読書感想文もさまざま。小説ではなく、ノンフィクションを題材にすることもできます(Milatas/Getty Images)

夏休みに宿題として出され、多くの子どもたちを悩ませる読書感想文。「子どもたちに、本を読む楽しさを知ってほしい」と思う反面、「自分も書くのが苦手だったな……」と思う方も少なくないのでは?

そこで東洋経済オンラインでは、プロの書評家・三宅香帆さんが小中高校生の読書感想文の課題図書を読み直し、本気で読書感想文にする企画を実施。「読書感想文のコツ」を届けつつ、「想いを文字にする楽しさ」「本を読む楽しさ」を子どもたちに知ってもらうことを目指します。

約8週間にわたってお届けする短期集中連載の第5回は『科学者18人にお尋ねします。宇宙には誰かいますか?』(佐藤勝彦監修、縣秀彦編集)を題材に、ノンフィクションの読書感想文の書き方を解説していきます。

前回お伝えした「先生に褒められない読書感想文」は、小説を題材にする際のコツをお伝えしました。が、本は小説だけではありませんね。今回は、ノンフィクションや一般書を題材として、読書感想文を書く方法をお伝えします。

先生に褒められる読書感想文、すなわち「なぜその箇所が面白いと思ったのか」を自分の経験から語る手法は、フィクションでもノンフィクションでも同様に使うことができます。しかし前回お伝えした、先生に褒められない読書感想文、つまり自分の体験を排除して感想を語ることは、ノンフィクションの感想文で使うには、少しコツが必要です。

今回は、ノンフィクションを題材に「先生に褒められない読書感想文」を書く方法をお伝えしましょう。

題材は『科学者18人にお尋ねします。宇宙には誰かいますか?』

さて、今回扱う本は『科学者18人にお尋ねします。宇宙には誰かいますか?』(佐藤勝彦監修、縣秀彦編集)です。

題材は、宇宙人――「地球外生命」です。生物学や物理学など、さまざまなジャンルの研究者に、「宇宙に生命はいるのか」という謎を中心にヒアリングしていく本。


宇宙人について研究者に聞く、という構成も面白いですし、なにより読みやすい! 理系分野に興味のある中高生なら読むことができる本ではないでしょうか。

しかし、本書について読書感想文を書くことにしたら……。

別に話の盛り上がりがあるわけでもないですし、前回お伝えしたような「対立」がしっかり分かるわけでもない。どういうふうに読書感想文を書けばいいのでしょうか?

一番簡単なのは、第1・2回でお伝えしたように、自分がなぜこの本に興味を持ったのか? を深掘りする手法です。

自分の経験や普段の疑問を綴りながら、本書の面白かった箇所を書けば、最も簡単に読書感想文が書けますし、先生からもマルをもらえることでしょう。

が、もしそれ以外の書き方をしたくなった場合。少し応用編にはなりますが、秘儀を教えましょう。

ノンフィクションについて書く時の裏技。それは、「この本が、なぜこのような書き方になっているのか」を語ることです。

なぜこのような書き方になっているのか。つまり、本の「構成」に目を向ける、ということです。

ノンフィクションの「語り方」に着目してみる

ノンフィクションというジャンルには、必ず「語り方」があります。たとえば何かの事件のルポタージュだとすれば、「なぜこの本をこのタイミングで出版したのか?」「どうしてこの人の話から始まっているのか?」「なぜこの点については深く聴いていないのか?」など、内容を効果的に語るための構成が存在します。

あるいは理系の研究内容を学生さん向けに伝える入門書。絶対に、作者が工夫している点があるはずです。

「なぜこの魚の話から始まっているのか?」

「ここだけ作者の体験談が入っているのはなぜなのか?」

「タイトルがこれになっているのはどういう意図だろう?」

そういうふうに、本の「構成」そのものに注目してみるのです。そして何か「ここは普通の本と違うな、面白いな」と思った点があれば、そこについて、どうして自分は他の本と違うと感じたのか、その意図はどこにあるのか、書いてみるのです。

いささかトリッキーではありますが、思いのほかノンフィクションや入門書というジャンルには、このような形式が使えます。

本書の「構造的な面白さ」とは?

具体例を挙げましょう。

まずは、『科学者18人にお尋ねします。宇宙には誰かいますか?』の「構成」で、他の本と違う、面白い箇所を考えてみます。それはほかでもない、「18人の説をそれぞれ均等に並べていること」でしょう。

本書の構成は、まったく同じ7つの質問を、18人のさまざまな分野の研究者に問う、というものになっています。18人の研究者は、自分の分野に照らし合わせながら、それぞれの質問に答えます。質問内容は「生命の定義」について、独自の見解をおしえてください」だとか「どうすれば地球外“知的”生命体を発見できるのでしょう?」だとか、宇宙人に関するものになっています。

同じ質問を、18人もの研究者に問うこと。なぜ作者はこのような構成にしたのでしょうか? 

ただ「宇宙には誰がいますか」という問いの答えを知りたいだけなら、有名な研究者一人に、この7つの質問をぶつけてみてもよかったはずです。そしてじっくり答えてもらった内容を、一冊の本にしても良かった。でもそうしなかった。わざわざ18人もの、多様な分野の研究者に問うたのです。
この「構成」の意図は、どこにあるのでしょう?

ここから先は私の考えですが、本書はおそらく、学問のアプローチそのものを提示してみせているのです。私が本書を読んで面白いなと感じたのは、回答のなかで、「知的生命体」の定義すらバラバラであったことです。「宇宙には誰がいますか」という同じ問いを解こうとしても、こうも研究者によってスタンスが異なる! それこそが本書の提示している、学問の多様さそのものなのです。

……というふうに、「構成」に着目してみると、思いのほか、その本が伝えたかった「テーマ」に行き着きます。

これはまさに、小説における「対立」の構造と同じです。小説の場合は「対立」を考えることでテーマを導き出す、という構造でしたが。ノンフィクションの場合は、「構成」を考えることで、テーマが分かるようになるのです。

『科学者18人にお尋ねします。宇宙には誰かいますか?』概要
生物学、化学、物理学、生命科学、天文学…各分野のトップランナーが集結。最新成果をもとに、究極の謎に出した答えとは―。科学者自筆の宇宙人イラストも収録!(公式サイトより)

この本が、「●●という構成」を取っているのは「●●というテーマ」を伝えたかったからだ。それさえ書けたら、ノンフィクションもまた読書感想文を書くことが可能になるのです!

読書感想文が「作者の意図を読み取る」練習になる

「構成」から「テーマ」を導き出す。なんだか斜に構えた読み方に思えるかもしれませんが……それは作者の意図を深く読み取る行為そのものだと私は思っています。

読解力を身につけるためには、国語の授業を受けて、先生の話をしっかり聞いて……とイメージしがちですが、もちろんそういった行動も大切である一方で、自分の頭で書籍を主体的に読み解こうとすることも、有意義な訓練になります。

本の楽しみ方は決してひとつではありません。さまざまな楽しみ方があるのです。研究が多様であるように、読書もまた多様です。だとすれば、読書感想文も、多様なものであってほしい。私はそんなふうに考えて、今回のような方法もお伝えしてみました。

大人の方も、ぜひ「本の構成」から「本のテーマ」を導き出す方法、頭の体操に使ってみてくださいね。案外、新しい読書体験ができるかもしれませんよ!

(三宅 香帆 : 文筆家)