIをはじめ、アメリカ航空宇宙局(NASA)欧州宇宙機関(ESA)から2023年10月30日付で公開されています。
■脚注
※1…点滅するように周期的な電磁波が観測される中性子星の一種。高速で自転する中性子星からビーム状に放射されている電磁波の放出方向が自転とともに周期的に変化することで、地球では電磁波がパルス状に観測されると考えられている。
※2…この画像ではNIRCamで捉えた1.62μmを青、4.8μmをシアン、MIRIで捉えた5.6μmをシアン、11μmを緑、18μmをオレンジ、21μmを赤で着色しています。
Source
STScI - The Crab Nebula Seen in New Light by NASA's WebbNASA - The Crab Nebula Seen in New Light by NASA’s WebbESA/Webb - The Crab Nebula Seen in New Light by Webb
文/sorae編集部