ウィスコンシン州ミルウォーキーで開催されたハーレーダビッドソンの「ホームカミング・フェスティバル」に来場した人々(写真:Getty Images for Harley-Davidson)

4日間に7万3000台のハーレーと13万人ものハーレー乗りが、ウィスコンシン州ミルウォーキーに集まった。

ハーレーダビッドソンの本拠地で、7月13日から開催された同社設立120周年を祝う「ホームカミング・フェスティバル」は、極東にいるわれわれには想像もつかない盛り上がりを見せていた。

期間中は新型CVOシリーズのプレス向け試乗会も行われたが、すっかりフェスティバルの熱気に当てられたので、まずはその模様からお伝えしよう。


1903年のクレジットがある写真。足漕ぎペダルが付いている(写真:Harley-Davidson)

1903年の1台の原動機付自転車が原点

120周年イベントの中心地となったのはダウンタウンにあるハーレーダビッドソン・ミュージアムだ。今から120年前、つまり1903年にハーレーダビッドソンは産声を上げた。ウイリアム・シルヴェスター・ハーレーが、ミルウォーキーで1台の原動機付自転車を完成させた。

モーターサイクルの改良に熱心だった同社の人気は、1911年のVツイン・エンジン追加で火がついて、以降は毎年のように改善を重ね、カラーリングにも工夫を凝らし、単気筒とVツインのラインナップで販路を拡大。地上速度記録やレースの世界にも参加し、名声を得ていった。

第1次世界大戦にアメリカが参戦した1917年頃には、アメリカ軍に1万5000台以上のオートバイを納入するほどの企業規模になっており、1920年には67カ国にディーラーを持つ世界最大のオートバイメーカーに成長した。

第2次世界大戦中こそ商品開発に遅れが見られたものの、その後は「エレクトラグライド」などのグランド・ツアラーや、コンパクトな「スポーツスター」を投入してバリエーションを拡大、タンクのグラフィックに現代アートを思わせる工夫を凝らすなどコスメティックにも配慮して人気を定着させていく。Vツイン・エンジンのメカニズムも着々と進化させていった。

とはいえ、いつも順風満帆だったわけではない。1960年代の終わりには販売実績の悪化から、園芸機器などさまざまな機械産業を手掛けるアメリカン・マシン・アンド・ファウンドリー(AMF)への身売りを余儀なくされたが、1981年には創業家を含む経営陣がMBOで独立経営を取り戻した。

その後、海外から優秀なグランド・ツアラーやスポーツバイクが参入してきても軸をぶらさず、伝統を守り、品質にこだわったバイクを作り続けた結果が、現在の繁栄に結びついているのだ。

街中に轟音響く120周年イベント


ミシガン湖のほとりの野外ステージでは音楽フェスも開かれた(写真:Harley-Davidson)

5年に1度開催される「ハーレーダビッドソン・ホームカミング・フェスティバル」は、毎回アメリカ全土、あるいは世界中から熱烈なハーレーファンが自らのバイクで訪れる、音楽とモーターカルチャーを軸としたイベントだ。120周年の今回はひときわ盛大だった。

初日の木曜日からさまざまなハーレー乗りがハーレーダビッドソン・ミュージアムの近くに集まってくる。ここで交流を深めつつ、ミュージアムで歴史にひたろうと言うわけだ。来場するハーレーは、グランドツーリングファミリーを中心とした、巨大なカウルとサイドバッグを持つ車がほとんどといっていい。

日本ではハーレーといえば映画『イージー・ライダー』に登場する、長大なフロントフォークを持ち風防は備えないチョッパー・スタイルのイメージが強いが、アメリカ全土から集まる生粋のファンはおそらく何台ものハーレーを所有し、その中から最もクルージングに適している車でミルウォーキーを訪れるのだろう。年式的には2000年代のものが中心になっているのではないだろうか。


いかにもハーレー乗りといったファッションの参加者も多い(写真:Getty Images for Harley-Davidson)

イベントに来る人々は、“いかにもハーレー乗り”といったいでたちが多い。ハーレーのロゴ入りジャケットにデニムのパンツ、マッチョというか貫禄のある体格の人がほとんどだ。たまに大きなハーレーを乗りこなす小柄な女性を見つけるとホッとしたほどだ。ヘルメットを装着していないライダーやパッセンジャーも少なくなく、いかにもアメリカという感じがする。


ミュージアムの庭に集結するハーレー。カスタマイズされていないバイクを見つけるのが難しいほどどれも個性的だ(写真:Harley-Davidson)

昼間のイベントはミュージアムが中心だが、夕方から夜にかけてミシガン湖沿いに仕立てられた巨大な野外ステージでロックバンドのライブを核に、飲食ブースやグッズ販売ブースなどを組み合わせた、典型的なお祭りが開催された。

午後3時くらいからミュージシャンのパフォーマンスが開始され、トリを務めるのは金曜日がグリーン・デー。土曜日はフー・ファイターズ。一流のロックバンドのパフォーマンスに多数の観客が酔いしれていた。

ちなみに、フー・ファイターズのチケットは前売りで4万5000枚を売り切ったという。こうしたマーケティングイベントは、往々にしてメーカーにとって多額の経費の持ち出しになるものが多いが、ハーレーダビッドソン・ホームカミング・フェスティバルについてはその限りではないようだ。

ハーレーダビッドソンのヨッヘン・ツァイツCEOは、今まで5年に1度だったミルウォーキーのフェスティバルを、来年から毎年実施すると明らかにした。来年は7月25日から28日に実施される。テーマは「創業者“ウイリーG”に捧げる」になる。


ハーレーのイメージカラーをバックにVツインの変遷を辿る(筆者撮影)

開発や生産の現場見学も

イベントの期間中は、ハーレーダビッドソンの開発/生産部署を見学することができた。

開発センターは、ハーレーダビッドソンのすべてのモデルに関わっている。ここでの開発が新型CVOの軽量化、エンジンやデザインのリファインに反映されている。われわれが見せられた施設では、車両の信頼性の確保のため、エグゾースト、燃料吸入の微妙な変化に伴う振動や排ガス、性能の自動的なチェックや室内での加速騒音試験などが行われていた。

いずれの施設も最新とは言いがたかったものの、この道何十年の職人がじっくりと製品の改善に打ち込んでいる姿が印象的だった。電動バイクの“Livewire”も、サイズの異なる2つのモデルが所々で試験を待っていた。

エンジンの製造工場であるパワートレーンオペレーションセンターは、開発センターより少しダウンタウンに近い場所にあり、常勤社員100人ほどとパートタイマー700人あまりが働いている。いずれもハーレーのシャツを着て、真っ黒に日焼けした腕にはタトゥーを入れている人も多かった。みなさんとてもカジュアルで見学者と区別がつかない。

マシニングセンターやヘッド回りの組み立てを中心に自動化が進んでいるが、ギアのパーツは人の手で組み合わせられるなど、マニュアルの部分もまだ多く残されている。組み上げた部分ごとにカメラやレーザーで精度チェックが実施されている。

ハーレーの空冷エンジンのなかにはボアが100mmを超えるものもあり、分解してもかなり存在感がある。ものによっては日本やドイツからここに運ばれてくる部品もあるそうだ。


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CVOロードグライド。迫力の大型カウルはフレームマウントなのでハンドリングを邪魔しない(写真:Getty Images for Harley-Davidson)

それでは、新しい「CVOストリートグライド」と「CVOロードグライド」を走らせた印象を紹介しよう。ハーレー史上最大排気量となる1977cc空冷Vツインは、水冷のシリンダーヘッドを持ちVVT(可変バルブタイミング)を備える。ミシガン湖沿いのハイウェイやワインディングロードを200kmほど走ることができた。

ストリートグライドとロードグライドの間に、コーナリングにおける際立った違いはないと感じた。ハンドル位置と形状の違いもあり、ストリートグライドは市街地などでより軽快な感じを受けるものの、いずれも、車両のサイズなりに丁寧に扱えばスムーズに駆け抜けることができる。

市街地から高速道路に至るまで、両車とも乗り心地に硬さを感じる機会は1度もなかった。グランド・アメリカン・ツーリングにふさわしい快適性だ。

ロードグライドとストリートグライドの違い

クルーズコントロールは、このクルーザーにこそふさわしい便利な機能だ。スイッチが少し硬いことと、速度調整に対する反応が敏感すぎる傾向こそあるものの、左手親指で簡単に操作できるのがいい。

ロードグライドのウィンドプロテクションは、ストリートグライドに比べて時速20マイルほど速い速度まで対応している感覚だ。ストリートグライドは時速60マイルほどで風圧を負担に感じるようになるが、ロードグライドであればこの地域の速度制限である時速70マイルでも全く気にならない。

このあたりの捉え方は乗車姿勢や体格にもよって変わってくるはずだが、特にオーディオを聞いているときに、風の巻き込み音がロードグライドのほうが大幅に少ないことのメリットを享受できる。


CVOストリートグライド。市街地では見た目のとおりロードグライドより軽快に走れる(写真:Getty Images for Harley-Davidson)

高速クルージングしながらCarPlay経由でApple Musicの好きなメニューを楽しめるなんて、贅沢な時代だ。今回のCVO2車種には両方ともロックフォードフォズゲートの高性能オーディオが標準装備されるが、そのスピーカーがフロントカウルやリアのサイドケース内で占める面積はかなり大きい。音楽を聞かせながらクルージングさせることを、ハーレーが大きなアドバンテージにしたいという意向の表れだろう。

モーターサイクル用としてはかなり大きな4つのスピーカーは、ソースにもよるが時に絶妙なバランスで前後/左右からライダーを包み込む。キーの高い男性ボーカルなどは最高だ。クルーズコントロールと併用すれば、そのまま陸地の続く限りどこまでも走っていけそうな特別な没入感をもたらしてくれる。

このオーディオには、速度に応じて音量を調整してくれる機能も備わるが、信号待ちや静かな山道では意識してボリュームを控えめにしておいたほうが文化的かもしれない。

魅力的なVツインのエンジンサウンド

オーディオに頼らずとも、ハーレーのVツインサウンドはとても魅力的だ。45度というバンク角度がもたらすスキップを踏むようなビートと、まろやかなエグゾーストノートがスロットル開度やエンジン回転数に応じて絶妙にからみあい、振動とともにライダーを喜びの世界に誘う。

とりわけ新しいCVOのエンジンは、低速域でのレスポンス、高回転域でのなめらかさに大幅に磨きがかかっている。1500rpmから5000rpmの範囲で、どこからでも豊かなトルクを満喫できる。

レブリミットは5500rpmに設定されているが、その時点でもなめらかな回転感覚は維持されていて、「おや、もうシフトアップか」と気がついてようやくギアチェンジするようなシーンが何度もあった。115ps/4500rpm、最大トルク189Nm/3000rpmのスペックは、その数字から想像するよりずっと大きな力を秘めているように感じた。

ヨッヘン・ツァイツCEOが「3年をかけて熟成し、まったく別物に生まれ変わった」と表現する新しいCVOは、スタイリング、ハンドリング、パワーユニットすべての面で、熟成されたマイルドさを打ち出したモデルになった。

無骨さ、不器用さを排除して、世界最高のクルージングバイクを目指した作品であり、ドイツ出身のCEOとさらなる国際化を目指すハーレーダビッドソンの姿勢が前面に出たモデルと言える。

(田中 誠司 : PRストラテジスト、ポーリクロム代表取締役、THE EV TIMES編集長)