久保建英、レアルに逆転負けも現地紙は激賞「スーパーゲームを演じた世界レベルのスター」
「久保(建英)の才能は、今になって発見したものではない。(今日は右サイドでのプレーになったが)それはもう、みんな知っているはずだよね」
試合後の記者会見で、レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)を率いるイマノル・アルグアシル監督は淡々と語っている。そのとおりだろう。久保建英は昨シーズンからチームの主力であり、レアル・マドリードを2−0で沈めた立役者にもなっているのだ。
しかしながら、現在の久保は異次元の領域に入りつつある。
9月17日(現地時間)、マドリード。真新しいサンティアゴ・ベルナベウで、久保はアップからどこか泰然としていた。緊張気味のチームメイトとは対照的で、太々(ふてぶて)しいほどの余裕だった。レアル・マドリード時代のチームメイトであるGKアンドリー・ルニンに自ら近寄り、熱い握手を交わすと、何か言葉のやりとりをした。ふたりの間に親密さが浮かんだが、久保が控えになったルニンを励ましているようにも映った。
「パーソナリティのあるプレーヤーは、他の選手よりも重圧に苦しまない」
レアル・マドリードのカルロ・アンチェロッティ監督の言葉は、自軍のイングランド代表ジュード・ベリンガムについて語ったものだが、久保にも当てはまるだろう。絶対的に平常心で、そのアドバンテージが勝負どころで出るのだ。
レアル・マドリード戦にフル出場、先制ゴールをおぜん立てした久保建英(レアル・ソシエダ)
試合開始直後、味方がピンチをしのいだ後だった。前半4分、久保は右サイドから中に入ると、アンデル・バレネチェアへのパスコースが一瞬空いたのを見逃さず、左足で流し入れている。バレネチェアのシュートは一度GKに弾かれ、そのこぼれ球を自ら押し込んだもので、久保のアシストはつかなかった。しかし誰がお膳立てしたのかは、明白だろう。
そして12分、久保はミケル・オヤルサバルからのパスを右サイドで受けると、素早く中へ切り込む。今度は自らシュートコースを作り、左足でファーポストに流し込んでいる。結局、オフサイドの位置にいたオヤルサバルにボールが当たっていたことによって、ゴールは取り消されてしまったが、痺れるようなプレーだった。
【最後は戦力差に屈したが...】
29分、アマリ・トラオレからのパスの勢いを利用するように、久保は前に出るトラップだけで名手トニ・クロースと入れ替わる。そしてドリブルで加速すると、中に切り込み、やはりファーポストを狙う。GKの必死のセービングに阻まれたが、もはや圧巻だった。
勢いは止まらない。
その直後にも、久保は右サイドでほとんどのコースを消される一方、確信を持ってタイミングを測る。そして一瞬できたコースに、左足でボールを中に入れている。そこにミケル・メリーノが体ごと飛び込んで、ヘディングで決定的なシーンを作っている。
その後、中盤ではオーレリアン・チュアメニが苛立ったように潰しに来た。すると、久保はこれを予測して逆手に取っている。イエローカードを誘い、相手の守備を制限した。
「なんて久保はすばらしいんだ!」
ラジオの実況が、信じられないという様子で騒いでいる。前半、"ピッチの王"にふさわしいのは久保だったと言える。世界的スターが勢揃いしたレアル・マドリードの選手をも上回ったのである。
久保は味方が苦しむと、そこで反発力を絞り出すように好機を作った。そのパーソナリティこそ、彼を別格の存在にしているのだろう。トッププレーヤーの気骨と言うのだろうか。
「ラ・レアルの選手の誰もが、久保にボールを集める、という意識を持っていた。前半の久保は、とにかく止められない選手だった」
スペイン大手スポーツ紙『マルカ』はそう記し、激賞している。
後半、レアル・マドリードが挽回したことで、久保は前半のような天衣無縫のプレーはできなくなった。左サイドバックのフラン・ガルシアが食いつかずに立ちはだかり、クロースが中に入ってくるスペースを埋めたことで、久保はボールを下げる機会が多くなる。そしてフェデリコ・バルベルデに火を吹くような一撃を決められて、2−1と逆転されてしまった。
ただし、久保は劣勢になっても、勝負どころでは逞しさを見せている。ドリブルで脅かし、フラン・ガルシアのイエローを誘発した。すぐ後にフラン・ガルシアの代わりにナチョが投入され、最後はレアル・マドリードとの戦力差に屈した格好となったが......。
「久保はベルナベウで"博士号を取得"した。スーパーゲームを演じ、危険を作り出した。世界レベルのスター選手と言えるだろう」
スペイン大手スポーツ紙『アス』も、ほとんど手放しの賞賛を送っている。負けたチームの選手であるにもかかわらず、それだけ異彩を放っていた。
「ラ・レアルが得点チャンスに恵まれなかった試合など記憶にない」
久保はそう言う。その自負が自信になり、チームを牽引し、太々しいまでに敵を凌駕するプレーになるのだろう。一流選手の気骨で、歴史を変えられるか――。
9月20日、久保はホームでのチャンピオンズリーグ初戦、インテル戦に挑む。