取材時に夫婦のどちらかが60歳を越えていたカップルのリアルを追いました(写真:IYO / PIXTA)

35歳以上で結婚した「晩婚さん」のリアルを知りたい。その喜びと哀しみを分かち合いたい――。

そんな想いで始めた本連載も今月で9周年を迎えた。取材したカップルは240組超。その後が気になる取材先は少なくないが、今回は「取材時に夫婦どちらかが60歳を超えていたカップル」を再び訪ねたい。夫婦仲だけでなく健康か否かが気になる年代だからだ。

幸いなことに、該当する6組のすべてから「なんとかやっています」との返信をもらった。オンラインでの再取材にも快諾。元気でサービス精神が旺盛なので「超晩婚」ができるのか、それとも晩婚生活が楽しいから心身の健康を維持できるのだろうか。1組ずつ話を聞いていく。

20歳の「年の差夫婦」のその後

まずは約6年前、2017年5月に登場してくれた大橋邦子さん(仮名、46歳)と康夫さん(仮名、66歳)の年の差夫婦。ホステスと常連客として出会い、結婚した2人だ。連絡をとると、康夫さんも含めてZoom取材に応じてくれるという。


邦子さんと康夫さんが登場してくれた過去記事(イラスト:堀江篤史)

「5月末に私の母が病気で倒れ、その1週間後には父が倒れて別の病院に入院。一緒に暮らしている弟に任せるのは不安なので、私が大阪の実家に戻ってお世話をしていました。

主人も九州から手伝いに来てくれましたが、しばらく一人暮らしをしているうちに肺炎にかかってしまったらしくげっそり痩せてしまいました。6年前に恐れていた3人を同時に介護する状況にまさに直面しています!」

ちょうど旅行先の大分県にいて、旅館での夕食前だという邦子さん。嘆きながらも、明るいエネルギーを発しているのは以前と変わらない。その後ろには浴衣姿の康夫さんが座っている。快気祝いとして、邦子さんの両親を招待しての温泉旅行をしているらしい。邦子さんは全員を画面に写して紹介してくれた。

会話も仕切りも上手な邦子さんに任せていると彼女の面白い話で終わってしまいそうだ。今回は康夫さんにバトンタッチしてもらおう。康夫さん、20歳の年の差婚はいかがですか。義理のお父さんとの年齢差は2歳しかないと聞きましたが……。

「それは結果でしかありませんし、邦子の父親よりも見た目では私のほうが老けてます(笑)。私は敬語を使って『おとやん、おかやん』と呼ばせてもらっていますし、あちらからは当然ながらタメ口です。私はちゃん付けで呼んでもらっています」

「介護生活に備えて体力をつけておかなければ」

運送会社の役員を長く務めていた康夫さん。今年6月に顧問も退任し、悠々自適な日々を送っている。邦子さんが大阪の実家に戻っていたときは、「朝3時に目が覚めて缶チューハイ。9時にまた起きて缶チューハイ」な生活だったらしい。体調を壊すのも当然だ。ちなみに2人とも喫煙者である。

「健康に気遣って寿命が2年延びるぐらいなら、好きなことをして2年縮まったほうがいいです」

康夫さんはちょっと斜に構えたところはあるけれど、人の良さのようなものがにじみ出ている。邦子さんとの出会いがそうだったように、酒場で人気者になるタイプのおじさんだ。

「夫婦喧嘩はしょっちゅうですが、気の強い嫁ですからね。論理的に説明しても、感情的に説教しても通じません。(康夫さんが正しいという)証拠を目の前に突きつけると、黙ってそっぽを向く(笑)。『ごめんなさい』とは言わない人です」

きっと康夫さんに甘えているのだろう。実際、康夫さんは毎年の記念日には邦子さんに宝石を贈り、結婚10周年を迎える今年は1カラットのダイヤモンドを奮発してくれたという。たまらずに邦子さんがしゃべり始めた。

「主人は『釣った魚にもエサをやる』タイプ。嬉しいです……。子どもができればいいなと思っていましたが、この年齢ではもう難しそうなので、2人でゆっくりと暮らしていけたらと思っています」

介護生活に備えて体力をつけておかなければ、と笑う邦子さん。最愛の夫と両親に囲まれた温泉旅行を楽しんでほしい。

歳の差32歳の夫婦の場合

同じく年の差婚でも、大橋夫妻とはまったく異なる状況にあるのが、関西在住のミュージシャンである中野和彦さん(仮名、69歳)と亜紀さん(仮名、37歳)だ。こちらは年の差32歳、出会って4日で結婚することになった夫婦だ。


和彦さんと亜紀さんが登場してくれた過去記事(イラスト:堀江篤史)

和彦さんには前妻との間に娘がいるが、「あと1人は欲しい。子どもを育てながら逆に学びたい」という想いが強かった。30歳以上年下の亜紀さんと結ばれ、子どもを授かり、現在は子育ての真っ最中である。

「今度も女の子です。1歳まではものすごく大人しくていい子だったのですが、今では可愛い暴れん坊。モノを投げたりするんです……。妻の祖母の葬式があって、その次女は妻と一緒にしばらく不在にしています。私は自宅で20歳の長女と2人暮らし。仲は悪くありません。それぞれ自由に暮らしています」

亜紀さんとも一度もケンカしたことがないという和彦さん。念願の第2子にも恵まれて幸せの絶頂だった昨年、咳が止まらなくなってしまった。

「PCR検査ではコロナ陰性で、レントゲンを撮ってもらったら肺がんだと診断されました。手術で肺を切除することを勧められましたが、私は嫌です。ヨモギなどを使った食事療法で治しました。医者は『肺がんでなく肺炎だったのかもしれないけれど、肺を取れば肺炎にもならない』と言っています。それ以来、病院には行っていません」

わけのわからない話だが、和彦さんが尋常ではない生命力と個性の持ち主だということはわかる。しかし、肺がんを告知されたときは死を覚悟し、亜紀さんにこんな別れを告げた。

「人生の最後の5年間。あなたと結婚できて子どもの顔も見られて最高に幸せだった」

亜紀さんは泣き崩れてしまったが、長女は「死ぬんじゃないぞ!」と激励してくれた。和彦さんの力強い血を引き継いでいるのかもしれない。

「高校を卒業してからはコンビニでアルバイトをしながら作曲をしたり絵を描いたりしているようです。芸術家を目指すならば大学に行っても何の役にも立たないので、彼女の好きなことを追求すればいい、と僕は思っています。自分の芸術を追求するほど大変なことはないからです」

芸術とは自分との戦いだという信念がある和彦さん。同じ分野のミュージシャンである亜紀さんにも、師匠につくのではなく自分で孤独に練習することを勧めている。

「コンクールに出て1位になるとか、芸術家はそういうことじゃないんです。自分の才能を信じて励み、まずは自分を感動させられるような演奏をしなければなりません」

独自の芸術家論を熱弁するほど健康を取り戻した和彦さん。自分の音楽を完成させつつ、若い頃に回ったように海外にも出ていくことを構想中だ。

「東ヨーロッパの音楽が面白いので、一緒に何かやりたいです。歳をとるにしたがって、道がどんどん広がっています。自宅を開放してのコンサートもやっていますので、ぜひ遊びにお越しください」

夫が定年、妻は現役バリバリのご夫婦

都内のマンションで2人暮らしをしている高柳大輔さん(仮名、62歳)と美紀さん(仮名、53歳)の年齢差は9歳ほど。大した年の差とは言えないが、大輔さんは新卒入社の大企業で定年を迎え、延長雇用の3年目。出勤は週4日だ。大輔さんが家事の大半を引き受け、外資系企業のマネージャーとしてバリバリの現役である美紀さんを支えている。定年後と現役の違いはやはり大きい。


大輔さんと美紀さんが登場してくれた過去記事(イラスト:堀江篤史)

「去年の秋に取材してもらってからの変化ですか? 料理も掃除もバリエーションが増えたことですかね。共用部分である外階段の掃除まで僕がやっています(笑)。あと、弓道を始めました。この歳になって殴り合うような武道は無理ですが、所作も美しい弓道は楽しいです」

家事も一人遊びもできる大輔さんの愛情に包まれ、美紀さんは安心を得られている。その一方で、「独身のままでも楽しく暮らせる人もいる。それぞれだ」という信条は揺るがない。美紀さんは自分の肉親との折り合いが悪く、かつての結婚相手や交際相手からはモラハラを受けた過去もあるからだろう。

「でも、長く飼っていた愛犬が死んでしまったときは、1人じゃなくて本当に良かったと思いました。私には主人という味方がいてくれるんだな、と」

大輔さんの母親は千葉県で1人暮らしをしており、2人はできるだけ頻繁に通ってお世話をしている。美紀さんは義務感からではないようだ。

人生の終盤にいることを実感すると優しくなれる

「90歳になる義母はとてもいい人なんです。精神的に常に安定していて、近くにいて安心感があります。デイケア施設でも人気者で、みんなが義母のところに来ておしゃべりをしています。私もおしゃべりにしに行くだけですが、受け入れてくれていることがとにかくありがたいです。できるだけのことをしてあげたい、という気持ちになります」

実の親よりも結婚相手の親のほうに親しみを持てたりすることもあるのは、結婚の面白さの一つだと言えるかもしれない。初婚である大輔さんのほうは「人と一緒に暮らすことは想像もしていなかった」と言いつつ、気の合う異性と暮らす楽しさを味わい続ける毎日だ。


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「独身時代もそうでしたが、自分と同じような環境にいる人は必ずいて、そういう人との付き合いが多くなります。今は、子どもがいない夫婦同士で仲良くなったりしていますから。自分は勝ち組だなんてまったく思いませんが、居場所を知らせ合って気遣い合える関係性はいいなと感じています」(大輔さん)

ここまで3組の年の差カップルのその後について取り上げた。夫婦喧嘩が少ない、もしくは喧嘩が成り立たない、という印象だ。年下が年上に甘えている面もあるが、それ以上に人生のステージが異なるのでぶつかりにくく、年上が年下のサポート役に回れることが大きい、と感じた。人生の終盤にいることを実感すると、「後輩」に優しくなれるのかもしれない。

この記事の後編ではほぼ同世代との超晩婚を果たした3組を取り上げていく。

本連載に登場してくださる、ご夫婦のうちどちらかが35歳以上で結婚した「晩婚さん」を募集しております(ご結婚5年目ぐらいまで)。事実婚や同性婚の方も歓迎いたします。お申込みはこちらのフォームよりお願いします。

(大宮 冬洋 : ライター)