男性からの「いいね」は500以上…48歳ライターが「婚活アプリ最高ランク女性」と奇跡のデートをした結果
※本稿は、中村淳彦『ずるい傾聴術 人間関係が好転してトクする33のルール』(かや書房)の一部を再編集したものです。
■「55歳以上で未婚の男性」はもう結婚できない
40代中年男性の婚活は、年々厳しさを増しています。
アラフィフの生涯未婚率は男性25.7%、女性16.4%となり、4人に1人が結婚しない、あるいはできない社会となりました。
この傾向はずっと続き、10年後には男性の生涯未婚率が30パーセントを超えるのは確実と言われています。
55歳以上で未婚の男性が結婚することはほとんどなく、さらに驚くことに未婚男性の平均寿命は67.2歳なので、多くの単身男性は年金すらもらわないうちに、いずれなにかしらの病気を患(わずら)って死んでいくことになります。
■未婚男性と未婚女性のマッチングは難しい
未婚の男女で傾向が正反対なことはご存じでしょうか。未婚男性は高卒以下の非正規労働者が多く、未婚女性は逆に、高学歴高収入の人が多いのです。
階層が異なる同士の結婚は稀です。つまり、「生涯未婚」同士でマッチングすることは難しく、いずれ未婚男性の孤独死が常識となるであろう、深刻な状態なのです。
筆者は2020年9月、48歳のときに妻を脳腫瘍で亡くしました。
残されたこれからの人生をどうするかを考え、亡くなってから4カ月後に、数年間かかることを覚悟してアプリで婚活を始めました。
■「ずるい傾聴」を婚活に活用する
妻が亡くなったばかりなので、再婚は急いでいませんでした。最初は高望みして、だんだんと守備範囲を広げることとし、「ずるい傾聴」を婚活の場面でフル活用することにしました。
初めてお見合いしたのは、44歳歯科医のシングルマザーAさんでした。
清楚なインテリ風、控えめ、育ちがよさそうと、理想に近い女性でした。
ただ、ノンフィクションライターと歯科医では階層が違います。
対等に会話をしても、階層が違うので余計なことを言ってしまったりと、失敗の可能性が高くなります。
相手と人間関係ができるまでは、ひたすら相手が話したいことを聞く「傾聴」で人間関係をつくっていこう、というプランでスタートしました。
■「自分の話を聞いて欲しい」という願望
人には「自分の話を聞いて欲しい」という強い願望があります。
「ずるい傾聴」はその願望を逆手にとった行為で、相手との会話のときに真っ先に聞き手のポジションをとり、非アサーティブ(自己主張を控える)な姿勢で相手が話したいことを聞き、会話をつくっていきます。
Aさんとのお見合いが決まった瞬間から、自分の話をしないと誓いました。
歯科医とは階層が違う、しかも中年男性というダブルの十字架を背負っているので、なおさらです。
婚活のお見合いは、一発勝負なので失敗できません。成功すれば上限なしの利益を享受できる、人生のなかできわめて重要な場面の一つになります。重要なのは準備とメンタル調整です。
■「店の前で待ち合わせ」でミスの可能性を減らす
筆者は傾聴に適した店探しから始めました。
飯田橋の「カナルカフェ」という神田川沿いのカフェを見つけました。特殊なL字型2人テーブルが設置され、それが傾聴には完璧な形、完璧な距離感なのです。
すぐ入店できるように、駅前ではなく店の前で待ち合わせをしました。
婚活のお見合いは、女性にとって、いくらでも替えがききます。嫌だったらもう会わないと断ればいいだけです。清潔感がない、態度が悪いなどは当然として、失言など、1つのミスも許されません。
店の前で待ち合わせた理由は、初対面の知らない相手との移動時間の間に、ミスをする可能性があるからです。
店の前で待ち合わせ、店の前で別れることにして、移動時間がないほうが、ミスの可能性が減ると判断しました。
■「自分の話をしない」「否定しない」「共感する」
Aさんとの待ち合わせの1時間前には、相手との会話をシミュレーションしました。
婚活目的が明確なので、相手は自分の履歴や仕事のことを話すだろうと想像がつきました。
待ち合わせ場所に早めに到着し、最終確認として「自分の話をしない」「否定しない」「共感する」、この傾聴の基本を心のなかで復唱して、メンタルを整えます。
■「共通点についての雑談」から始める
相手の44歳シングルマザーAさんは、想像通り育ちがよさそうな方でした。
待ち合わせ場所で挨拶して、すぐに入店します。L字型の形状が、完璧な距離感をもたらす2人テーブルに座り、共通点である、飯田橋という今いる土地について短い雑談をしました。
神田川沿いの爽快な景色が目の前にあったので、「こんな店があるとは知らなかった」「飯田橋は、いつも通勤で通っている」など、会話はまあまあ弾みました。
メニューを渡して、なにを頼むか相手に選んでもらいます。相手がランチを頼んだので、筆者も同じものを注文しました。
ここからが本番です。趣味のこと(趣味読書と書いてあった)、仕事のこと、シングルマザーなので相手の事情と、聞くことはたくさんあります。
■「ピックアップ・クエスション」と「相づち」で聞きだす
自分 歯科医をされているのですね。プライベートで先生と話すのは初めてです。
筆者が責任の重い仕事に対する共感と、軽い自己開示を言うと、相手の仕事についての話が始まりました。
勤務先は複数で、曜日によって変えていて、その1つが総武線沿いにあること。
歯科医は大学の学閥、人脈みたいなものがあり、勤務先の医院長はすべて同じ大学出身であること。
卒業してしばらくは大学附属の医院に勤務することが慣例となっていて、収入は決して高くはないことを話していました。
ピックアップ・クエスション(相手が発言した単語や主旨を拾い、即時に短い質問を投げかけるテクニック)と、相づちによって、どんどん話が出てきます。
■会話は「相手7、自分3」
仕事について20分ほど話してから、シングルマザーという相手の事情に話を変えました。
子どもは高校3年生の大学受験生、看護学校への進学を目指していること、元夫とは子どもが1歳のときに相手の浮気が原因で離婚していること、元夫は年下で友だちの紹介で出会っていること、育児は実家の母親に手伝ってもらって、自分は仕事を続けてきたことを話していました。
筆者が自分の話をするのは、相手から質問をされたときだけです。
このときは相手から質問されることはあっても、深い話までは聞かれませんでした。
筆者が話したのは出版関係のライターの仕事をしていること、妻が亡くなってそんなに時間が経っていないこと、すぐに結婚をしたいというわけではないことを話しました。
余計なことを言ってしまうミスを犯さないためにも、最初のお見合いは90分程度で終わらせるのが無難です。会話は「相手7、自分3」という領域におさまり、相手のこともだいぶ理解できたので成功です。悪印象はまずないだろうと、思っていました。
■「おそらく次のアポもとれるだろう」と思ったが…
自分 「今日は楽しかったです。また、来週もお会いできますか?」(クローズド・クエスション)
筆者はおそらく次のアポもとれるだろうと、時間を見計らって終わりだけクローズド・クエスションを投げました。
Aさんは了承し、次の約束を取りつけてその日は別れました。
結果を言うと、Aさんとはここから毎週1回、合計5回のデートを重ねました。
しかし、さらなる関係の進展が望めなかったので断念しました。
フラれたわけではなかったのですが、あきらめて、筆者から誘うのをやめて自然消滅となりました。
Aさんとはゴールまでには至りませんでしたが、5回のデートを重ねたことで、筆者が婚活に「傾聴」という手段を選んだのは大正解だったと自信になりました。
■上品なスレンダー美人Bさんから「いいね!」が
Aさんと自然消滅して、しばらく婚活の動きはありませんでした。
婚活アプリは膨大な登録者の中から、興味がある相手に「いいね!」を押して「相互いいね!」になったらメッセージのやりとりができる、という仕組みです。
アプリでたまに「相互いいね!」の状態になっても、結婚を急いでいるわけではなかったので、会うことはしませんでした。
状況が変わったのは自然消滅から3カ月後、驚くほど上品なスレンダー美人Bさんから「いいね!」があったのです。
■中年男性のアプリ婚活は厳しい
中年男性のアプリ婚活は異常なレベルで厳しく、ほとんどの人には「いいね!」すらつかないのが普通です。
筆者はまさかと思って「いいね!」を返し、Bさんに「押し間違い?」かを確認しました。
その後、メッセージを何度かやり取りして、筆者から誘ってBさんに会うことになりました。
ちなみにBさんは筆者と同じ年齢なのですが、品がある美人、高年収とスペックが高く、様々な男性から「いいね!」をもらっていました。
その数は500を超えていて、アプリ内では最高ランクの人気女性でした。
このようなチャンスは滅多にないというか、生涯、もうないかもしれません。
数百人もの競争相手がいる中で、筆者が勝つ可能性があるとしたら、その手段は「傾聴」しかありません。
Bさんを相手に、ふたたび傾聴を使うことを決めました。
Aさんの時に成功したすべての技術を、もう一度実践することにしたのです。
■「自分の話をしない」「共感する」「否定しない」
前日に傾聴のシミュレーションをして、待ち合わせ直前に「自分の話をしない」「共感する」「否定しない」の基本事項を唱えるように繰り返しました。
また、移動中にミスをしないようカフェの前で待ち合わせました。
待ち合わせは飯田橋、傾聴の完璧な距離を保てる「カナルカフェ」に行くことにしました。Bさんにメニューを渡すと抹茶ラテを頼んだので、筆者も似たようなほうじ茶ラテを選びました。
自分 どちらにお住まいですか?
雑談のネタは、少しでも相手のことを知るため「居住地」にしました。
Bさんはあまり言いたくなさそうな表情で「板橋区です」と返答があって、筆者と同じだったので、しばらく板橋の話をしていた記憶があります。
■「忙しかったから結婚どころじゃなかった」
自分 どうして婚活をされているのですか?
筆者はいきなり「なぜ?」の質問を投げて、本題に入ることにしました。
結婚経験はないようでした。どうして49歳になって婚活をしているのかという疑問です。
「カナルカフェ」のL字の2人席はやはり完璧でした。
相手 どうしてだと思います? あることをしていて、忙しかったから結婚どころじゃなかったというか。
■Bさんはジャニオタだった
ん、んん……。
Bさんから逆に質問されて、「あること」とは何だろうか? と考えました。
数秒間考えていると、「みんな、していることですよ」と言われて、ジャニオタが浮かびました。
「ジャニオタ?」と聞くと、Bさんは頷きます。
自分 あー、なるほど。なに推しですか?
と、筆者はどのグループを推していたのか聞きました。
年齢的にスマップかV6、もしくは嵐でしょう。
ちなみに筆者は、嵐が好きでそれなりに詳しいので、嵐だったらワンチャン可能性があります。
■嵐が活動休止し、婚活を始めた
オタクは推しの話になると、目を輝かせて話をします。筆者も嵐の話だったら詳しいので、マニアックなことでも、どこまでも話が聞けます。
Bさんの推しが嵐であることを心のなかで願っていました。
相手 嵐です。
Bさんはディープなジャニオタで、平日に会社員をしながら嵐のテレビ番組、雑誌、ラジオを全部チェック、それにドラマ鑑賞とロケ地まわり、ライブのチケット購入、参加、オタク同士の交流などをしていると、もう時間がまったくなかった、というのです。
嵐は2020年12月、活動休止してしまいました。
嵐が活動休止となってやることがなくなって、婚活をしているという事情でした。
■「大野智」と聞いて「もらった」と思った
自分 嵐の誰推しなの?
続けて、嵐の誰が好きなのかを質問しました。
筆者は自分が好きな大野智か相葉雅紀だったら勝ち、逆に松本潤だったら詳しくないので微妙と思っていました。
結局、Bさんは大野智推しのオタクでした。
「大野智」と聞いたとき、これはもらったと思いました。大野智はジャニーズの歴史で右に出る者がいない天才的なダンサーで、さらに天才的な絵画アーティストで、すさまじい歌唱力があることなど、よく知っています。
どこまでも話についていけるので、傾聴し放題です。
■他のライバルたちを傾聴で出し抜く
しかし、筆者はBさんに、自分も嵐の大野智が好きなことをすぐには伝えませんでした。
相手に媚びを売ると、わざとらしいと思われる可能性があるのと、膨大な数にのぼるであろう他のライバルたちを傾聴で出し抜くためです。
筆者自身が好きであることは隠して、どこまでもついていける大野智の話を傾聴することにしたのです。
相手は、筆者のことを他の男性とは全然違うと思うはずです。
会話は当然の如くに盛り上がり、筆者も仕事やこれまでの事情を中心に様々な質問をされましたが、そのまま事実を答えました。
■ジャニオタBさんに「傾聴」を使った結果
このとき、Bさんは一定の期限内で土日を使ってお見合いしまくっていて、合計30人以上は会っていたようでした。
ライバルは異常に多いのですが、その中で傾聴できるのは多くて5人程度でしょう。
嵐や大野智の話をどこまでも聞けるのは、その中にはどう考えてもいません。いないはずです。
すさまじい競争がありましたが、筆者は大野智の言葉が出たとき、「この婚活は勝ったかも」と思いました。
「カナルカフェ」を出るときに「また、来週もお会いしたいです。空いている日にちはありますか?」とクローズド・クエスションして、2回目のデートの約束をして別れました。
そして、結局このBさんと成婚することになりました。
筆者の大殺界が明ける半年後を待って入籍しています。
筆者がやったことは大野智の話を聞いて、別れ際にクローズド・クエスションで次の約束をする。自分の話は相手に質問されたときに答える。それを繰り返しただけです。
それだけで、最終的に結婚することになってしまったのです。
トクするずるい傾聴、おそるべしでしょう。
筆者は、本当にそう思いました。
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中村 淳彦(なかむら・あつひこ)
ノンフィクションライター
1972年生まれ。著書に『名前のない女たち』シリーズ(宝島社)、『東京貧困女子。』(東洋経済新報社)、『崩壊する介護現場』(ベストセラーズ)、『日本の風俗嬢』(新潮新書)『歌舞伎町と貧困女子』(宝島社)など。現実を可視化するために、貧困、虐待、精神疾患、借金、自傷、人身売買、介護、AV女優、風俗などさまざまな社会問題を取材し、執筆を行う。
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(ノンフィクションライター 中村 淳彦)