日々新しい記録を更新し、メジャーリーグで活躍する大谷翔平選手。日本ではテレビで見ない日はありませんが、海外ではどうなっているのでしょうか? アメリカ・シアトルに住んで20年、子育てに奮闘するライターのNorikoさんに、「アメリカのテレビ事情」について教えてもらいました。

アメリカから日本へ1年ぶりの帰省で気づいたこと

新型コロナの規制もなく、今年のお盆休みは多くの方が故郷に帰り、親や親戚とともに時間を過ごしたのではないでしょうか。私も1年ぶりに、アメリカから子連れで日本の実家に帰省していました。

テレビの前のテーブルでの家族団らん。典型的な田舎の家です。父と母から昨今の物価高から日本の芸能界の近況まで、いろんな話をしましたが、ネットに疎い高齢者だけに、やっぱりテレビが大きな情報源のひとつだと感じます。毎日テレビから流れるのはニュース、情報バラエティー、たまにドラマや歌番組。

親と一緒にそんな生活が2、3日続くと、やっぱり目立って露出が高いとわかるのが、ロサンゼルス・エンゼルスに所属するメジャーリーガー、大谷翔平選手です。毎日、多いときは朝、昼、晩と、いろんな情報が目に飛び込んでくるので、アメリカにいるときより逆に詳しくなってしまったくらい。

●アメリカ人は野球をあまり観ない?

当然、メジャーリーグ野球の本場、アメリカにいる人たちのほうが、もっと大谷選手に詳しいはずと思う方もいるかもしれません。でも、名前くらいは知っていたとしても、一般的な日本人より大谷選手に詳しいアメリカ人は、そう多くないと思います。

なぜ、そんなことになるかというと、アメリカ人は日本人ほど多くの層が野球に関する情報をテレビで見ないから。アメリカでは野球以外にも人気スポーツがあることもあり、外国人助っ人プレーヤー個人を詳しく追う報道はなかなかされないという事情もあります。

●アメリカ人はテレビでなにを観る?

アメリカの2大スポーツと言えば、アメフトとバスケットボールです。

とくにアメフトは絶大な人気を誇り、自分の推しチームだけでなく、全チームの試合をチェックするほどの熱烈なファンが少なくありません。

NFLのプロリーグはもちろん、大学アメフトもテレビ中継されています。そのため、8月から2月までのアメフトのシーズン中、夫はテレビにかじりつきで見向きもされない妻が続出。まるで夫に先立たれた未亡人、ということで「アメフト未亡人(football widow)」なる悲しい言葉まで存在します。

もっとも高視聴率を稼ぎ、放映中は街から人が消えることで有名なのが、「スーパーボウル」と呼ばれるNFLのプロリーグ決勝戦。大手企業はCM獲得に争奪戦となり、開会式での国歌斉唱や、前半戦と後半戦の間のハーフタイムショーには超大物ゲストが招かれ、最高のパフォーマンスで全米の視聴者を虜に。

ハーフタイムの歴代アーティストを挙げれば、エミネム、スヌープ・ドッグ、ジェニファー・ロペス、マルーン5、ジャスティン・ティンバーレイク、レディー・ガガ、ビヨンセ、ケイティ・ペリー、ブルーノ・マーズ、マドンナ、プリンス、ローリング・ストーンズ、ポール・マッカートニー、ジャネット・ジャクソンと、豪華そのもの。2024年はラスベガスでの開催が決まっています。2023年のハーフタイムは歌姫のリアーナが妊娠発表のサプライズで盛り上げましたが、来年はだれが選ばれるのか注目が集まります。

一方で今年の春、決勝戦の最後に「侍ジャパン」の大谷選手がチームメイトのマイク・トラウト選手を仕留めてアメリカに勝ち、日本中が沸いたWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)はどうだったのでしょう。アメリカでもWBC史上最高の448万人視聴を達成しました。ですが、2023年のスーパーボウルが1億1510万人視聴だったことを考えると、レベルは桁違い。テレビ以外の全プラットフォームを合わせると2億人視聴、つまり視聴率60%になる計算だとか。スゴすぎます…。

ちなみに、私の住むシアトルで今夏、MLBオールスターゲームが開催され、大谷選手が出場するということで日本でも話題になりました。日本では試合のテレビ中継まであり、連日のニュースで目にするフィーバーぶりでしたが、シアトルに残っていた夫に聞くと、「ああ、そう言えば、球場のほうで花火が上がっていたような…」くらいの薄い反応(苦笑)。

実際には、シアトル随一の観光名所であるパイク・プレイス・マーケット(スターバックス1号店で有名)でのレッドカーペットショーなど、試合までにさまざまなイベントが行われ、シアトルの街もそれなりにがんばって盛り上げていたはずなのですが、あくまで「野球ファン」限定かも? アメリカでも地域や世代によりますが、近年は野球よりアイスホッケーやサッカー、という人も増えてきています。

●テレビは置いてあるものの…

アメリカの家でも居間や寝室などに「テレビ」は置いています。ただ、その用途はゲームやネット動画などさまざまあり、また、テレビよりストリーミング視聴に移行しつつあるのが現状です。

アメリカでテレビを買った場合、受信アンテナの取りつけ、または受信エリアにない場合は、ケーブルテレビや衛星放送のサービス加入が必要です。

10年前くらいまで主流だったケーブルテレビは200近くのチャンネルがあって、わが家も契約していた頃は、グルメや住宅、旅、音楽に関する専門チャンネル、連続ドラマ、たまにスポーツなどを観ていました。子どもができたら、アニメや知育チャンネルが大活躍! 別料金で日本語放送を行うチャンネルも視聴できます。

しかしながら、これがまた高い…。機材レンタル料だ、なんだかんだと月額100ドル(約1万4500円)以上になってしまいます。アメリカではインターネット接続サービスもケーブルテレビが幅を利かせており、パッケージ契約にする家庭が主流ですが、それだと月額200ドル(約2万9000円)くらい。

というわけで、節約のために数年前に解約し、わが家はストリーミング視聴できるサブスクで間に合わせています。数社契約してもケーブルテレビより安いし、ややタイムラグはあるものの、連続ドラマや映画もそのうち観られるようになるため、DVDも使わなくなりました。スポーツ専門のストリーミング視聴サービスは高いので、W杯や五輪などのときだけ加入すれば十分。

●テレビよりもストリーミング視聴の方がコスパもいい

ガソリン代の高騰、物価高が止まらない現在、少しでも生活費の節約にと、ケーブルテレビの解約を検討するアメリカ人が増えています。2022年7月にはついに、ストリーミング視聴がケーブルテレビを上回りました。

今でも65歳以上のシニア世代の8割以上がケーブルテレビを利用していますが、若者はすっかりストリーミング視聴にシフトしています。

ケーブルテレビの十八番だったお騒がせのリアリティ番組やお色気ドラマも、今はストリーミング視聴が主流に。

リアリティ番組では、ハリウッドの華麗なる不動産業界を舞台にした「セリング・サンセット」が知られ、過激な婚活系「ラブ・イズ・ブラインド」第4シーズンの舞台は、ここシアトルでした。これは、日本版も制作されましたね。かつてケーブルテレビ人気を牽引した伝説のドラマ「セックス・アンド・ザ・シティ(SATC)」の新章「アンド・ジャスト・ライク・ザット(AJLT)」は第2シーズンへ。

最近は場所を取るテレビを処分し、プロジェクターに切り替える人も増えていると聞きます。昭和を知るテレビ世代としては少し寂しい気もしますが、これも時代でしょうか?