半導体不足がおおむね解消し、トヨタの足元の生産台数は過去最高水準が続く。新車の競争力も高く販売も絶好調だ。8月2日に発表した新型「ランドクルーザー」も大人気(写真:トヨタ自動車)

まさに力強さを見せつける決算だった。

トヨタ自動車は8月1日、2024年3月期第1四半期(4〜6月)決算を発表した。営業収益は前年同期比24.2%増の10兆5468億円、営業利益は同93.7%増の1兆1209億円だった。

トヨタとして四半期営業収益が10兆円を突破するのも、日本の製造業で四半期営業利益が1兆円を超えたのも初めてのことだ。

半導体不足払拭で生産・販売とも大きく伸長

原材料高などはあったものの、円安効果に加えて、前期まで苦しんでいた半導体不足などによる生産停滞が改善。トヨタ・レクサスブランドのグローバル生産台数は、3月(89万9684台)、4月(78万7800台)、5月(84万7000台)、直近の6月(91万4352台)と、各月とも過去最高が続いている。

あるトヨタ系部品メーカーの幹部は「日系の中でもトヨタの生産回復の早さは群を抜いている」と舌を巻く。4〜6月の販売台数で見ても、日本は32%増、欧州、アジアは15.5%増、北米も7.4%増と絶好調だった。

トヨタの担当者は「各地域でお客様の求める商品を提供し、損益分岐点を下げてきた。また、半導体供給不足の中で、いかに新車を届けるのか、必死に取り組んできた成果がこの結果につながった」と胸を張る。

大幅な営業増益となった背景として大きかった取り組みの一つが販売面での施策だ。

欧州や北米を中心に、車種改良に合わせて新車価格を引き上げたことで採算が向上。さらに、高級車ブランド「レクサス」や、トヨタブランドの「クラウン」、北米専用車種であるピックアップトラックといった好採算車種の構成比率が高まったことも寄与した。得意のハイブリッド車(HV)は前年同期比26.1%増と大幅に伸びたうえ、長年の「カイゼン」により生産コストも下がっている。

結果、営業利益率は10.6%に上昇。単純比較はできないが、2桁の営業利益率を連発して高収益で業界の話題をさらっていたアメリカのEV(電気自動車)専業メーカー・テスラ(2023年4〜6月期の営業利益率9.6%)を上回ったことになる。テスラが各国で値下げによって収益性を低下させたのとは対照的な結果と言える。

ただ、「まだ3カ月の結果であって、何も見えてきていない」(トヨタ担当者)として、期初に示した営業収益38兆円、営業利益3兆円という通期業績見通しを据え置いた。

絶好調の足元で唯一の悩みのタネとなりそうなのが中国事業だ。

トヨタの第1四半期の中国事業はトヨタ・レクサスの販売台数が前期比8.6%増の49.9万台。他の日系メーカーが販売台数を減らす中で健闘しているものの、中国事業における連結子会社の営業利益は前年同期比25.7%減、持分法適用会社の投資利益は同31.9%減となった。トヨタは「激しい価格競争により販売費が増えたため」と説明する。

中国市場は現在、消費の冷え込みや新エネルギー車(NEV)と区分されるEVやプラグインハイブリッド車(PHV)との販売競争が熾烈になっており、値下げ合戦の様相を呈している。あるトヨタ幹部は「いまは台数を稼ぐために我慢比べをしている状況。われわれを含めた日本勢だけでなく、ドイツ勢も販売は厳しい」と指摘する。

1000人のリストラ、電動化では体制増強

トヨタはすでに対策を打ち始めている。トヨタ中国法人は7月、中国の地場大手・広州汽車との合弁会社である広汽トヨタで約1000人の従業員について、期間満了前に契約を終了したことを明らかにした。広汽トヨタ全体の約5%の規模にあたり、対象者には資金的な支援も行うという。


中国でのR&D拠点を再編し、電動化・知能化領域の現地開発を強化(写真:トヨタ自動車)

さらに、中国での電動化・知能化領域の現地開発を強化するため、中国最大のR&D拠点である「トヨタ自動車研究開発センター」の社名を「トヨタ知能電動車研究開発センター(IEM by TOYOTA)」に変更。第一汽車や広州汽車、BYDの合弁会社の人材をIEMの開発プロジェクトに投入するほか、現地での電動パワートレイン開発にはデンソーやアイシンといったグループの人材も参画させる。

部品設計や生産技術といった新車生産の基礎となる領域でのコスト削減にも着手し、「競争力のある商品をスピーディーに開発、提供することにチャレンジしていく」(上田達郎中国本部長)。こうした構造改革でどこまで巻き返せるかが、下期の中国市場を左右しそうだ。

さらに、中長期では北米での環境対応もリスクとなる。

アメリカでは環境保護庁(EPA)が4月に温室効果ガスの排出規制の基準値案を公表した。規制では2032年に2026年比でCO₂排出量を6割弱減らさなければならず、そのためにはEV販売の拡大が不可欠。達成できない場合、規制を超過したCO₂排出量1トンに対して、一定のクレジットを追加で購入する必要がある。

5年間で5000億円のクレジットコスト

ナカニシ自動車産業リサーチの中西孝樹代表アナリストは、トヨタは現状、EVの供給能力が限られているとした上で、「このままではトヨタは相当大きな規制対応コストを支払うことになりかねない」と指摘する。

中西氏の試算によると、CO₂排出量1トンに対して40ドルのクレジットを購入する必要があると仮定した場合、トヨタは2026〜2030年にかけて累積6500万トンに上る温室効果ガスの不足クレジットが発生する見通しで、5年間で5000億円のクレジットコストがかかることになるという。

トヨタの4〜6月のグローバルでのEV販売は2万9000台。今後は分厚い利益をEVやソフトウェアといった次世代領域に投資するとともに、主力市場に合わせたきめ細かい戦略を展開することが求められる。


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(横山 隼也 : 東洋経済 記者)