自然災害による停電、断水からペットを守る方法を紹介します(写真:mon/PIXTA)

地震をはじめ、台風や豪雨の被害も増加しつつある近年。それらの自然災害に備え、愛犬・愛猫を守るために必要な準備をし、しっかりとした心構えを持つことは飼い主の責務です。

犬や猫も人と一緒

特に今年のような暑い時期の停電・断水では、命を落とす危険性もあります。8月初旬にもゆっくりと進んだ台風6号の影響で、沖縄本島では停電が長引き、追い打ちをかけるように大規模な断水が起こりました。

停電・断水になれば、人も犬も猫も空調のない中で過ごすことになります。夜は暗闇の中で過ごし、また水の確保のために給水所の長蛇の列に並ばなければなりません。

それが暑い時期であればさらに過酷な状況に陥り、体調不良になる人が続出します。それは犬や猫も同様です。年々暑さが増すなかでの停電・断水にどう対応するか、通常の備えにプラスして備えておく必要があります。

人と違って犬や猫には汗腺がないので、体温調節が難しいという体質があります。

暑い中で運動をしたとき、気温や湿度が高い部屋で空調なしに過ごしたときなど、人以上に熱中症を発症しやすいのです。暑い時期に停電になれば、一気に発症する確率が増します。

下記のような症状が見られたら熱中症の可能性を疑い、適切な処置を速やかに行う必要があります。

熱中症が疑われる症状

□ 口を開けて「ハアハア」と激しく呼吸(バンディング)をしている
□ 舌や口の中の色が異常に赤い
□ よだれが大量に出る
□ 耳や足先が非常に熱い
□ ボーッとしている
□ 食欲がない
□ ぐったりしている
□ 嘔吐する、吐くようなしぐさをする

熱中症の処置は「体温を下げること」「水分を補給すること」が大切で、この2つを同時に行います。

通常であれば涼しい部屋(20〜25℃)で安静にさせ、扇風機で風を送るなどします。また、脇の下、股の内側、首などに、タオルを巻いた保冷剤などで冷やします(適度に冷やす)。また、水分補給のために水を飲ませます(無理に飲ませない)。

しかし、そのような処置をしても回復せず、ぐったりして水分も摂らない場合には命に関わる危険があるため、早急に動物病院を受診することが重要です。

停電・断水時の熱中症を防ぐには

しかしながら、停電時に何の備えもなく、前述したような熱中症の適切な対応をすることは至難の業です。そのため、まずは人も犬も猫も熱中症にならないように、停電・断水に備えた準備をしておくことが大切です。

暑い時期の犬や猫との同行避難は、熱中症の危険が伴います。自宅が安全であれば、停電・断水していたとしても自宅避難を優先的に考えたほうがよいでしょう。

停電時に暑さを乗り切るには、「窓を開け、日陰で風通しの良い場所で、なるべく動かずに過ごす」とされています。しかし猛暑日が増加している近年は、それだけではなかなか暑さをしのげません。

扇風機や冷風機だけでも動かすことができれば、格段に熱中症を防ぐことができるでしょう。そのためには電源を確保するポータブルバッテリー、発電機や蓄電システム、ソーラー発電システムなどの用意が必須です。

ポータブルバッテリーとは、電源がない場所で家電などに電気を供給するため、本体に内蔵されているバッテリーにあらかじめ電気を蓄えておく可搬型の蓄電池のことです。電源の出力はUSBだけでなく、自宅のコンセントと同じAC出力、シガーソケットなどがあり、機種によっては同時に複数の電気機器を充電することが可能です。

場所を選ばず、いつでも使用可能なので、近年では防災用の備えとしても注目が高まっています。保有しておくことをお勧めしたい1台です。

充電容量は機種により小容量から大容量までと充実しています。小容量でも扇風機や冷風機を稼働させられるものが多くあり、安いものなら10000円程度から購入可能です。

冷風機は水が蒸発するときの気化熱を利用し、冷たい風を発生させる機器です。空気がひんやり冷たくなるので、夏の暑さ対策として注目されています。充電式も販売されていて、ポータブルバッテリーと合わせて使用すれば、より長時間稼働させることができます。

また発電機とは、燃料を使ってエンジンを稼働させ、装置内のコイルや磁石を回転させることで電気を得る装置のことです。使用する燃料は軽油、ガソリン、カセットボンベなどのガスになります。屋外に設置し、延長コードを自宅内まで引いて、家電などに接続します。

しかし、稼働音が大きいことから、住宅が密集しているところでは夜間の使用は難しい場合もあります。また、使用後には燃料を抜き取らなければいけないので、メンテナンスに手間がかかります。

防災の用途で用意する場合には、燃料漏れがなく安全であること、長期保管ができること、メンテナンスが簡単なことから、カセットガス発電機を選択する人が多いようです。

電気自動車を電源に利用

そして、停電時でも電気が使える蓄電システム、ソーラー発電システムを導入することも選択肢の1つです。ある程度の費用はかかりますが、安心は担保できます。

最近では、V2H(Vehicle to Home)という電気自動車(EV)に備えられた電気を家庭で利用するシステムが注目されています。停電が起きた場合に、電気自動車のバッテリーに貯めている電気を使用できるので、非常用給電システムとしても注目されています。

停電では水道施設に必要な電力が供給されなくなるので、送水できず断水となります。地震や豪雨で水道管などの破損が生じた場合にも断水します。断水すれば、「洗面や入浴ができない」「トイレが使えない」「調理ができない」など日常生活が著しく制限されることになります。

犬や猫にとっても「ペット用品を洗えない」「食器を洗えない」などの制限が生じます。

人も犬も猫も、断水が数日間に及べば、衛生に関する深刻な問題やストレスの助長、体調の悪化などが生じます。そして、何よりも飲料水を確保できなければ、生命の危険にさらされることになります。

断水した場合は緊急で給水所が設置されますが、水を求める人で長蛇の列ができます。給水車の数が限られていること、誰もができるだけ多くの水を持ち帰ろうと複数の容器を抱えて並んでいることから、なかなか順番が回ってこないのが実情です。

徒歩を強いられる場合もあり、給水所からの水の調達は予想を超えた労力が必要なのです。また、断水は数日から数カ月続く可能性もあるので、最悪を想定しての備えが大切です。

断水に備える方法は、飲料用として備蓄水を用意する、ポリタンクを用意し水を貯めておく(直射日光に当てなければ、水道水は塩素の消毒効果で汲み置いてから3日間は飲料用に使用できる)、ウォーターサーバーを設置しておく、などです。

厚生労働省によると、成人が1日に必要とする水分量は2.5リットル(年齢や体重で異なる)とされています。犬や猫が必要とする水分量は体重1kg当たり50ミリリットルです。例えば、「人+5キロの犬」に必要な水分量は、2.75リットルになります。

そして飲料用水とは別に、生活用水として常に浴槽やバケツに水を貯めておくことを習慣にするといいでしょう。断水が長引くことも視野に入れて、7日間以上しのげるような用意をしておくことをお勧めします。

停電・断水時に愛犬・愛猫を守る

停電・断水時に愛犬や愛猫の命を守れるのは、飼い主しかいません。猛暑の中の停電は、とにかく室温との戦いになります。前述した備えにより電源を確保して家電を使用し、こまめに水分補給をして、できるだけ涼しく過ごせるように下記のような工夫をしてあげましょう。

涼しく過ごせる工夫
□ 窓を2カ所以上開けて、風が通るようにする(防犯対策も忘れずに)
□ 水はいつでも飲めるように複数個所に置く
□ 日の当たる窓はカーテン、シェードなどを閉めて室内温度の上昇を防ぐ
□ 玄関、浴室などタイルがある冷たい場所に移動させる
□ 冷却用の服やマットを常備して使用する
□ 濡れたタオルやバスタオルで、耳、足の付け根、首を冷やして体温上昇を防ぐ
□ 凍らせたペットボトル、保冷剤(割って使う使い捨て保冷剤もある)を常備して、タオルを巻いて脇や股を冷やして体温上昇を防ぐ
□ 車がある場合は車のエアコンをかけて車内にいさせる
□ 停電・断水をしていない家族や知人、あるいはペットホテルに預ける

ことわざの「備えあれば憂いなし」は、「いざというときに備えて、あらかじめ準備をしておけば、事が起こっても心配することはない」という意味です。愛犬・愛猫を守るために、どう備えるか。自然災害を身近にとらえて、考えてみることが大切です。

(阪根 美果 : ペットジャーナリスト)