010:ホラー系YouTubeチャンネル『ゾゾゾ』のディレクター・皆口大地さんに、収入事情や「ゾゾゾのこれから」を聞いた(写真:ゾゾゾ提供)

これまでにないジャンルに根を張って、長年自営で生活している人や組織を経営している人がいる。「会社員ではない」彼ら彼女らはどのように生計を立てているのか。自分で敷いたレールの上にあるマネタイズ方法が知りたい。特殊分野で自営を続けるライター・村田らむが神髄を紡ぐ連載の第111回。(本記事は前後編の後編です。チャンネル誕生の背景を伺った、前編の記事はこちら

ゾゾゾの始まり

ホラー系YouTubeチャンネル『ゾゾゾ』のディレクター・皆口大地さん(36)。メインパーソナリティーである落合陽平さんとの出会いは、とあるベンチャー企業の面接だった。「君は友達100人いるの?」と開口一番聞いてきた、風変わりな社長が落合さんだった。


今でこそ、ゾゾゾのメインパーソナリティーとして、各所で活躍している落合さん。だが、ただこの時点では、アルバイトの皆口さんと社長の落合さんはずいぶん距離のある間柄だった。

「当時の落合さん、すごい心に壁を作っていたんですよ。重役同士とかなら笑ったりしたんでしょうけど、アルバイトとかには全然愛想よくなかったです(笑)。いつ辞めるか分からない人間に笑顔振り向いてもしょうがない、とちょっとドライに考えていたと思います(笑)」

当時、皆口さんと近い立場の人は、落合さんを少し怖がっていたという。皆口さんは、落合さんの壁を壊したいと思った。

「落合さんの壁を壊したくて、飲みに誘ったりしました。意外にも、予定が合えば来てくれました。仲良くって言うとおこがましいですけど、20代で社長になって色々な経験をしている落合さんの話が聞けたのは楽しかったですね」


写真:ゾゾゾ提供

コールセンターでの電話を取る仕事や、ウェブデザインの仕事をするなかで、ある日、皆口さんがエレベーターに乗っていると、上司に「皆口くん、なんかいいアイデアない? やりたいこととかさ」と話しかけられた。

「パッと思いついたのが、心霊スポットを食べログみたいに網羅してるサイトでした。面白いと思ったし、そんな事業があるのなら携わりたいとも思いました」

ただ上司はいい顔をしなかった。「スポンサーはどうするの? 運営代はどう捻出するの? いつ、どこでペイできるの?」などやたらと詰めてきた。

「いや、今考えた企画で、そこまで分からないですけど……って。これが入社して半年くらいの出来事だったんですけど、腹が立ったというか、すごい自分の中で根に持ちました。これが、ゾゾゾの始まりの1です」

それから随分経った頃、落合さんが傷心モードになっていた。

聞けば、仲良しの社長に頼まれてゲーム実況のYouTubeに出ることになったらしい。しかし、撮影している時から手応えがなく、後日編集されたのを見てもやっぱり面白くなかったという。これで企画をスタートしても上手くいかないのは目に見えていたから、

「この話はなかったことにしてください」

と断ったという。

「『自分だったら落合さんのこと、もっと上手く使えますよ』って言いました。もちろん慰めるためですけど、でも本音でそう思っていた部分もありました。落合さんがタレント性が高いのは、分かってましたから。これが、ゾゾゾの始まりの2ですね」

食べログなどのサイトは、オープンして初めて広告がつく。

心霊スポットのサイトを開くまでには、何百件も取材しなければならない。水面下で進めていくお金もマンパワーもない。

「『だったら心霊スポットを収集する過程を番組にしよう』と思ったんです。YouTubeの番組にすれば何百件でも面白く紹介できるんじゃないか?と。メインパーソナリティーは迷わず、落合さんに決めました。それで、平日の仕事終わりに落合さんを石神井公園に呼び出しました」

いつ「打ち切りにしよう」と言われるか不安だった

2018年、落合さんと2人で夜の石神井公園を散策する『都心の心霊スポット!石神井公園が不気味すぎてヤバい!』という動画を撮った。

「正直そこまで手応えはなかったですね。帰り道2人で反省会をして。

『声が出てなくてごめん』『編集で面白くするので、暗い気持ちになるのやめましょう』

とか話しました。動画編集も経験なかったですが、下手なフリーソフトを使って後々使えなくなるのも嫌だったので、アドビのプレミアプロを使いました。一生懸命テロップの入れ方とか勉強しながら、編集しました」

落合さんには、全12話と説明していた。本当は24話やりたかったが、それだと「長すぎる」と言われる気がした。

「動画の視聴数は最初は全然伸びませんでした。回を重ねてもチャンネル登録者も伸びず100人に届きませんでした。本業の合間を縫ってやっているので、いつ落合さんに『もう打ち切りにしよう』って言われるか、不安でしょうがなかったです。打ち切られなかったのは、落合さんは心霊スポットに行くのはすごい嫌がるんですけど、出来上がった作品は見たい人なんですね。撮影が終わると、『まだできないの? 見たい!!』とよく急かされました」

全力で作っていたら、急にバズった

そんな折、第12回『【閲覧注意】悪臭漂う謎の心霊スポット&怪現象が見れる!お化け坂』が急にバズった(当動画は現在、非公開)。カウンターの数字はドンドン跳ね上がっていった。

「最初は悪い意味で炎上してるのかと思って、怖かったです(笑)。どうしてこの動画がバズったのか、理由はよく分かりません。ただ、全部の動画を全力で面白く作ってるという自負はあったので、『やっと見つけてもらえたか』という気持ちが大きかったです。チャンネル登録者数が10万人まで伸びるのは、あっと言う間でした」

多くのYouTubeチャンネルは動画ごとに再生数にムラがある。300万回再生されている動画があるチャンネルにも、10万回も再生されていない動画があるのは珍しくない。

ゾゾゾは現在、全ての動画が100万再生を超えている。300万再生、500万再生、800万再生と、化け物クラスの動画もたくさんある。つまり、ムラなく面白い動画がそろっている。

「これで打ち切りの心配はなくなったかなと。自分はテレビっ子ですから、無限にずっとゾゾゾはやっていきたいと思っていたんですが、それでもファーストシーズンで一度区切りたかったんですね。落合さんにファーストシーズンは全24回で終わりにしましょうと言ったら、『俺なら終わるチャンネルを登録しようとは思わないんだけど大丈夫?』って強く反対されました。でも終わりがあるからこそ締まると思う。

あと、ゾゾゾでいわゆるYouTube的な動画もアップしたくなかった。例えば『今回は落合から大切な発表があります』みたいなタイトルで、再生してみたら全然しょうもない内容で肩透かしを食らうような、そういう動画は上げたくなかった。

一本一本全て、丹精を込めた動画にしたかったんです。それにはテレビ番組のような回数制限があった方がいいと思いました」

皆口さんは落合さんを説得し、全24回で一旦終わることになった。しかし、その時はさほど話題にならなかった。

しかし、最終回が近づくにつれ、どんどん

『何? 全24回って書いてある。終わっちゃうじゃん!!』

という視聴者の声が大きくなっていった。

番組は惜しまれつつ終わったが、スペシャルを挟んで、セカンドシーズンが始まった。セカンドシーズンはファンの熱狂を持って迎えられた。

現在はスペシャル番組を数カ月に1本アップしているが、そのたびにツイッターのトレンド入りを果たす。

サードシーズンを待ち望むファンも多い。

チャンネルがブレイクした後、メインパーソナリティーをしている落合さんは、町中や取引先で顔バレすることも多くなっていった。だが、その状態になっても会社の人たちには言わなかった。

「会社の人には、恥ずかしいからと口止めされてました。それと落合さん、実は会社から独立するように話を進めていたんですね。それで4年前、落合さんが会社を抜けて、自分と2人で合同会社ギギギを設立しました」

合同会社ギギギではゾゾゾ、サブチャンネルの運営はもちろん、ウェブデザインの仕事もこなしている。

「ウェブデザインの仕事もしています。ウェブデザインも『このサイト、自分が作ったんだぞ』とか自慢したいんですけど。ただクライアントがいる案件ですから、不用意なことは言えません。もどかしいですね(笑)」

撮影の交渉はどのようにしている?

ゾゾゾは多くの心霊スポット、恐怖ゾーンでの撮影を敢行している。

最近ではコンプライアンスも厳しくなり、撮影が難しくなってきていると聞く。ゾゾゾではどのようにクリアしているのだろうか?

「端的に言えば、所有者さんから許可を取って撮影しています」

まずは多くの人と同じように、インターネットで興味のある廃墟や心霊スポットなどを探すという。そこにはおおよその住所が載っている場合も多い。そうやって目的地を決めて遊びに行ったことがある人もいるだろう。

「まず、その住所が合ってない場合が多い。最初の頃はその住所に手紙を送ってましたが、住所不定で返ってくることが多かったですね。多くの人にとっては、目的地に到着すればそれでいいですから大体の住所でもしかたがありません。ただ、こちらが欲しいのは、正確な住所で。もっと言うと、いわゆる普通の住所じゃなくて、地番が欲しいんです」


写真:ゾゾゾ提供


写真:ゾゾゾ提供

地番とは、土地一筆ごとに振り分けられた番号のことだ。法務局が定めた住所で、登記が必要な住所のみにつけられている。

「地番って現地の役所に行かないと分からないんですよ。役所に行って、地図と照らし合わせて番号を確認する。それで地番のデータを印刷してもらって帰ります」

インターネットの登記簿を調べるサイトでは、地番を入力すると、持ち主の名前と住所が出てくる。電話番号は出てこないから、廃墟の住所宛てに、手紙を送る。

「ただ、それでもほとんどの場合は返信がないです。返信の確率はかなり低いです。返信をいただけた場合は、改めて交渉をして撮影をさせていただきます」


『ゾゾゾ』のディレクター・皆口大地さん(筆者撮影)

ホラーだけど、みんなが笑顔になれる番組を

交渉するのにコツはあるのだろうか?

「物件の規模に応じて撮影料を払っています。もちろん、そのお金は動画の収益から払っています。地方の収録の場合、スタッフの運賃や宿泊費も、動画の収益から払いますから、赤字とは言わなくてもあまり儲かっていないですね。

ただ自分は『みんなに見てもらって、撮影も楽しいんだから、儲からなくてもいいじゃない』ってずっと思ってますし、これは本心で、これからも変わりません。ただ、もちろんお金を払ってるのは会社ですから、落合さんはずっと渋い顔をしてますけど(笑)」


きちんと交渉し、返信があったら撮影料を支払って撮影する。地方の場合もある。どうしても、時間もお金もかかってしまう。自営業に近い、小規模な会社組織だからこそなせるチャンネルなのかもしれない。

最後にゾゾゾのこれからをお聞きした。

「なんかホラー番組を作ってる人間が言うのもちょっとおかしいんですけど、メンバーや観ていただく視聴者の人たちみんなが笑顔になれる番組として、ずっとあり続けたいなと思ってます。10年先、20年先もやっていたいなという展望もあります。たとえペースダウンしても終止符は打ちたくない。もちろん、心霊スポットが尽きたらゴールですけど、新しい心霊スポットは次々に生まれてくると思うので終われないですよね」

そう言うと、皆口さんは少年のように笑った。

☆本記事は前後編の後編です。チャンネル誕生の背景を伺った、前編の記事はこちら


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(村田 らむ : ライター、漫画家、カメラマン、イラストレーター)