009:ホラー系YouTubeチャンネル『ゾゾゾ』誕生の背景を、ディレクターの皆口大地さんに聞いた(写真:ゾゾゾ提供)

これまでにないジャンルに根を張って、長年自営で生活している人や組織を経営している人がいる。「会社員ではない」彼ら彼女らはどのように生計を立てているのか。自分で敷いたレールの上にあるマネタイズ方法が知りたい。特殊分野で自営を続けるライター・村田らむが神髄を紡ぐ連載の第111回。

「心霊スポットを食べログのように評価したい」

皆口大地さん(36)は、YouTubeチャンネル『ゾゾゾ』のディレクターだ。


『ゾゾゾ』は心霊スポット、恐怖ゾーンの探索を目的としたチャンネルだ。どの動画もとても丁寧に編集されており、昭和後期、平成初期の頃のテレビ心霊番組のような雰囲気に仕上がっている。皆口さん自身が作っている、サムネイルも非常にデザイン性が高い。

チャンネル登録者数91.5万人もすごいが、『夏の特別編2021ゾゾゾの怖い夜スペシャル!』は808万回、『犬鳴峠スペシャル』541万回と個別の動画の再生数がずば抜けて高い。出演者も、メインパーソナリティー落合陽平さん、スタッフ内田さん、山本さん、スペシャルゲストの長尾さんとバランスがよく、それぞれが高い人気を持っている。

現在は更新頻度は数カ月に1度と決して高くないが、更新されるたびにツイッターのトレンドに上がる。サブチャンネル『家賃の安い部屋』『ゾゾゾの裏面』も人気チャンネルであり、『読むゾゾゾ』『家賃の安い部屋 心霊写真BOOK』『ゾゾゾ変』など、書籍やコミックなどマルチメディアに広がるなど、圧倒的な人気を誇っている。


写真:ゾゾゾ提供

番組上ではほとんど姿が映らず、カメラマンと進行に徹している皆口さんだが、そもそもゾゾゾは皆口さんの「心霊スポットを食べログのように評価したサイトが作りたい」という個人的な発想からはじまったという。

そんな皆口さんはどのような人なのか? 生い立ちから伺った。


『ゾゾゾ』のディレクター・皆口大地さん(筆者撮影)

学生時代から「カメラマン兼ディレクター」

皆口さんは埼玉県のふじみ野市に生まれた。

【2023年8月13日17時15分追記】初出時の表記に誤認があったため、上記の通り修正しました。

「本当に小さな頃は電車の運転手になりたかったですけど、物心ついたあとは漫画家になりたかったですね。小学校の頃は腱鞘炎になるくらい毎日描いてました。

でも段々、漫画を読むことで満足できちゃって。『自分の描きたい漫画を描いてくれる人がいるなら別に自分で描かなくてもいいのでは?』と思うようになりました」

中学校に入る頃には、漫画家になるという夢は自然消滅していた。全体的な成績はあまり芳しくなかったが、国語と美術の成績だけはよかった。

その後、ホラーチャンネルを設立するくらいだから、子供の頃から怖い作品が好きだったのだろうか?

「小学1年の時にドラマ『金田一少年の事件簿』の1話目を見ました。その中で花嫁の首が切断されるんです。真っ白いウェディングドレスとシーツが真っ赤に染まる……。

そのシーンがトラウマになっちゃって、ホラーがダメになっちゃったんです。特に首が吹っ飛ぶ作品がダメで。『銀狼怪奇ファイル』の首なしライダーとかも怖くて。もういつ首なしが出てくるか分からないからそう言う怖い系はずっと避けてたんです。あんまり怖がるので、親も見せないほうがいいだろうって思うぐらいでした」

小学時代はずっとホラーを避けてきたが、中学になって「怖いもの見たさ」の気持ちがうずいてきた。

「それで中1の時にトライしたのが『ほんとにあった!呪いのビデオ』だったんです。で、これが本当に怖くて、また眠れなくなっちゃったんです(笑)。この作品は本当に怖くて、今でもちょっと怖いです」

再びホラー作品が苦手になったが、中学でできた友達はノリがよかった。

「そんなに怖いなら、みんなで見ようぜ!!」

と、皆口さんの家に集合してみんなでホラー作品を見た。

「みんなでキャーキャー言いながら見ました。やっぱりめちゃくちゃ怖かったんだけど、『もう一本見よう!!』『じゃあもう一本見よう!!』って続けて見ているうちに、いつしか観れるようになった。それからは逆に昔感じた怖さを求めて、ホラーを漁るようになりました。でも何を見てもやっぱり、あの時の怖さはなくて。今でも、ホラー映画を見る時には『子供の頃に感じていた恐怖』を確かめてみたいという気持ちがありますね」

中学時代は漫画家になる夢は自然に諦めていたが、作品を作ることは好きだったので美術部に入部していた。

また、友達がハンディカムを持っていたのでそれで撮影しビデオ作品を作るようになった。

「まだ将来のことは全然考えていなかったですね。高校は、家から最も近いという理由で選びました。高校でも授業は美術を選んで、ポスターとか作ってましたね。

高校になっても、やはりハンディカムでビデオ作品を撮ってました。DVDデッキにつないでダビングする要領で編集して、最終的にミュージックビデオみたいに仕上げていました。この頃から、自分はカメラマン兼ディレクターでしたね。みんなに指示して、橋から川に飛び込む映像を撮ったりした思い出があります。出演してくれてたのは、級友たちなんですが、ゾゾゾに出演してくれている長尾や内田も出てくれていました。彼らは、旧友です」


写真:ゾゾゾ提供

恋の告白は振られても、面接に落ちたことがない

ほぼ毎回スペシャルゲストとして登場し、いわくありげな物件の解説をする長尾さん。スタッフなのに一番の怖がりでコメディリリーフな内田さん。ふたりともゾゾゾには欠かせない人物だ。


写真:ゾゾゾ提供

「落合さんと2人で番組を始めて、番組の強度を補うなら自分が見知ってるメンバーのほうがいいだろうと思って旧友を呼びました。たまたま、長尾も内田もホラーが好きなので、『ホラー番組を始めたんだけどどう?』って声をかけたら、2人とも二つ返事でOKしてくれました」

高校卒業後、同級生は就職する人が多かった。皆口さん自身も、就職しなきゃいけないというムードをひしひし感じてはいた。

「ただ社会に出るには、自分には何もスキルがないことに気がつきました。何も持たないまま就職すると、たぶん自分に合わない仕事をしなければならなくなる。それはすごい苦手なので、将来的に路頭に迷いそうな気がしました」

『何か武器を持たなければならない』

と思った。だが、大学に進学するとやれることが広いぶん、何もせずに終わってしまいそうな気もした。悩んだ揚げ句、デザインの専門学校に通うことにした。

「家から毎日1時間くらい自転車を漕ぎ、荒川を越えて学校に通ってました。音楽を聞きながら自転車を漕ぐの好きなんで、全然苦じゃなかったですね。学校では、デッサン、ウェブデザインなどを勉強しましたけど、正直真面目に受けてなかったです。これはただただ、自分が無精者でした」


写真:筆者撮影

専門学校を卒業した後は、ウェブデザインの会社に就職することにした。

「突然ですけど、自分って恋の告白に成功したことないんですよ。自分から告白したら、100%振られるんです。それとは逆に、自分は一度も面接に落ちたことない。これは、特技と言ってもいいのかな? なので、この時も一発で目当ての会社に就職することができました」

時代的には、インターネットの環境は整ったが、まだスマートフォンは広まっていない、それくらいの時代だった。

「20歳で就職してから、遅ればせながら働きつつ一生懸命勉強しました。そんな悠長な社員を許してくれた会社には感謝しかありません。その期間に、得るものは大きかったです。現在もかなり役に立っています」

皆口さんはウェブデザイナーとしてみるみる成長していったが、会社の経営はあまり芳しくなかった。会社からは「8割くらいのデザイナーは辞めてほしい」というお達しが出た。

「直属の先輩に『俺は辞めるけど、お前は頑張れ』って言われたんですけど、『だったら自分も辞めます』みたいな感じで辞めました。で、次はどうしようかなと。同じ仕事するのはつまらないと思って、自分が今までやってきてない仕事、接客業をすることにしました」

面接で「君は友達100人いるの?」と聞かれ…

その後、音楽CDショップでの6年におよぶアルバイトを経験。次もやはりあまり経験したことがない仕事をしたいと思った。正社員募集で仕事を探すとなかなか面白い仕事が見つからなかった。

「アルバイトの方が面白いことが書いてあるんですよね。だったらアルバイトから入って正社員に上り詰めたらいいと思いました。探していると、ウェブデザインもやってるし、他にもいろいろやってる、なんだかよく分からないベンチャー企業を見つけました」


会社に行くと、皆口さん一人きりの面接だった。他の人は別日だったようだ。面接官には、ウェブデザインの仕事の経験があること、接客業の経験があることをアピールした。

面接をしていると、面接室に社長が現れた。社長と言っても、皆口さんより2〜3個上。30前後の若い社長だった。

社長は皆口さんを見ると、

「君は友達100人いるの?」

と聞いた。

皆口さんは、

「……100人はいないですね」

と答えた。

「それで社長との会話は終わり……。初めて面接落ちたかと思いました。でも受かってました。実は、その時の社長がゾゾゾの落合さんなんです」

後編に続きます)


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(村田 らむ : ライター、漫画家、カメラマン、イラストレーター)