SNSで暴走した女性レイヤー「無許可です」とイベントを攻撃して中止に追い込む 「歪んだ正義感」の実態
「無許可です」「通報された場合、コスプレしたまま事情聴取される可能性が高い」などとTwitterに書き込まれた結果、あるコスプレイベントが中止に追い込まれた。
主催団体が投稿者らを名誉毀損で訴えた裁判で、さいたま地方裁判所はいずれも社会的評価の低下を認め、計約260万円の損害賠償を命じた(判決はそのまま確定した)。
被告のコスプレイヤーは「許可が必要なイベント」だと思い込み、警察や地元商工会を巻き込んで「暴走」。原告の主催団体によると、1人は理由をつけて賠償を支払えない状況を伝えるだけで、支払う努力は一切伝えてこないという。
専門家はネット炎上にかかわる人の特徴として「社会的正義ではなく、自分の価値観での個人的な正義感から攻撃する」とし、安易な拡散に注意を呼びかける。(ニュース編集部・塚田賢慎)
●「許可を申請しないイベント」「コスプレしたまま警察から事情聴取される」
中止に追い込まれたのは、2021年4月に埼玉県川越市内をコスプレ衣装で散策するイベントだった。
埼玉県の主催団体(レイヤーズプラザ・菩提寺由美子代表)が同年3月に告知したところ、コスプレイヤーの女性らがTwitterで「参加を検討しているレイヤーさんへこちらの主催、無許可です。どこにも申請出してません。通報される可能性があります。通報された場合、コスプレしたまま事情聴取される可能性が高いです」などと投稿した。
大きく拡散し、「ルールを守らない団体」と批判を受けて炎上に巻き込まれることになった。
女性らは、主催団体が過去にトラブルになっていたとの情報に触れ、手分けして、現地の警察や商工会、レイヤーズプラザに川越のイベントでも許可を得ているかどうか問い合わせている。
さらに、主催団体から「許可の必要はない」と回答を受けてもなお、「コスプレイベントをするには警察への届出は絶対です」と自説の主張を続けた。
実際のイベントはコスプレした少人数の参加者が街を散策するもので、法令上の許可を必要とするものではない。「虚偽の投稿」だと注意を呼びかけたのもむなしく、参加キャンセルが相次ぎ、中止に至った。
この影響で、その後の企画も中止が続き、代表の菩提寺さんの本業である煎餅の取引も一部で終了。女性コスプレイヤー2人と、参加者を通報してSNSに晒す考えを示した男性に法的措置をとった。
女性らの本名や連絡先を開示請求訴訟で特定し、続いて損害賠償請求訴訟を起こした。
●裁判所の判決「思い込みに基づき関係のありそうな官署に問い合わせている」
今年6月までに3人に賠償を命じた裁判所は、投稿は不法行為にあたると認定している。
判決では、女性らの行動に「イベント実施には何らかの許可が必要であるとの思い込みに基づき、何らかの関係のありそうな官署や団体に、申請の有無を確認しているだけのように見える」として真実相当性を認めなかった。
また、菩提寺さんからの返答によって、再考の機会があったのに、ツイッターで短期間のうちに情報を拡散したとし、違法性は軽微ではないとも指摘した。
菩提寺さんによると、先に判決を受けた男性から賠償金を受けとったが、女性の1人は理由をつけて支払いできないと話しているという。
納得できず、さいたま地検に3人を刑事告訴したという。
弁護士ドットコムニュースは、投稿の理由や謝罪の考えなどを聞くため、女性2人に手紙を送った。
1人は電話で「取材を受ける考えはない。できれば記事にしないでほしい。私と菩提寺さんの問題であって、広く伝える必要はないと思う。質問の内容は検察や相手の弁護士に話している」と詳しい回答を控えた。
菩提寺さんによると、この女性の場合、数万円の支払いが始まり、謝罪もあったという。
インターネットの炎上に詳しい国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの山口真一准教授は「ネット炎上に書き込みをする人の多くが、『許せなかったから』などの自分の中の正義感で攻撃をしていることが、私の研究で明らかになっています」と話す。
「しかし、ここでいう正義とは、社会的正義ではなく、その人の価値観での個人的な正義感です。自分が正しいと思い込んで過剰な攻撃をした結果、相手を傷つけるだけでなく、損害賠償という形で自分に返ってくることもあります。思い込みで暴走したり、他人の主張に安易に乗っかったりしないことが大切です」(山口准教授)
●自ら作り上げたルールを絶対視「逸脱した人を許せないのはどうなのか」(菩提寺さん)
長年育ててきた団体のイメージをつぶされた菩提寺さんは、女性から届いたメールに書かれてあった「コスプレイベントをするには警察への届け出は絶対」「コスプレイベントの趣旨は街中でコスプレして思い出の写真を撮るです」「その土地土地のルールがあります」といった記載が印象的だと話す。
「自分の中の絶対的なルールがあって、そこから逸脱した人を許せないし、みんなのために正義感をもってやったんだと考えているなら、それはどうなんでしょう」(菩提寺さん)
この女性から編集部への応答は確認できなかった。菩提寺さんによれば、女性と連絡をとったものの、謝罪はなく、賠償しない理由を並べているという。