有料会員サービス「Amazonプライム」の会費が改定。それでも海外よりも安い?(写真:David Paul Morris/Bloomberg)

10日、アマゾンジャパンが有料会員サービス「Amazonプライム」の会費を8月24日から改定することを発表しました。年額4900円が5900円になりますが、それでも海外と比較するとまだまだ安いとの声も出ています。実際、どうなのでしょうか。

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「円換算で、5兆2835億円? 嘘でしょ、それ」

思わず声が漏れた。実はこれ、先日に発表されたAmazon.com決算の広告収入だ。

 2022 年第 1 四半期:7,877百万ドル
 2022 年第 2 四半期:8,757百万ドル
 2022 年第 3 四半期:9,548百万ドル
 2022 年第 4 四半期:11,557百万ドル

四半期ごとに並べたのは、伸び率が凄まじいと伝えたかったからだ。Amazonのサイトではよく「スポンサー」と書かれた商品が紹介される。また企業広告を見るケースが増えた。これら広告収入だ。こんな大規模になっていたのだ。

なお、日本の広告代理店と比べてみよう。電通の2022年12月期の決算短信によると総収益は約1兆2439億円。これは電通の連結決算だから広告事業以外の収益も含まれており、広告業としては約1兆1357億円となっている。

ちなみに、広告業は国際会計基準を使うか日本基準を使うかで単純比較ができない。とはいえ、このAmazonの広告収入は大きい。Amazonは広告業としても巨大な存在になっている。

Amazon全体を因数分解していくと…

そして、上記の広告収入を含めて、Amazon収益全体を因数分解すると次のとおりだ。

【北米事業】
・純売上高:315,880百万ドル≒44兆2232億円
・営業利益(あるいは営業損失):▲2,847百万ドル≒▲3986億円
【グローバル(北米外)】
・純売上高:118,007百万ドル≒16兆5210億円
・営業利益(あるいは営業損失):▲7,746百万ドル≒▲1兆844億円
【AWS】
・純売上高:80,096百万ドル≒11兆2134億円
・営業利益(あるいは営業損失):22,841百万ドル≒3兆1980億円

(以下、すべて1ドル=140円として計算)

ここで把握しておきたい点として次をあげたい。

Amazonはグローバルのイメージがあるが大半は北米事業によって成立している

・広告収入が伸びているのを見たが、トータルでは営業損失になっている(広告収入がなかったらどうなるか考えてみればいい)

・グローバル事業も同じく営業損失

・AWSの営業利益を全体に補填している

Amazonプライムの値上げ


出所:Amazon決算資料

このうえでの、先日に発表されたAmazonプライムの値上げを見ていきたい。

前提を理解したうえで、プライム会員値上げを見ると…

アマゾンジャパンは同サービスを値上げすると発表した。新規会員の場合は8月24日からで、年額4900円が5900円に。年会費が改定前と比べて1000円アップとなる。月度払いの場合は500円が600円と100円のアップだ。既存会員は来月からの適用となる。

4年ぶりの値上げだ。とはいえ、年間費を月度に換算すると80円のみ、といえなくはない。それでも安いと見るか、高いと見るか。各メディアもこぞって取り上げ、賛否両論が相次いだ。ただ、著者の感覚では同情的な声が多かったように思う。

4900円が4年で5900円だから、厳密な計算ではないものの年率で4.75%だ(4900×1.0475×1.0475×1.0475×1.0475≒5900)。海外のインフレ率に比べると、さほどではない。

実際にアメリカでの同年会費は139ドル≒19460円だし、イギリスでは95ポンド≒17440円なので、まだまだ日本の価格は相当に低い水準にある。

よくアメリカは国土が広いので物流費がかさむためプライム会員費も膨らむ、という人がいる。しかし、イギリスも日本よりはるかに高水準だ。

むしろ、日本の物流業者の細やかさを考えると、もっと高い金額が妥当なのかもしれない。というのは、Amazonプライム会員でよく買い物をする人であれば、この5900円は年間の物流費相当分より安くなるケースも多いと想像できるからだ。

配送の維持とAmazonプライムの値上げ

昨今では資材を含むコスト増が各社の負担だ。さらに燃料費の増大がある。なにより全体的な人手不足が続く。とくに、この人手不足は物流の業界では最大問題だ。

Amazon値上げの発表とともに「今回の価格変更後も、プライム関連プログラムの充実、デジタルコンテンツのセレクション拡大、配送スピードの向上、そしてよりご満足いただけるプライム会員限定セールの提供を目指します」としている。

実際にAmazonジャパンは日本全国11カ所に配送拠点を新設すると先月に発表したばかりだ。同社は発表にコメントしていないが、物流の2024年問題が影響しているのは間違いないだろう。配送ドライバーの労働時間が制限され、配送がいっそう難しくなる。ドライバーの人材確保も課題だ。そして、なにより解決にはコストがかかる。


実際にAmazonジャパンは先の配送拠点拡大のプレスリリースに「自由な働き方のできるAmazon Flex ドライバーを含む、さまざまな働く機会を全国で新たに3,500以上創出する予定」「デリバリーステーションでは、さまざまな経験、性別、年齢、国籍、文化的な背景をお持ちの方々に、多様な働く機会を提供しています。職種は、拠点の安全衛生管理、ステーションマネージャー、シフトアシスタント、Amazon Flexドライバーなど多岐に渡り、互いに協力しながらお客様に商品をお届けしていきます」とも加えた。

また同社は昨年末に“Amazon Hubデリバリー”を発表しているが、これは写真館、新聞配達店、居酒屋、花屋、犬のブリーダーなどの中小企業がパートナーとしてスキマ時間に配送の副業を受託するものだ。配送の維持は喫緊のテーマだ。

話をまとめる。

Amazonは世界全体では広告収入が好調だが、しかしそれでも北米・北米以外のグローバルでは営業損失になっている。現在ではAWSが補填している状況だ。グローバル各拠点では体質の強化が求められる。日本では、物価高騰、人手不足とくに物流領域での困難が続く。そこでAmazonプライムの年会費が値上げされた。

私はそれでもまだ安価だと感じるが、けっきょくは日本の消費者が受け入れるかどうかだ。楽天は言うまでもなく、現在ではヨドバシ・ドット・コムをはじめとしてさまざまな競争相手がひしめいている。すべての手を使って物流を維持せねばならない。消費者にとってプライム=贔屓、にし続けてもらえるかどうか。Amazonのサービス維持・向上に期待したい。

(坂口 孝則 : 調達・購買業務コンサルタント、講演家)